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第五章 嘘と死亡フラグと紅の聖女
聖女の我が儘と小さな綻び
しおりを挟む高ランク、低ランクに関係なく、冒険者に野宿はつきもの。
実際、宿に泊まれるなんて早々ないよ。移動手段が主に自分の足か乗合馬車、運が良くて、途中で荷馬車が拾えるくらいかな。強化魔法を用いて走れば別だけど。あとは、転移魔法が使えれば楽かな。でも、転移魔法ってかなりの魔力を必要とするんだよね。スタンピードの時に使った転移紙は高いから緊急用だし。それに、自分が一度いったことのある場所にしか移動できない制限もある。帰りは楽だけどね。
あと必要なのが、生活魔法のクリーン。
大概の冒険者はこれを習得しているの。よほど、魔力がない限りね。だって、その間、お風呂が入れないんだよ。魔物を討伐すれば返り血も浴びるし、泥汚れもする、身体なんて汗でベタベタだよ。それに、トイレ事情もあるからね……ほんと、必須だよ。なのに、冒険者ギルドは臭いから困る。
あとは、マジックバッグかな。ピンからキリまであるけど、私が持っているのは、私が冒険者になった祝にニノリスさんがプレゼントしてくれたもの。正直、どのくらい入るかわからないけど、時間停止の効果が付与されてるからとっても役に立ってる。調理済みの食料や、冷蔵食料を保管できるならね。
ちなみに、狩った魔物の肉やドロップ品は収納魔法で別の空間で保管。そのまま口にいれるマジックバッグには、ちょっとね……きちんと整理されるから大丈夫ってニノリスさんは言ってたけど、気持ち的なものかな。
なので、予定していたよりも早く町を出ても大丈夫。私たちは、村人たちに気付かれないように、少し離れた場所で野宿を楽しんでいた。
そして、お茶とお菓子を食べながら、偵察にいっていたキルの帰りを待っていたの。
ほどなくして戻ってきたキルは、「聖女を乗せた馬車が大幅に遅れているみたいだ」と開口一番、そう報告してきた。
「え~!! 聖女の乗った馬車が遅れてるの!? どうして!?」
この村までは一部悪路はあるけど、それさえ気を付ければ、特に問題ないはずだよ。スタンピードの後だし、厄介な野盗や高ランクの魔物は出ないはず。出るとしたら、雑魚ばかり。お飾りの神兵でも倒せるレベルだよ。
「偽聖女が、もう旅は嫌だって駄々をこねてるらしいぞ」
呆れと怒りを含んだ声でキルが告げる。
元神兵のキルにとって、聖女の行動は私たち以上に不快に感じてるよね。でも、偽聖女って……一応、神殿が認めたから、偽じゃないんだけど。公式ではセラスティーアが正式な聖女だからね。でも、そう言いたい気持ちは理解できるよ。
「調教したいですね……」
今はっきりと調教って言ったわね、ユリア。隠す素振りもしないよ、この人。確かに、すっごく鞭とか似合いそうだけど。あと、教鞭をとるときの指し棒とか。
「あ~ありそう。田舎になるにつれ、宿屋も食事も庶民的になってくるからね~贅沢になれた聖女様には苦痛じゃない」
私は苦笑しながら答える。
数年前までは平民なのにね……
一度、贅沢に慣れると駄目みたいね。まぁ、その贅沢具合がずば抜けてたけど。学園内では逆ハーレム状態だったし、その中には王族が二人もいたから仕方ないよね。望めば、なんでも叶ってたらしいし。そんな蜜を知ったら、田舎は無理だわ。嫌悪感さえ抱いてるんじゃない。
「だろうな」
「なら、予定を変えるかもね」
「どういう意味ですか? アキ様」
ユリアが無邪気な顔で尋ねてくる。君、少し前に調教って言ったよね。明暗、はっきりし過ぎてるよ。ユリアらしいといえばらしいけど。
「迎えに行くんじゃなくて、合流することになるんじゃないかな。目撃者なんてほぼ皆無だし、口裏合わせは簡単だと思うよ。容姿を変える魔法具を使うこともね」
実は……聖王が発見された村に、金髪碧眼いなかったの。それらしき青年はいたけどね。イケメン度半端なかったわ~。なので、聖女を待ってたの。らしきでは駄目だから。
「そういう所から綻んでいくのだと、なぜ気付かないのでしょうか」
ユリアの台詞に、私は紅茶を一口飲んでから、「そうだね」と小さな声で答えた。
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