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第四章 死亡フラグも監禁フラグも潰します
慰霊祭
しおりを挟むスタンピード終結から一週間後、ようやく王都も落ち着きを取り戻し、やっと犠牲者の慰霊祭が執り行われることになった。会場は、魔力測定の儀をした、あの場所だ。
この日ばかりは、王都に住む人たちは黒い服を着るか、腕に黒い布をピンでとめて働いている。活気はなく、王都の住人はそれぞれ自分なりに喪に服していた。
冒険者として討伐に参加していた私たちは、慰霊祭に参加することにしたの。私も黒いワンピースを着て、顔をベールで隠す。神官の祈りの言葉を聞きながら目を伏せ、静かに犠牲者の冥福を祈っていた。
騒ぎが起きたのは、神官の祈りが終わった時だった。
「なぜ、お前がここにいる!?」
気難しそうな貴族の男が、待っていたかのように、私に向かって詰め寄ってきた。後ろに騎士を二人従えさせているから、それなりの位か役職に就いている人だと推察できる。知らない人だけど。
それよりも、今さっきまで、ここでなにが行われているか理解してる? 式が終わったからといって、即解散じゃないのよ、と文句を言ってやりたいが、場が場なのでグッと我慢する。
あまりにも神経を逆なでする怒鳴り声に、私だけでなく、残っていた人たちも眉をひそめた。
「アキ様、知り合いですか?」
冷え冷えとした声でユリアが尋ねてくる。
「貴族の知り合いはあいつしかいないわよ」
「なら、なぜ宰相様が?」
理由を知りながら、ユリアは訊いてくる。ほんと、なかなかいい性格をしているわね。というか、普通に宰相様の顔を知ってたんだ……ニノリスさんの侍女って不思議だわ。
「思い当たることといえば、今日、国王陛下から城に参上する旨の手紙が届いてたわ。当然、無理だから断ったけど」
悩む余地ないわよ。
「なぜ、断る!? 今すぐ、参上しろ!! 国王陛下を待たす気か!!」
宰相様が再度怒鳴る。やっぱり、手紙の件ね。
「いけない旨の手紙は出しています。魔鳩便の特急で昨日のうちに返信していますよ」
そもそも、着いたのは昨日だからね。おかげで、結構な出費になったよ。
「だとしても、生意気な!!」
知っていたわね、宰相様。
「生意気ですか? 私は慰霊祭の方がよほど大事なことだと判断しただけですが」
「ならば、今からでも登城せよ!!」
威圧的な言い方よね。怒鳴れば言うことを聞くと思っているのだから。ほんと、貴族って好きになれないのよ。全員がそうとは思わないけどね。少なくとも、救命所で必死で看病し積み荷を運んでいた彼とは雲電の差よね。
私たちの騒ぎを聞きつけてきたわ。格好から見ても、冒険者の一員としての出席ね。救命所の時もそうだっわ。
「お断りいたします。まだ、弔いは終わっておりませんから。それでよろしいでしょうか? 否と言うのであれば、周囲を見てから言ってくださいね」
私がそう告げると、そこでやっと、宰相様は自分が国民からどう見られているか理解したそうね。
完全にアンフェアだと理解したんだね、「チッ」と舌打ちを打って立ち去った。
いなくなってから、ユリアにコソッと尋ねた。
「あれで、宰相って務まるの?」
思わず心配しちゃったよ。それほどに、態度が悪かった。舌打ちないでしょ。そもそも、慰霊祭で大声を上げるのは非常識だわ。
「宰相補佐の方がとても優秀だと聞いております」
パワハラ無能上司に、とても優秀な補佐。回される 仕事量半端じゃないよね……きっとブラックの社畜だわ。
「そうなんだ~で、貴方は冒険者として弔いにきたの? 第三王子殿下」
「クラスメイトなんだから、セシルドと呼んでくれると嬉しいな、アキ。でも今は、セシルで。その名前で冒険者ギルドに登録しているから。俺は冒険者の一人として弔いにきた」
始めは苦笑だったけど、セシルド殿下の段々難しい表情へと変わる。
「そうなの。セシルは身バレするかもしれないのに、助けにこようとしてくれたの?」
「あまりにも、酷すぎる態度だったから。犠牲者にもアキにも。本来なら、この場に国王陛下がこられるべきだった。強いて言うなら、スタンピードの時も……」
王族の中にも、まだまともな人はいたのね。
「セシル、それは口に出さないほうがいいわ。誰が聞いているかわからないからね。もし言いたいのなら、力を持つことよ。確固たる自分の力をね」
ズイッと身体を半歩近付け、私はセシルト゚殿下にソッと囁いた。これは私からのアドバイス。忠告でもあるかな。おそらく、セシルド殿下は孤立していると思う。ましてや、第三王子。なんか、危ういんだよね……
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