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第五章 嘘と死亡フラグと紅の聖女
貸一つですね
しおりを挟む「おっ!? やっと降りてきたのか、チビ」
階段降りてくるのを見た途端、待ってましたのように馬鹿にしてくる冒険者。程度の低いまたの名を荒くれ者。
ほんと、脳筋って学習能力皆無みたいね。ほとほと呆れるわ。
それにしても、仮にも冒険者を名乗るなら、私の背後から異様な殺気を発してるの感じないのかな? 現に、ユリアは女子とは思えないほど小さくて低い声で「殺る殺る殺る」と呪文のように呟いているし。キルもそこまでじゃないけど、やれやれ感出しながら、さも当然のように「殺るか」って言ってるし。
正直、あのギルマスの配下に、こんな無能が一定数いるなんて信じられないわ。まぁそれだけ、人手が足りないからなんだけど。スタンピードの回数が、ここ最近狭まってきたのも原因の一つね。
「……でも、これはないわ~」
思わず口に出ちゃったよ。特に問題はないわね。
「なんだと!? って、おい、なに跪いてるんだ!?」
荒くれ者を見下ろしていた私の空気がスーと変わったことに、脳筋はまったく気付かない。
だけど、気付いている者、本能で感じとった者は自然と跪く。簡単に言えば、威圧で抑え込んだだけだけどね。
威圧と殺気は違うけど、これを感じ取れないなんて、かなりの無能だわ。良い線引きになったんじゃない。受付嬢がなにも言わずに筆を走らせている。この受付嬢はかなり強者で優秀みたい。
これはギルマスに貸し一つかな。
「五月蝿い、小蝿が粋がるな。別にお前たちがどう騒ごうが別に気にはしないけど、何度も目の前を横切るのは目障りよ。うせろ。ここは無能がいていい場所じゃない」
低いが、私の声は冒険者ギルドに響き渡った。
この荒くれ者なら、私がこんなことを言うと顔を真っ赤にしてキレるはずだけど、ギルド内は静寂だった。誰一人音を立てる者がいない。受付嬢も手を止めている。
当然ね。
私は自分の声に魔力を込めたの。精神に関与する魔法を直接かけたわけじゃないけど、格下の相手を黙らせ、動けなくすることぐらい簡単。こんな無能にスキルを使用するのは勿体ないからね。ユリアやキルには効かないけど。
ゆっくりと、私は階段を降りる。
そして、荒くれ者の隣で立ち止まった。
「私が今ここで、お前の心臓をナイフで貫くのも、首を掻っ切るのも簡単にできる。これが、お前と私の実力の差よ」
そう冷たい声で言いながら、私は荒くれ者を下から見上げた。荒くれ者の目に恐怖が見える。気付けば、冷や汗もかいてるみたい。
今、気付くの!? おっそ。でもまぁ、気付かないよりはマシかな。でも、このまま冒険者を続けていけるのかは、また別の話ね。しょせん冒険者っていうのは、超実力主義で自己責任の世界。私ができるのはここまでかな。
「……でも、褒めてあげる。Sランクの冒険者に何度もチビって言った度胸はね」
にっこりと微笑みながら告げると、さっさと冒険者ギルドを後にした。
「今日はベッドに寝たかったけど野宿に変更かな。予定より数日早いけど、出発しようか」
「なにを仰っているのですか!? アキ様が気を使い出発を早める必要はありません」
速攻、真顔で否定されたわ。っていうか、気を使ってるのわかっていたのね……それに驚きだよ。
「休める時に休む。これも大事だと思うぞ」
いや、使う場所、微妙に違うと思うけど。
「……わかったわ。今日は宿屋に泊まるけど、代わりに、出発は明日だからね」
これが妥協点よ。しょうがないよね、私のパーティー三人なんだから。
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