大嫌いな聖女候補があまりにも無能なせいで、闇属性の私が聖女と呼ばれるようになりました。

井藤 美樹

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第三章 スタンピードと神聖魔法

スタンピード終結と浄化魔法

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「……とりあえず、〈浄化〉が使えるのなら、今回使ってみてくれ」

 ギルマスのお願いに私は頷く。始めから、そのつもりだったからね。

「どれぐらいの効果があるか確認したいし、属性のレベル上げもしたいので、私的には全然構わないですよ」

「あ~頼むわ。……それにしても、変わらないな。ますます酷くなっていないか?」

 私に引っ付くケイ兄さんをギルマスは呆れながら見ている。

「うっせーぞ。出稼ぎに行っていたんだから、アキ不足なんだよ。少しは補充させろ」

 訂正するのもめんどいけど、この台詞かなりヤバイよね。見た目もあいまって……

「いい加減にしてやれ。ほら、見てみろ。アキが遠い目をしてるじゃないか」

 ギルマスが注意してくれるけど、ケイ兄さんはまったく聞きもしない。

「アキ、このスタンピードが終わったら、お兄ちゃんと美味しいものを食べに行こうな」

 私のお尻の下に腕を入れて軽々と持ち上げた。子供抱っこだ。

「いいの!! だったら、私は――」

 そこまで言ってから、私は途中で言葉を止めた。キルがいなくなっていたからだ。

「ユリア、キルを知らない?」

「さぁ、子供ではないので行先など知りませんが」

 冷たいユリアの声が返ってきた。

「ケイ兄さん、下ろして」

「相手は子供じゃあないんだぞ、それにあいつは……」

 ケイ兄さんは難色を示す。確かに、キルはあの場にいた神兵だけど、今は違う。

「いいから、下ろして」

 私はややキツイ声で言うと、ケイ兄さんは渋々下ろしてくれた。

「キルを探しに行ってくるから、ユリアとケイ兄さんは適当に休んでいて」

「どうして、そこまであの男に関心を持つのです?」

 さらに冷たい声でユリアに訊かれた。

「死にたがっていた男を、この地に留まらせたのが私だからだよ」

 選んだのはキルだけど。私は無理矢理、彼に選ばさせた。少し罪悪感があるんだよね。

「……わかりました。アキ様らしいですね。キルの居場所なら大体想像つきますよ」

 ユリアが盛大な溜め息を吐きながら言う。

 ユリアが案内した場所は死体安置所だった。キルはそこで弔いの祈りを捧げていた。

「アキ様……?」

 ユリアの声に答えずに、私はキルの隣に膝を付くと同じように弔いの祈りを捧げた。キルが驚いたように私を見てから、祈りを再開する。

 やはり慣れないわね。冒険者をしていると、人の死に直面することが多い。ここに安置されている人はまだマシな方。大半は、弔いの祈りを捧げることもできない。

 でも、同じ死――

 この祈りがここだけでなく、このスタンピードの犠牲者に対して届くことを願って、私は弔いの祈りをした。

 その中には、キルの家族もいる。

 結構長い間祈っていたと思う。肌寒くなってきたから。私が顔を上げると、キルも顔を上げる。

「……感謝するよ、アキ」

「別に感謝されることじゃない。人として当たり前のことをしただけだから……キル、貴方の神罰が解ける日がきますように」

 私はキルの画面に手を添えて祈った。

 人は罪を犯す生き物。

 だけど、その罪に向き合うことができる生き物だと思うの。少なくとも、キルは向き合って生きてきた。私はそれを、この数日でよく知った。だから、私は切に祈ったの。




 スタンピードの進行状況を見にいっていたパーティーが戻ってきた。

「黒い群れが、こっちにまっすぐ向かっている!! 想像していたより速いぞ!!」

 その報告で本部は緊張感に包まれる。

「ご苦労さん。じゃあ、俺は狼煙を上げる」

 それで、配置に付いているCランクの冒険者に、魔物の群れが近付いていることを報せるの。

「私たち六人は、残りの魔物を討伐するわ」

「さらりと、俺も勘定にいれたね、アキ」

 私の台詞をサルシナ先生が咎める。

「当然じゃないですか、元Sランクの学園長先生」

「この俺に、そんな軽口を叩けるのは、アキ君だけだよ」

 溜め息吐きながらも許してくれるんだよね、サルシナ先生って。

「俺は~」

 ニノリスさんの存在はガン無視だけど。

「とりあえず、私が先にいくね。〈浄化魔法〉試したいし」

 私がそう告げると、サルシナ先生が興奮して私に詰め寄ってきた。途端に、ニノリスさんに確保されていたよ。

「浄化」

 私は手を前にかざし、魔物の群れに向かって小さな声で呟く。

 治癒魔法と同じような光の魔法陣が魔物がいる地面に浮かぶ。途端に、陣内にいる三分の一ぐらいの魔物が断末魔を上げ消えた。

「えっ!?」

 思っていたより、広範囲で驚いたよ。初級なのに。これも称号の効果かな。残り三分の二のランクは? 鑑定魔法で確認するとCランクにまで落ちていた。

「Cランクまで落ちたよ~~どんどんいくね」

 大声でそう言うと、〈浄化魔法〉を打ちまくった。

 なるほど、なるほど。重複して魔法がかかると、Eランクまで下がるんだ。でも、それ以上は下がらない。初級で、直径約十メートル。横に連打すれば、漏れた魔物のレベルを下げれるわね。〈浄化魔法〉っていっても、基本、他の属性魔法と同様に扱えるわ。でも、闇魔法と同様、他の属性魔法より魔力を消費する。考えながら使わないといけないわね。

 ――ステータス 浄化魔法。

 心の中でそう呟くと、ステータス画面が現れた。

「かなりの数を展開させたと思うけど、レベル三か……覚えるスピードは、どの属性魔法よりも遅いわね」

 今回はこれぐらい知れたらOKかな。

 あらかた、魔物に〈浄化魔法〉をかけ終わると、双刀に替えて魔物を討伐した。

 一気団結したおかげで、最終防衛線、無事に護れたよ。死者は出ず。負傷者も少なくてすんだ。もちろん、全員治したよ。

 
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