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第三章 スタンピードと神聖魔法

この世界は理不尽でできている

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 王都に戻ると、すでに全ての準備が整っていた。

 王都に通ずる城門は堅く閉まっていて、外にはCランク以上の冒険者、後は騎士や兵士、神兵が集まっていた。城門の傍には救護施設も用意している。当然、ありったけのポーションと毒消し、魔力回復薬、様々な状態異常を消す薬も。

 やっぱり、王族は誰一人参加しないのね。

 実際に参加しろとは言わない。ただ……この国の一大事なのに、その戦いを目に焼き付けも、鼓舞することもしない。どこまでも無関心。いや、護られて当然だって思っているのね、あの聖女候補のように。

 気を取り直して周りを見渡す。普段は関わることの少ない人たちを束ねて、指揮をとっていたのはニノリスさんだった。賢者であるニノリスさんはSランク以外にも、あらゆる職種の人に一目置かれている。その点をいえば、ケイ兄さんもそう。だけど、ケイ兄さんは極力聖国には関わろうとはしなかった。私が理由でね。

「ニノリスさん、今戻りました」

 私はニノリスさんの元に駆け寄る。傍にはギルマスと団長らしき人と、神兵が机を囲んで打ち合わせをしていた。

「おかえり、アキ。それでどうだった?」

 私の声に反応してニノリスさんは顔を上げる。キルはそのままで、私はあえてフードを外した。露骨に嫌な顔をする団長と神兵。私はそれを無視して答えた。

「クラリスの町は全滅。スライムが魔物も何もかも捕食していました。合体し、五メートルの大きさに成長、災害級になる可能性があるので討伐しました。残りの群れは小さいもので、こちらに向かっています」

 私がそう答えると、団長らしき人と神兵が騒ぎ出した。

「なぜ、小さい群れを討伐しなかった!!」

「小さい群れが大きくなったらどうするのだ!!」

 ほんと、うるさいな。矢面に立って戦うのは私たち冒険者でしょ。

「そう命じたのは私だよ」

 ニノリスさんの台詞に団長らしき人と神兵は押し黙る。でも、憎々しげな目で私を睨み付けている。

 そんなのまったく意に返さず、私はこういう時ってニノリスさんって私って言うんだって、関係ないことを考えてた。慣れてるからね。まぁ、討伐を嘘だと言われないだけマシかな。

「災害級になったとしても、私とニノリスさん、それにケイ兄さんがいれば対処はできます。それに、サルシナ先生も参戦してくれるでしょう」

 しんどい戦いになるとは思うけど。

「災害級を四人でだと――驕りもいいところだな」

 侮蔑した声で団長らしき人が口を挟んでくる。

「そうだね、四人で対処できるけど、ユリアもプラスして五人いれば十分だね」

 ユリア強いからな~

「災害級にならないのが一番ですけどね」

「そうだね。ならないのなら、正面から蹴散らせばすむね」

「そこらへんは、臨機応変ですね」

 団長らしき人を無視して打ち合わせしていると、プライドが激しく刺激されたのか、「不愉快だ!!」と怒鳴り踵を返した。神兵もそれに続いた。

「おい、おい、二人ともなにやってるんだ」

 ずっと黙って成り行きを見ていたギルマスが、呆れながら私とニノリスさんを咎める。口元は笑っているけどね。騎士団も神兵も口だけ。体裁を保っていただけだって言ってるようなものよ。実際そうだけどね。

「アキ、魔沼での魔物の討伐ご苦労だった。あと、クラリスのスライムも。大変だろうが、あと一踏ん張りしてくれ」

 ギルマスからねぎらいの言葉をもらい、渡されたポーションと魔力回復薬を受け取る。あれ? 瓶が違う。念のために、知られないように鑑定魔法を使った。

「任せて、やれるべきことはきちんとする。それで、このポーション、どこから支給されたの?」

 表情は崩さずに、後半は声を潜めてギルマスに尋ねた。

「騎士団と神兵たちからだが、それがどうした?」

 訝しげな声でギルマスは答える。勿論、小さな声で。ニノリスさんはわかっているみたい。口元は笑っているけど目が全然笑っていない。

「これ、かなりの粗悪品よ。傷の治りは通常のポーションの半分、代わりに強い効果のある興奮剤が混じってるわ。すぐに回収したほうがいい。こんなの飲んだら、なにも考えずに魔物の群れに突っ込む、バーサーカーになるわよ」

 私の台詞にニノリスさんも頷く。瞬時に、ギルマスは鬼のような表情になって即座に回収にまわった。

「……よくわかったな」

 私の後ろに控えていたキルが驚いた声で話しかけてきた。

「瓶の形が違ったからね、念のために。騎士団と神兵は冒険者を軽く見ているから、まず用心しないと」

「そうなのか……いや、そういう風潮はあったな。でもこれは!?」

 怒りの声を上げるキル。その声に、私は冷たく答えた。

「彼らなりの親切なんでしょ。死の恐怖を忘れさすためのね。つまり、私たち冒険者は捨て駒ってことよ。国を護れるかという瀬戸際で、このポーション。清々しいほどのクズよね。命の重さはかわりはしないのに、平気で命の選別をする。その権利があると考えている。いつから、彼らは神になったの。教えてほしいわ」

「アキ」

 ニノリスさんが私を窘める。

 わかってる。言っても仕方ないことだよね。それに今は指揮が落ちる。

「ごめん」

 私は謝り口を閉ざした。

 ほんと、この世界は理不尽でできている。

 憎めてしまえれば楽なのに、憎めない。だから困るし苦しい。それは、大切な人ができたせい。

 だから――こんな理不尽な世界が愛しく思えるのね。
 

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