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第三章 スタンピードと神聖魔法
合流
しおりを挟む「ウワッ!!」
連れてきた男は驚愕と悲鳴が混じった声を上げる。
「なんて声を上げているのよ、しっかりして」
私が魔法紙を燃やして戻ってきたのは、最後に白銀がいた場所。つまり、魔沼の最前線。
私たちが戻ってきた瞬間、一斉に魔物が襲ってきたからね、そんな悲鳴を上げてもおかしくはないかな。腰を抜かさないだけマシか……でも、足手まといになるのなら容赦なく切り捨てるわ。
双刀に魔力を流し、ついでに炎を付加。一振りするごとに数体の魔物が駆逐されていくが、それ以上の魔物が魔沼から湧き出ている。
毎回思うけど、消耗戦もいいところよね。
「仲間を探さなくていいのか!?」
男が魔物と交戦しながら叫ぶ。Bランクは嘘じゃないようね。確実に一振りで魔物をたおしている。
「その必要はないわよ」
私が答えたと同時に、無数の氷柱が一斉に上空から降り注いだ。
私は動転する男の前に回り込み、その腰に腕を回したと同時に肩に乗せ地面を蹴った。男を抱えた私は宙に浮かぶ。瞬時に男は理解したはず。
なぜ、私が必要ないって言った理由を――
私はニノリスさんが造った土塀の上に降り立った。
魔素は空気より比重が重い。人丈ぐらいがせいぜい。だから、ニノリスさんは土塀を造ったの。ここなら、魔素の影響はさほど受けない。それに、これ以上町に魔物をいかせない策でもあった。数でおされたらアウトだけどね。そこはニノリスさん、全然大丈夫。魔術師ならではの戦い方よね。でも、それができるのはニノリスさんとサルシナ先生ぐらいじゃないかな。まぁ私もできるけど、途中で、目の前の戦いに気を取られてバランスを崩しちゃうから、維持はできないんだよね。
「ただいま、ニノリス師匠」
「おかえり、アキ。お土産付きか?」
ニノリスさんは男を見て言った。なかなか感情が読めない声だけど、私には怒っていることがわかった。
「使えるかはわからないけど、あのギルド内で一番マシだったから連れてきたわ。ただの、死にたがりじゃないようだし。追加のポーションと毒消しは彼に渡したわ」
たぶん、これで納得してくれるはず。
「……うん、それでいいよ。それで、これからどうする?」
ニノリスさんは眼下に広がる、氷漬けにされた魔物の群れを見下ろしながら尋ねた。私が戻るまでも、かなりの数を駆逐しているのがわかった。
こうして話している間も、魔沼から魔物が湧いて出ている。行き場を封じ込められてるせいで、真っ黒な蜘蛛とスライムが折り重なり移動するさまは、なかなかの地獄絵図ね。夢見悪そう……
「ニノリスさん、水魔法で雑魚を包み込んで、そのまま氷漬けにしてください。私はアレの対処をします」
やっぱり出たわね……
眼下には魔狼が遠吠えを上げている。
仲間を呼んでるの!? だとしたらヤバい。でも、そのことに気を取られては駄目だ。相手は中級の大きさ。でも、ランクはS、これはここで確実に駆逐しないといけない。仲間が出てきた時はその時。一頭ずつ確実に殺る!!
「大丈夫かい?」
「大丈夫」
私はそう答えると、土塀から飛び降りた。
「雑魚って!! それに下は氷、足元が!!」
焦った男の声が聞こえる。その後に、のんびりとしたニノリスさんの声が続いた。
「そんなの関係ない。足元が多少悪くても、戦えるのがAランクだよ。とはいっても、その実力は俺と同じSランクだけどね」
「……Sランク」
「赤い目をしている理由だけで、この国から排除され、虐げられ捨てられた少女が、自分の存在意義を認めさせるために、六年間、何度も血反吐を吐いて、何度も死にかけて、やっとここまで強くなった。確かに、アキには膨大な魔力がある。だけど、それと強さは別の話だ。俺はアキを天才だと思うよ。努力の天才だと……いいか、君たちが魔族だと罵り、蔑んだ少女の戦いをその目に刻め」
ニノリスさんが男とそんな会話をしているなんて知らなかった私は、目の前にいる魔狼と対峙していた。
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