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第三章 スタンピードと神聖魔法
魔沼
しおりを挟む対峙して直ぐに行動に移したのは、魔狼の方だった。魔狼は大きくジャンプをし、私目掛けて襲いかかってきた。
足場が凍り付いていてもお構いなしだね、さすがSランク。私はニヤリと笑う。
ジャンプして上に逃げることも、双刀を構えようともしない。する必要がないから。もちろん、魔法を展開しようともしなかった。ただ、私がしたのはほんの少し横に避けただけ。
魔狼の動きは単純。飛んで襲ってくれば一直線。大きさも把握している。だから数歩横に動き、ほんの数センチ差で魔狼を避けることは簡単だった。だから、双刀の一刀を逆手に持ち替える。刃を内側にしたの。同時に、上へと振り上げることもまた簡単ってわけ。あとは私の力と重力の原理で首を切り落とす。落とした首は宙を舞い、転がった。首を切り落とされた胴体は私が立つ反対側に、ドサッと音を立てて斃れた。
「まず、一頭」
私が魔狼の相手をしているうちに新しい魔狼が、三頭魔沼から湧いて出ていた。
魔狼は三方向から一斉に、私に襲いかかってきた。
上に逃げたら着地地点で待ち構えられている。それに、魔沼から出現した中型は、自分の影を触手のように扱える。前に、入学試験でサルシナ先生にした時のようにね。どこに逃げても不利。三頭を斃して、次の魔物と対峙するなら、姿勢は崩せない。
私は自分の周囲に風魔法で結界を張った。
魔狼は結界に跳ね返されて体勢を立て直そうとする。その瞬間、私はかけていた結界を解き、風魔法を真空の刃に変化させ攻撃した。魔狼たちは避けきれずに切り刻まれる。
「まぁ‥‥これじゃあ、致命傷にはならないよね」
私はポツリと呟く。魔沼の魔狼じゃなかったら終わりなんだけど。
魔狼たちは真っ黒な血を流しながら、ヨロヨロと立ち上がる。その目だけは戦意を失ってはいなかった。再度攻撃を仕掛けようとしたが、それは叶わない。この魔狼たちも首が切り落とされてしまったからだ。真空の刃を触手のように、私は意のままに操れることができる。つまり、放ったら終わりじゃない。私はブーメランのように真空の刃を操っただけ。
三頭の魔狼が斃れたと同時に、私は火魔法を放つ。真空の刃を火魔法の補助に変換して。そうすることで、炎の大きさが倍以上になり火力も上がる。
まさに炎の波が、魔沼から出現しようとしている魔狼と魔猪を襲いかかった。断末魔を上げ、崩れ落ちる魔狼と魔猪。その隙間から這い出る小型種。一気にそれらが目の前から消えた。
「……ニノリスさんが雑魚を引き受けてくれて、ほんと助かったわ」
そんな感じで戦い続けること一昼夜――
やっと、魔沼の魔素が薄くなってきた。こんな不毛な消耗戦に終わりが見えてきた……けど、そのまま終わりはしないよね。
魔狼の次は魔猪、最後は魔熊と魔蛇か……魔蛇は厄介そうね。
私は一旦、土塀の上に退避すると、ポーションと魔力回復薬を二本づつ飲んだ。あと、毒消しも同じ本数を。耐性があるといっても、無効化じゃないからね。
「魔蛇、石化と麻痺のスキル持ちか……」
鑑定魔法で確認したニノリスさんが呟く。
「石化と麻痺は厄介ですね……まぁでも、石化は間近で見ないと効果はないようですよ」
私は男を見ながら言った。私は一応、状態異常を回避する魔法具を所持してるからね。当然、製作したニノリスさんも。石化って単語を聞いて目を慌てて反らした男は石化していない。災害級だったら、ヤバかったわね。
代わりに、小型の魔物が石化している。魔熊には効かないみたい。残念。
「尾も気を付けないとね」
魔熊と魔蛇はニノリスさんが造った土塀を壊そうと躍起だ。これくらいの攻撃じゃあ、ヒビは入らない。さっき、魔力回復薬飲んでたしね。魔沼の方も、魔熊と魔蛇が出現した途端、スーと消えかかっている。これが最後みたい。
「そうですね~」
回復もすんだし、いってきますか。
土塀に足をかけた時だった。黒い影が魔熊と魔蛇を襲った。一刀で魔熊と魔蛇は斃れ消えていく。
「あいつ、最後の一番良いところをとっていきやがった」
ニノリスさんが悪態を吐く。
「ハハ……ケイ兄さんらしいよ」
力が抜けた私は座り込む。下から、やたら元気のいい声が聞こえた。
「……誰です?」
男が尋ねる。
「世界で十人しかいないSランク冒険者の一人よ。私の兄。剣聖と呼ばれてるわね。ちなみに、貴方の目の前にいるこの人は、賢者」
「……剣聖に賢者!?」
男は腰を抜かし混乱している。そんな男を冷めた目で見ながら、私は言った。
「えっ、今さらじゃない。そもそも、賢者じゃないと、これだけのことはできないでしょ」
「お~い、俺は無視か」
ケイ兄さんが大声で割り込んできた。
「ケイ兄さんは、そこに残ってる雑魚片付けて。それが終わったら、休憩しよう」
私は下に向かって大声で答えた。私は男に視線を向ける。
「ここから先は、貴方にも闘ってもらうから」
魔沼は消滅しても、魔沼から溢れ出た魔物はまだ討伐できていない。魔沼の反対側を見下ろせば、小型の魔物が無数にいた。
スタンピードはまだ終わらない。
山場を越えただけ。
ベッドで寝れるのも、温かいご飯を食べれるのももう少し先。先が見えない不毛な消耗戦はとりあえず終わったわね。
ニノリスさんは魔沼消滅を報告するために、使い魔を冒険者ギルドに飛ばした。
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