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第三章 スタンピードと神聖魔法
討伐開始
しおりを挟むそこからは早かった。小一時間もかからないうちに全ての準備を終え、私とニノリスさんは先行してクレリアに向かった。
通常なら、王都からクレリアまでは荷馬車で一日かかる。でも、私とニノリスさんなら五時間ほどで到着可能。魔力操作の応用でね。でも、今はちんたらと走っている時間はない。
「アキ、クレリアに到着したら、直ぐに魔沼に向かう。準備はいいな」
「大丈夫」
私がそう答えると、ニノリスさんはギルマスから渡された魔法紙を魔力で燃やした。
転移魔法の魔法陣が書かれている紙だよ。それを燃やせば、登録している場所に転移することができる。かなり高価な魔法具なので、緊急の時しか使用はしない。ニノリスさんとケイ兄さんは個人で持ってるけどね。
クレリアの町の中央広場に瞬時に移動した私とニノリスさんは、魔素の濃さに顔を歪めた。絶対慣れることのない臭いだわ。
魔素は魔沼から漏れる毒よ。普通の腐敗臭とは違って微量ながらも魔力が含まれている。それは、人間にとっては猛毒。取り込めば取り込むほど、身体や精神を蝕んでいく。精神が蝕まれば、最悪、仲間同士で殺り合うこともあるわ。悲しいことだけど、スタンピードでの死亡原因の一つでもあるの。私とニノリスさんは毒に対しての耐性があるから、まだ大丈夫。
「即、討伐の可能性が高いな」
ニノリスさんの厳しい声に私は頷く。
「……そうだね。ここまで、濃い魔素が広がっているなら、出現しててもおかしくはないわね」
「ああ、小さいのが出現しているかもな」
「そうね。中型、災害級なら、漏れ出す魔素はもっと濃いはず。魔物の気配しかしないから、白銀のパーティーは魔沼に向かってるようね」
Cランク以上は魔沼から出現する魔物の討伐が許可されているからね、町の住人の避難が完了していれば、この町に留まる必要はない。
ましてや、あの魔物の数。
ちまちまと討伐するより、原因を討伐した方が勝算はあるって、踏んだようね。残酷な判断だけど、私でもそうする。だって、地下に永遠に避難するわけにはいかないからね。それに……地下に逃げたとしても安全とはいえない。助かる可能性がほんの僅かだけ上がるだけ。
それに、彼らはCランク、それなりに強くても数には到底勝てない。
ましてや最悪、中型、災害級が出れば、魔素は魔力量が少ない人やない人にも、黒い霧のような形で目視できるようになる。濃くてもまだ臭いだけなら小型種だけ。ますます、勝算があるわね。
「魔沼に向かうか」
不敵な笑顔をニノリスさんは浮かべる。私も同じような笑みを浮かべた。
「討伐しながらね」
私は腰にさしていた双刀を抜いた。
「魔力はできる限り温存で」
「わかってる。使うのは最小限で魔沼に向かう」
魔沼を消滅させる方法は浄化魔法以外には一つだけしかないの。
出現する魔物をひたすら討伐するだけ――
いつまで続くなんてわからない戦い。でも戦うしかないの。大まかな場所しか知らされていないけど、魔素の濃い方に向かえば魔沼に辿り着く。
でも、そう簡単にはいかせてはくれないみたいね。町で暴れている小型種を倒しながらか……やってやろうじゃない。住人は地下に逃げている。なので、建物を少々壊しても大丈夫。
私は双刀に魔力を流す。双刀が薄く緑色に光出す。
ニノリスさんの手にもいつしか杖が。一見、杖に見えるんだけど、これ杖の役割を果たしてないよね。この杖で魔物を殴打して潰してるから。基本は魔法なんだけどね……
「さて、始めようか」
高揚した声でニノリスさんは言った。
「はい」
そう答える私も高揚している。興奮物質がドバドバ出てる感じ。だけどね、そんな中でも恐怖を感じているの。死に一番近い位置にいるのだから当然だよね。でも、私は急ぐ。
私とニノリスさんは行く手を阻む魔物を倒しながら、魔沼へと疾走した。
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