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第三章 スタンピードと神聖魔法

約束

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 疾走する私たちの耳に、激しい金属音となにか物が破壊されている音が届いた。

「近いな、いくよ」

「わかった」

 速度を上げた私たちの目に、討伐の激しさと力尽きようとしている人たちの姿が目に入った。

 魔術師が魔法を放とうと手を突き出しても、描かれた魔法陣から出てくるのは小さな炎。アタッカー二人は全身がズタボロだ。鎧はもう鎧の役目を果たしていない。全身が傷だらけ。盗賊とタンク役はすでに地面に倒れていた。残った三人は必死でクラリスの町と仲間を護ろうとしていた。

 いくら倒そうとも、魔沼が消えない限り魔物は湧き続ける。

 悔しい!! 

 心底思う。魔物を討伐するのが私たち冒険者の仕事。死と隣り合わせだって理解しているし、覚悟もしている。今も必死でこの国を、国民を護っている。白銀のパーティーが魔沼で魔物と対峙する決断は一番適切な判断だわ。でもね、同時にここで死ぬこともわかっていての判断だった。私もニノリスさんも理解している。だからこそ思うの。悔しい!! 歯がゆいって!! そんな覚悟をして戦っているのに――アイツらは!!

「皆、伏せて!!」

 魔力を使い果たして倒れ込んだ魔術師を庇うように、よろけながらアタッカーが前に出るのを見た瞬間、私は叫んだ。私の声に、反射的にアタッカーの二人はしゃがみ込む。

 同時に、焼け尽くされる魔物たち。魔物たちの断末魔が響いた。炎から逃れた魔物たちは、警戒し、本能からか、追いついた私たちから少し距離をおく。

 その間も、魔沼から魔物が湧いて出ていた。

 私は咄嗟とっさに、魔沼の周囲を炎の壁で覆った。時間稼ぎしかならないけどね。

 その間に、ニノリスさんが白銀のパーティーにポーションと毒消しの治療を施している。それでも限度がある。ポーションでも治しきれない深い傷もある。ここでは、これ以上の処置はできない。

 私は魔物を彼らに寄せ付けないようにしながら、ニノリスさんの元に移動する。白銀のパーティーの無惨な様子に唇を噛み締めていると、ニノリスさんは私に二枚魔法紙を渡した。

「これを使って、彼らをギルドに。後の一枚で戻っておいで」

 ニノリスさんの判断は正しくて甘い。今にも死にそうな人たちを放って討伐に専念しても、誰も責めやしない。それほど、魔沼での戦いは苛烈だから。噛み締めた唇が切れて、口の中が血の味が広がる。

「わかった。直ぐに戻ってくるから待ってて、ニノリス師匠」

 私は微笑むとそう答えた。わずかに息を吹き替えした白銀のアタッカーの一人が、反論する声が聞こえた。私はそれを無視し、魔法紙を一枚燃やした。

 冒険者ギルドに戻った私と白銀。

 突然のことに驚くギルド内。ギルドマスターが飛んできて、私に怒鳴り付けながら尋ねるのを無視し、近くにいたギルド職員に白銀を渡し手当を頼んだ。

「では、私は戻ります」

 私が持っていた魔法紙をかざした時、白銀のアタッカーの一人が私の腕を掴んだ。

「俺も連れていってくれ!!」

 嘆願する男の顔を見て私は息を飲んだ。彼の顔の半分に紋様があったからだ。私の顔から表情が消える。

「貴方は、あの時の騎士か神兵? 離してくれる。私は急いでいるの、仲間を、大事な人が必死で一人で闘ってるの。私の行く手を阻むな」

 冷たい声。怒鳴りもしないが、怒りを含んだその声に男は怯む。

「俺はまだ戦える。足手まといにはならない。だから、連れていってくれ!!」

 男の嘆願に、私はさらに怒りが増す。

「死に場所を探しているのなら、ほかで探してくれる」

「そうじゃない!! 嫌、違う。その気持ちもあるが、クラリスの町に大切な人がいるんだ!! こんな俺でも護れる力があるなら、護りたいんだ!! だから――」

 この男が言っているのは嘘じゃない。自暴自棄な目をしていないから。こういう人間は、必死で質が悪い。絶対に引かないからね。相手している時間もないし、しょうがないわね。

「貴方、ランクは?」

「一応、Bランクだ」

「わかった。連れていく。だけど、私はニノリスさんのように優しくはない。庇いもしないし、足手まといになれば容赦なく切り捨てる。それでもいいのなら、連れていってあげるわ」

「それで構わない」

「アキちゃん、これ。ポーションと毒消し」

 再度、魔法紙を燃やそうとした私に、ギルド職員のユリちゃんが麻袋を渡してくれた。

「ありがとう」

 私はそれを受け取り、そのまま男に渡した。

「私より、貴方の方が必要でしょ」

 驚く男に私は冷たく言うと、今度こそ魔法紙を燃やした。
 

 
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