大嫌いな聖女候補があまりにも無能なせいで、闇属性の私が聖女と呼ばれるようになりました。

井藤 美樹

文字の大きさ
上 下
28 / 104
第三章 スタンピードと神聖魔法

魔沼

しおりを挟む

 対峙して直ぐに行動に移したのは、魔狼の方だった。魔狼は大きくジャンプをし、私目掛けて襲いかかってきた。

 足場が凍り付いていてもお構いなしだね、さすがSランク。私はニヤリと笑う。

 ジャンプして上に逃げることも、双刀を構えようともしない。する必要がないから。もちろん、魔法を展開しようともしなかった。ただ、私がしたのはほんの少し横に避けただけ。

 魔狼の動きは単純。飛んで襲ってくれば一直線。大きさも把握している。だから数歩横に動き、ほんの数センチ差で魔狼を避けることは簡単だった。だから、双刀の一刀を逆手に持ち替える。刃を内側にしたの。同時に、上へと振り上げることもまた簡単ってわけ。あとは私の力と重力の原理で首を切り落とす。落とした首は宙を舞い、転がった。首を切り落とされた胴体は私が立つ反対側に、ドサッと音を立ててたおれた。

「まず、一頭」

 私が魔狼の相手をしているうちに新しい魔狼が、三頭魔沼から湧いて出ていた。

 魔狼は三方向から一斉に、私に襲いかかってきた。

 上に逃げたら着地地点で待ち構えられている。それに、魔沼から出現した中型は、自分の影を触手のように扱える。前に、入学試験でサルシナ先生にした時のようにね。どこに逃げても不利。三頭を斃して、次の魔物と対峙するなら、姿勢は崩せない。

 私は自分の周囲に風魔法で結界を張った。

 魔狼は結界に跳ね返されて体勢を立て直そうとする。その瞬間、私はかけていた結界を解き、風魔法を真空の刃に変化させ攻撃した。魔狼たちは避けきれずに切り刻まれる。

「まぁ‥‥これじゃあ、致命傷にはならないよね」

 私はポツリと呟く。魔沼の魔狼じゃなかったら終わりなんだけど。

 魔狼たちは真っ黒な血を流しながら、ヨロヨロと立ち上がる。その目だけは戦意を失ってはいなかった。再度攻撃を仕掛けようとしたが、それは叶わない。この魔狼たちも首が切り落とされてしまったからだ。真空の刃を触手のように、私は意のままに操れることができる。つまり、放ったら終わりじゃない。私はブーメランのように真空の刃を操っただけ。

 三頭の魔狼が斃れたと同時に、私は火魔法を放つ。真空の刃を火魔法の補助に変換して。そうすることで、炎の大きさが倍以上になり火力も上がる。

 まさに炎の波が、魔沼から出現しようとしている魔狼と魔猪を襲いかかった。断末魔を上げ、崩れ落ちる魔狼と魔猪。その隙間から這い出る小型種。一気にそれらが目の前から消えた。

「……ニノリスさんが雑魚を引き受けてくれて、ほんと助かったわ」

 そんな感じで戦い続けること一昼夜――

 やっと、魔沼の魔素が薄くなってきた。こんな不毛な消耗戦に終わりが見えてきた……けど、そのまま終わりはしないよね。

 魔狼の次は魔猪、最後は魔熊と魔蛇か……魔蛇は厄介そうね。

 私は一旦、土塀の上に退避すると、ポーションと魔力回復薬を二本づつ飲んだ。あと、毒消しも同じ本数を。耐性があるといっても、無効化じゃないからね。

「魔蛇、石化と麻痺のスキル持ちか……」

 鑑定魔法で確認したニノリスさんが呟く。

「石化と麻痺は厄介ですね……まぁでも、石化は間近で見ないと効果はないようですよ」

 私は男を見ながら言った。私は一応、状態異常を回避する魔法具を所持してるからね。当然、製作したニノリスさんも。石化って単語を聞いて目を慌てて反らした男は石化していない。災害級だったら、ヤバかったわね。

 代わりに、小型の魔物が石化している。魔熊には効かないみたい。残念。

「尾も気を付けないとね」

 魔熊と魔蛇はニノリスさんが造った土塀を壊そうと躍起だ。これくらいの攻撃じゃあ、ヒビは入らない。さっき、魔力回復薬飲んでたしね。魔沼の方も、魔熊と魔蛇が出現した途端、スーと消えかかっている。これが最後みたい。

「そうですね~」

 回復もすんだし、いってきますか。

 土塀に足をかけた時だった。黒い影が魔熊と魔蛇を襲った。一刀で魔熊と魔蛇は斃れ消えていく。

「あいつ、最後の一番良いところをとっていきやがった」

 ニノリスさんが悪態を吐く。

「ハハ……ケイ兄さんらしいよ」

 力が抜けた私は座り込む。下から、やたら元気のいい声が聞こえた。

「……誰です?」

 男が尋ねる。

「世界で十人しかいないSランク冒険者の一人よ。私の兄。剣聖と呼ばれてるわね。ちなみに、貴方の目の前にいるこの人は、賢者」

「……剣聖に賢者!?」

 男は腰を抜かし混乱している。そんな男を冷めた目で見ながら、私は言った。

「えっ、今さらじゃない。そもそも、賢者じゃないと、これだけのことはできないでしょ」

「お~い、俺は無視か」

 ケイ兄さんが大声で割り込んできた。

「ケイ兄さんは、そこに残ってる雑魚片付けて。それが終わったら、休憩しよう」

 私は下に向かって大声で答えた。私は男に視線を向ける。

「ここから先は、貴方にも闘ってもらうから」

 魔沼は消滅しても、魔沼から溢れ出た魔物はまだ討伐できていない。魔沼の反対側を見下ろせば、小型の魔物が無数にいた。

 スタンピードはまだ終わらない。

 山場を越えただけ。

 ベッドで寝れるのも、温かいご飯を食べれるのももう少し先。先が見えない不毛な消耗戦はとりあえず終わったわね。

 ニノリスさんは魔沼消滅を報告するために、使い魔を冒険者ギルドに飛ばした。

 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~

juice
ファンタジー
過去に名家を誇った辺境貴族の生まれで貴族の三女として生まれたミラ。 しかし、才能に嫉妬した兄や姉に虐げられて、ついに家を追い出されてしまった。 彼女は森で草を食べて生き抜き、その時に食べた草がただの草ではなく、ポーションの原料だった。そうとは知らず高級な薬草を食べまくった結果、体にも異変が……。 知らないうちに高価な材料を集めていたことから、冒険者兼薬師見習いを始めるミラ。 新しい街で新しい生活を始めることになるのだが――。 新生活の中で、兄姉たちの嘘が次々と暴かれることに。 そして、聖女にまつわる、実家の兄姉が隠したとんでもない事実を知ることになる。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

結界師、パーティ追放されたら五秒でざまぁ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「こっちは上を目指してんだよ! 遊びじゃねえんだ!」 「ってわけでな、おまえとはここでお別れだ。ついてくんなよ、邪魔だから」 「ま、まってくださ……!」 「誰が待つかよバーーーーーカ!」 「そっちは危な……っあ」

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

処理中です...