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第五章 嘘と死亡フラグと紅の聖女
念には念をいれて
しおりを挟む気持ち的には転移魔法の魔法紙を使ってさっさと戻りたかったけど、さすがにこんなことでは使えない。なので、強化魔法を使いまくって走って帰ってきた。まぁ、万が一にも神殿側に見付かると厄介なのもあったしね。そんなヘマはしないけど。
乗り合い馬車の三分の一の時間で帰ってきた私たちは、早速、冒険者ギルドに足を運んだ。
「お~帰ってきたか、アキ」
私がギルマスの不在を職員のユリちゃんに訊く前に、ギルマスから声をかけられた。返事をする前に親指をくいっと上に上げると、ギルマスは踵を返し二階に引き返す。
私はユリちゃんに手を振り階段を上る。通されたのはギルマスの執務室だった。
「それで、どうだった?」
座るやいなや、ギルマスは訊いてくる。一応、預かってきた手紙をギルマスに渡す。一緒に、魔法具も渡した。念のために複写しているので大丈夫。保険は大事だからね。
「まずはこれを。青年の名前はルシア、ヘルクガ村の宿屋の次男です。宿屋と言っても、ほぼ農家な感じですね」
「聖王様の特徴、全然受け継いでないじゃねーか。それに、変化の魔法具で、髪と瞳の色を誤魔化すって……相当罰当たりだな」
呆れてはいるが、さほど驚いてない様子に、神殿のやらかし度合いを知ったね。
「それが、そうでもないんですよ、ギルマス。ルシアの称号は〈聖王の器〉です。神殿はよく見付けましたね~感心しました。なので、あながち嘘じゃないんですよ。困りましたね」
「聖王の器!? なんだ、それ?」
わかる。私も鑑定した時、とても驚いたからね。同時に、本物だと確信したわ。
「ちょっと突っ込んで鑑定したんですが……称号の力もあって、運力と守護系がかなり高いです。私と違って、世界に愛されていますよ、彼は。あとは報告書を読んでくださいね」
そう言いながら、私は机に置いてあったメモ用紙を一枚捲ってちぎると、直接文字を記入した。
一応、話す前に防音結界は張ってある。だけど、この時点で、室内に魔法具が仕掛けたりされていたら筒抜けだからね。
スタンピード以後、冒険者ギルドは神殿と国から一線を引いている。元々が独立組織だから許されるんだけどね。なので、特に今は警戒を怠るわけにはいかないの。なんせ今は、聖王様発見のニュースで王都はもちきりだからね。
それでなくてもこのスキルに関しては、それを抜きにしても、念には念をいれて、他には漏れないように配慮しないといけない。
非常に危なくて、脆いスキルだから――
〈蘇生魔法が一度使えるみたいです。ただし、自分の命と引換えになるようですが〉
言うまいか悩んだけど、一応報告することにしたの、蘇生魔法のこと。ギルマスが利用するとは考えにくいけど、神官たちよりはかなりマシ。比べられないほどマシ。
でも、この人も狸だからな……それでも、命の重さを知っている人だから大丈夫だと思う。反対に、黙ったままにしていて、後に神殿が利用しようとしたら、対処が後手に回ることになりかねないからね。
まぁ、助けるのは私じゃないけどね。
それでも一抹の不安は残る。そもそも、上級ランクの鑑定スキルがなければ、蘇生魔法のことはわからないから安心なんだけど……文字化けしているはずだから読めない。確か、神殿に上級ランクの鑑定スキルを持つ人はいないはず。
鑑定して思ったんだけど、神聖魔法の属性があれば、こっちの方がよっぽど聖女らしいよね、男だけど。聖女様のように嫌な意味で都に染まらなければいいけど。
ギルマスは小さく頷く。
私はそれを確認すると、その場でそのメモ用紙を燃やした。
「それから、これは私なりの忠告なんですが、聖女様に精神関与の魔法を封じる魔法具が必要だと思いますよ。魅了のスキル、もう少しで中級クラスになるから。あ~ちなみに、治癒と浄化はまったく上がってなかったわ」
神聖魔法を使ってこそ聖女様なのにね……
「じゃあ、やっぱり……」
ギルマスが言いたいことはわかるよ。
だいたいさ、同じ神聖魔法でも、個々によって魔力の色っていうか……質が違うものなの。だから、魔力に精通している人なら違和感を感じると思う。今回は今までの行いからも違和感を感じたと思うけどね。それも、聖女様を知っていたらの話になるけど。
少なくとも、聖女様に迷惑をかけられた人は気付くよね……なのに、沈黙を守っているのが怖いわ。一度、その筆頭に話を聞く必要があるかも……
久し振りに、明日学園に登校しようかな。
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