大嫌いな聖女候補があまりにも無能なせいで、闇属性の私が聖女と呼ばれるようになりました。

井藤 美樹

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第四章 死亡フラグも監禁フラグも潰します

ありがとう

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 どっちにせよ、私から手を出せば相手の思うツボ。だから、私の方も傍観するしかないんだよね……なんか、昔読んだ不良漫画のチキンレースみたいな感じ。

「……まぁ、たぶん、行動を移すのは私が先じゃなくて、神殿側ですね」

 そんな気がする。私って我慢強いし、それに先に動いたら、辛うじて立ったままの死亡フラグに元気が戻りそうだよ。

「なにかしてきたら、遠慮なく言うんだよ。俺も防波堤ぐらいにはなれるからな」

 サルシナ先生はそう言いながら、私の頭をポンポンと叩いてくれた。結構、これ好き。

「はい」

 私は幸せ者だ。

 赤い目だから、親に捨てられ殺されかけた。迫害を受け続けた。でも私には、私を愛してくれるケイ兄さんやジュリアがいて、ケイ兄さんの相棒のニノリスさんに出会って、世界が広がった。知識を与えてくれて、戦い方を教えてくれた。

 私の赤い目をケイ兄さんやジュリア、ニノリスさん、そしてユリアたちは気にしない。一つの個性、ただの色だと思ってる。

 そして、ここにも気にしない人がいる。

 サルシナ先生とセルシド殿下だ。

 彼らは私自身を見てくれている。若干、セルシド殿下には引かれてるけど。でもそれは、赤い目のせいじゃない。それが、どれほど私にとって幸せなのか……たぶん、彼らは一生気付かないよね。

「このあとは、ギルドに顔を出すの?」

「はい。一日一回は顔を出さないと、なんか落ち着かなくて」

「その若さで、仕事人間になるなんて可哀想に」

 半分冗談だと思うけど、サルシナ先生に嘆られた。

「セルシド殿下はどうします?」

 真面目なセルシド殿下が、授業をサボることはないとは思っていたけど、一応誘ってみた。

「……俺も同行してもいいか?」

「いいよ。一緒にいこう」

 予想外の言葉だったけど、私は承諾した。そういうのって、友だちってやつかな。だとしたら、嬉しいな。あまり、同学年の子と話したことないから。

「それじゃあ、俺は戻るよ」

 サルシナ先生は片手を上げ学園室に戻った。

 私とセルシド殿下は並んで町中を歩く。背後にはユリア。さっきから、ユリアの圧がすごいんだけど。

 なに? 私に友人ができるのが、そんなに嫌なの?

 さすがに注意しようと思ったタイミングで、セルシド殿下が口を開く。

「……アキ、俺もサルシナ学長のような防波堤にはなれないけど、それでも、なにかして欲しいことがあったら遠慮なく言って欲しい」

 直接顔を見ながらじゃないけど、だから却って、セルシド殿下の言葉が心に染みる。

「…………前から訊こうと思っていたけど、どうして、私を気にかけてくれるのです?」

「敬語はいいよ、学園でも……俺はあの魔力測定の儀にいたんだ」

 そういえばあの時、王族関係者がいたわね。思い出した、確かにいたよ。

「晴れの場を乱してしまったよね」

「それは、アキにとって必要なことだったし、悪いのは神殿とゲンジュ公爵だ」

 そうキッパリと言える人間がどれほど貴重な存在か、セルシド殿下にはわからないよね。

「まぁ、そうだけど……」

「俺は羨ましかった。アキが持っている魔力量が。俺は、出来損ないだから……実際、兄上たちには出涸らしって言われ続けてたから、特にそう思った。それに、誰一人味方がいない中で、堂々としている姿に憧れと妬みがあったんだ」

 私とユリアは黙って、セルシド殿下の話を聞く。

「入学試験の一次試験の発表の時、俺、アキのすぐ近くにいたんだ。そして聞こえた。五歳の時にすべて丸暗記していたって。その時思ったんだ、死にものぐるいで努力をしたから、あんなにも堂々とできたのだと。確かに、アキは天才で才能溢れてて、常人には計り知れない力があるけど、でも、才能に溺れない。努力の天才なんだって知った。俺は自分が恥ずかしくなった。アキはそれを気付かせてくれた」

 照れくさそうにニコッと笑うセルシド殿下。いつもの無表情とは違う。破壊力ありすぎだよ。さすが王子様。

「セルシド殿下、私の方こそありがとう。とても嬉しいです。でも、一つ訂正するわ。セルシド殿下は出来損ないや出涸らしじゃない。そもそも、あの兄さんと比べるなんてないわよ。魔力量なら増やせるし、剣の腕も鍛えれば伸ばせる。限界なんて自分が決めることじゃないわよ。Sランクになった今も学ぶことは多いし楽しい。いい、身体に叩き込んだことは絶対に忘れないから。それが、一番の財産なの」

 呆気にとられながらも、セルシド殿下は大きく頷いた。

「……ありがとう、アキ」

 こちらこそ、ありがとうだよ……



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