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第三章 スタンピードと神聖魔法

色々試してみました。騎士団員たちで

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「…………ユ……ユリア?」

 どうやら、私はユリアの膝枕で寝ていたみたい。ユリアも疲れたんだね……寝顔初めて見たわ。あ……そうか、私魔力切れを起こして、気を失ったんだった……近っ!!

「アキ様!! どこか痛いところはありませんか!? 気持ち悪くはありませんか!?」

 近い近い!! 人から誤解される距離感。距離感バクッてる。覆い被さらないで!! でも、おかげでハッキリと目が覚めたよ。

 私は慌てて身体を起す。うん、フラフラしない。手先も痺れてない。

「大丈夫。頭もスッキリしてるし、魔力もだいぶん回復したみたい。もしかして、ずっと膝枕してくれてたの? ユリア、心配かけちゃったね、ありがとう。それで、何時間寝てたの?」

 私が冒険者の救命所を訪れたのは、陽がまだ高々に上っていたはず。でも今は暗い。六時間以上は寝てたわね……

「一日半です」

「一日半!? もしかして、ずっと膝枕してくれたの!?」

 足痺れてない? 笑っているから大丈夫そうだけど。

「アキ様は軽いので平気でした。とても可愛い寝顔でしたよ」

「もう、何度も見てるでしょ!!」

「見飽きませんから」

 キルは私とユリアのやり取りを微笑ましく見ていた。でも、その目の奥には悲しみがあることを私は知っている。

「こんな平凡な顔を……まぁ、いいわ。その前に」

 認識阻害の魔法を私たちの周囲に張り巡らせた。余計な人に見聞きされたくないからね。

 私は〈ステータス〉と心の中で呟くと、空中に文字と数字が浮かぶ。

 HPは全快、MPは三分の二か……あと属性だけど、やっぱり、今までグレーだった〈神聖魔法〉が濃い文字で書かれている。えっ!? この称号、なに? 〈神聖魔法〉の効果二倍って!? 使う度に効果が倍増するってマジか……チートじゃない。称号のことは後で考えよう。今は〈神聖魔法〉のレベルと使える魔法を確認しとかないと。

 えーと、回復魔法はレベル五って、一回使っただけだよね。嘘でしょ。なので、回復魔法の項目を詳細に見ることにした。ステータスと同じように〈回復魔法解除〉と呟くと、現在使える魔法が記される。

 ヒール、エリアヒール、ともに四段階。小級、中級、高級、超級、どれも使用可能になっている。

「通常とは違いますね」

 ユリアは普通に覗き込んでるけど、キルは目を逸らし見ていない。別に構わないんだけどね。まぁ普通は人には見せないから、キルの態度は当然といえば当然かな。

「ユリアもそう思った? 普通、小級のレベルを最大値まで上げたら、中級に進めるのに、始めから四級使用可能って……それに、一回使ってレベル五ってないよ」

「それも称号の影響と考えるのが妥当かと。ただ……レベル五の理由は予想ができますね」

 エリアヒール超級の消費魔力の隣に一の記されている。

「エリアヒールの超級を使ったからかな……ゴソッと魔力持っていかれたし。五百も消費するなら、魔力枯渇を起こすわ。撤退した時点で、かなりの魔力を消費してたし。でもわかったことがあるよね、超級レベルは欠損箇所を完璧に再生できる」

「もしかしたら、高級レベルでもできるかもしれませんよ。称号のおかげで、効果二倍ですから」

 まぁ確かに、ユリアの指摘は理に適ってる。超級の魔力消費量は高級の魔力消費量の倍だからね。称号で補うことができるかも。試したいけど……

「それって、どう試すの?」

「救命所はあと三つありますよ」

「冒険者に試すのは嫌かな」

「ならば、騎士団で試すといいですよ。キルもそう思いますよね」

「ああ、それがいい」

 すっごく、良い笑顔だねユリア、私が気を失ってる時なにかあった? キルも頷いてるし。 確か……騎士が一人いたよね……彼がなにかしたのかな?

 そんなことを考えていると、騒がしい声が聞こえてきた。青い軍用服? 騎士団か。怪我をしていないところを見ると、増援組か。

「おい!? ここにあの小娘が休憩しているって聞いたけどいないな……」

「必要な時にいないなんて、本当に役立たずじゃねーか。休憩してるなら働けって、こっちはわざわざ働く場所を提供させてやろうっていうのに」

「あの魔族の娘がいれば、ポーションに頼らなくてもいいしな。使い潰しても、誰も文句言わないだろ」

 ユリアの怒気凄まじい。咄嗟に腰に抱き付いて正解だったわ。

 騎士団の男たちは、私たちがいないことを確認すると違う場所に探しにいった。

「命に順番を付ける気はないけど、騎士団は一番最後に回そうか」

 正々堂々、奴隷扱い宣言されたしね。私が気を失ってる時も、似たようなことを言われたかもしれないわね。

「それでいいだろ。試すのも、騎士団でしたらいいんじゃないか」

「別に治さなくても……」

「それは駄目だよ」

 ユリアの気持ちはわかるけどね。気持ちと治療は別の話だよ。

「とりあえず、冒険者の救命所にいこうか、その後は、神兵たちの所に。最後は騎士団ってことでいいよね」

 ユリアもキルも良い笑顔だね。

 という訳で、私は認知阻害魔法をかけたまま救命所を回ることにした。まだ慣れないから、呪文を唱えてだけど。

 冒険者の皆は涙を流して喜んでくれた。神兵はなんとも言えない表情をしてたわね。散々、魔族の娘って言って蔑んでいた私が〈神聖魔法〉を使えるようになったんだもの、受け入れがたいって話よね。でも、お礼はちゃんと言われたよ。嫌々そうだったけど。

 最後に騎士団の所にいって、サラッと確かめてみたよ。欠損箇所は治せたけど少し違和感があるらしい。なので、もう一度、高級レベルをかけてみたら完全に治った。

 欠損箇所を完全に治すのは、超級のようね。称号の力が増したら変わるかもしれない。その時は、また試せばいいかな。

 そんなことを冷静に考えていると、さっき、私を探していた騎士団員が戻ってきた。

 私を見てニヤリと嗤う。そして、片方が口を開く。

「こんな所にいたのか、悪いがお前にはここにいてもらう。そして、俺たちを優先的に治せ!! 有意義に使ってやるよ」

 吐き気がする。

「貴方にそんな権利はないと思うけど」

「俺たちは、国王陛下に仕える騎士団だぞ!!」

「だから、なに?」

 そんなの私には関係ない。

 私が睨むと、騎士団員二人は怯む。馬鹿の相手はしんどいし面倒くさい。さっさと退散するのがいいわね。

 私はユリアとキルに目配せをすると、騎士団員の横を通り過ぎようと歩き出す。当然、騎士団員の一人が私の腕を掴もうとした。でも、その手は空を切る。私は救命所の入口で振り返ると、侮蔑を込めた目で騎士団員たちを一瞥し言った。

「貴方たちのレベルで、私を捕まえることなどできるわけないでしょ。低能が」

 鼻で笑って、私はその場をあとにした。

 
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