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第五章 嘘と死亡フラグと紅の聖女
聖教国の神官
しおりを挟む早朝に、ギルマスから呼ばれた時点で嫌な予感はしてたんだよね……案の定、当たったよ。回れ右して帰っていいかな。うん、帰ろう。
「帰さねーよ」
ギルマスが隣に立って、ドアに手を置き私を睨み付けている。
「なんで、神官がここにいるの!?」
私が犬だったら、絶対マズルに皺を寄せて、牙を剥き唸ってたわね。
「俺に訊くな」
ギルマスの返答に、さらに牙を剥く。私が神官が大嫌いだって知ってるよね。信用だだ下がりだよ!!
「おはようございます、アキ様」
満面な笑顔で私とギルマスの間に割って入ったのは、この中で一番高位であろう神官だった。
この神官、隙がない。それに、微妙に祭服のデザインが違う。聖王国の神官じゃないわ。だとしたら……
なるほどね。私は悪名高くて有名。当然、私の本名を知っているはずなのに、あえてこの呼び方。それなりに調べて、配慮はしているみたいね。まぁ表面上だけだろうけど。そうでなければ、初対面でアレはないわ。
仕方ない。私は気持ちを切り替える。
スイッチが入ったってこういうことかな。スーと感情が消え無表情になる。高位ランクの魔物と対峙した時みたいに。
ギルマスはそんな私を見て苦笑してるし、ユリアは戦闘モードに。キルは難しさと困惑が混じった表情をしている。
ちょっとしたカオスだよね。なので、狭い応接室内はピリピリした空気で満たされている。
そんな中で表情一つ変えることなく、笑顔のまま、高位の神官は私だけを見ていた。
「聖教国の神官様が、私になにか用でもございましたか? なければ帰りますが」
初対面の相手に対して失礼な態度だってことはわかってはいる。だけど、私にとってそれはどうでもいいこと。これで、私に関わらなくなってくれたらめっけものだわ。でも、残念だけどそうはならなかった。
「実は、依頼を受けていただきたくてお願いに参りました」
ここまで拒否ってるのに、依頼って……面の皮厚すぎでしょ。反対に警戒するわ。警戒しなくても一択で決まってるけどね。ユリアも後ろから断るように言ってるし。
「お断りします」
誰が、神官の依頼なんて受けるか。
アレと一緒になって私を拒否し、人権さえ奪おうしただけでなく、奴隷に落として、死ぬまで人間発電機として働かせようとしていた奴らの関係者だよ。直接関わっていなくても、嫌なものは嫌。
「断るにしても、せめて、依頼内容だけは聞け」
ギルマスに叱られた。
「訊く必要はないわ、ギルマス。少なくとも、初対面でいきなり鑑定スキルを発動する人間、私は信用しない。マナー違反もいいところでしょ。貴方は聖教国で、それなりに高位な方かもしれませんが、私は貴方がたとは違い礼儀も知らない荒くれ者です。だとしても、最低限の礼節はわきまえていますよ」
名前は名乗らなくてもいい。訳ありが多いから。でもね、鑑定スキルを持ち出すのはアウト。
私は冷たく厳しい声で言い捨てる。そして、そのまま応接室を出ようとした時だった。
さっきまで、笑みを崩そうとしなかった神官が、私に対して深々と頭を下げた。同伴していた神官たちも私に頭を下げる。
「申し訳ありません。試すようなことをしてしまい。私は順序を間違えてしまったようです。まず、私たちはアキ様に頭を下げ、謝罪しなければならなかった。監督不行きのせいで、貴女を長年苦しめたこと心からお詫び申し上げます」
吃驚したよ、神官たちが私に頭を下げるなんて。でも、されたことが無しにはならない。当事者は未だに私のことを罵り憎んでいるのだから。まぁ、私も許しはしないけど。
「話はそれだけですか? なら、失礼しますね」
今度こそ、私たちは応接室を出た。
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