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第三章 スタンピードと神聖魔法
後半戦開始です
しおりを挟む眼下に広がるのは蠢く無数の黒い塊。
「どう攻める?」
私は携帯食料をかじりながらそう尋ねると、ケイ兄さんとニノリスさんはニッコリと笑って答えた。
「「正面突破だろ」」
普段は正反対のキャラだけど、根っ子は同じなんだよね……脳筋? 戦闘狂?
「アキ、今、変なこと考えなかったか?」
ギクッ、察しがいいなぁ……ニノリスさん、ケイ兄さんと似てるって言われるの大嫌なんだよね。
「考えてない!! 考えてない!!」
「ほんとかな~」
目が泳ぎそう。こうなったら話題を変えるしかない。
「とりあえず、アレ、先にやっちゃいますか」
「そうだね」
なにか言いたそうなニノリスさんだったけど、これ以上詰問されなくてすんだよ。よかった~。
「じゃあいこうか」
私は呆然としている男の腕を掴み立たせると、再びお腹に手を回して肩に担いだ。ケイ兄さんがめっちゃ文句を言ってるけど、無視して土塀から飛び降りた。
着地地点に魔物がうじゃうじゃいるから、炎魔法で燃やして着地する。男を肩から下ろす。盛大な尻もちを付いている男に、私は見下ろしながら言った。
「なに呆けてるの? そのままじゃ、餌になるわよ。言ったじゃない、今からが貴方の出番だって」
男は私と目の前にいる魔物たちを見て、慌てて立ち上がると剣を構えた。
「繰り返し言っておくけど、足手まといにだけはならないで。今持っているポーションや毒消しは、貴方が使いなさい。この中で一番弱いんだから。それじゃあ、結界を解くわよ」
解いた途端、魔物たちは一斉に私たちを襲ってきた。しかし、私が双刀や魔法を繰り出す前に、ケイ兄さんの一振りで約三分の一が消し飛んだ。
「アキ、お兄ちゃん頑張るからな!!」
ケイ兄さんはどこでも陽気でシスコンだ。通常運転というか……
「これ、私いらなくない?」
思わず、ボヤいちゃった。実際、後二振りで壊滅だしね。でもまぁ、仕事しないと。
「とりあえず、二キロ圏内かな……」
私は風魔法を応用した探知魔法展開して、二キロ圏内にいる魔物の位置を把握することにした。蠢く音が振動となって、正確に位置と頭数を把握できるの。
バラバラになっていた群れが、一定方向に進み出してる!!
「ケイ兄さん!! ニノリスさん!! やっぱり、魔物の大半が王都に向かって進行し始めてる!!」
魔沼から出現した魔物は生きているものに引き寄せられ襲う。
「群れが一つになるのは避けられないね……」
土塀から降りてきたニノリスさんが呟く。
「クラリスの町は!?」
さっきまで呆けていた男が怒鳴る。私は男を見てから言った。
「私とこの男で、クラリスの町にいる群れを討伐するわ」
私の台詞にニノリスさんは顔をしかめる。
「アキにはクラリスを任せようかな。じゃあ、ケイは北東の群れを。俺は王都に向かうよ。はい、これ」
ニノリスさんは魔法紙を二枚渡してくれた。ケイ兄さんは不服そうな顔で頷く。
「アキ、別に全滅しなくていいよ。数を減らせればいいから」
王都の前で叩くつもりね。
そこなら、冒険者も王都の騎士たちも待ち構えている。王都の周囲には、サルシナ先生が魔法障壁を張っているはずだから、大丈夫。広いし拓けているから戦いやすいしね。
「わかった。ある程度数を減らしたら、王都に戻るわ」
「それでいいよ。それで、アキ、その男を連れていくきか?」
ニノリスさんの笑顔が怖い。目が笑ってない。
「……そのつもりだけど」
「駄目だ。理由はわかっているよね、アキ」
男が異議を唱えようとしたら、ニノリスさんの一瞥で黙ってしまった。
理由は二つ。
一つ目は、男と私の目的が違うから。私はクラリスの町の住人を救いにいくわけじゃない。だから、全滅を目的にしてないの。でも男は違う。クラリスの町を救うために動いている。
二つ目は、クラリスの町がすでに蹂躙されている可能性が高いから。魔沼から出現した魔物の中にスライム系がいたからね。スライムに扉は関係ない。隙間さえあればいくらでも入り込める。
男を連れていくだけで、足手まといになることは重々承知しているわ。それでも、私は男を連れていくことにしたの。現実を知るべきだと思ったから。
「わかってる、それでも連れていきます」
「頑固だね~」
呆れたように言いながらも、ニノリスさんは許可してくれるんだよね。
「じゃあ、いってきます。ニノリスさん、ケイ兄さん」
私は微笑むと魔法紙を燃やした。
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