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第二章 学園は死亡フラグを叩き折る場所です
束の間の平和、忍び寄る異変
しおりを挟む「結局のところ、マリアーヌに関して、冒険者ギルドは放置、関与しないことにしたようですね」
食後の紅茶を淹れてくれながら、ユリアは確認するように訊いてきた。今は通常の大きさに戻っている。その方が作業しやすいからだって。
「あまりにも酷すぎたんだって?」
ニノリスさんが可笑しそうに笑った。
「酷すぎましたね。学園に三年在席していて、ある意味奇跡のレベルだったよ、あれは。でもよかったと思う、彼女にとってはね。討伐には参加してないみたいだし、そういうの嫌いなんでしょ。取り巻きたちも、彼女には危ないことを一切させないようだし」
これはサルシナ先生からの情報。個人情報保持どこにいった!? でもまぁ、あいつらの情報は知っておいて悪いことじゃないしね。先が読める。
「学園に入学して、それ許されるんだ?」
学園の授業には魔物討伐のカリキュラムが組まれているからね、実戦もあるし、訓練も模擬戦もある。ニノリスさんの意見はごもっとも。
「いいんじゃない。嫌々放り込んでも良いことはないでしょ」
却って、討伐の邪魔になる。
覚悟がなくて、魔物を見て逃げ出すのはまだいい。恐怖は別に悪いものじゃないから。恐怖を克服するまで向き合えばいいだけの話。だけど、始めから嫌なやつは害悪でしかない。チームワークを乱しまくるからね。その上、感情のままパーティーを罵倒してモチベーションを下げまくる。
それは、パーティー全員に死を呼び込むことになるんだよ。経験上よく知ってる。
「必須じゃなかった?」
「必須ですけど、参加した体でいたんじゃないですか? 知らんけど」
ほんと、どうでもいいことだ。やる気のないやつに割く時間なんてない。
「昔と違って、緩くなったよね」
ニノリスさんとサルシナ先生との間柄を知りたいけど、止めといた方がいい。好奇心は身を滅ぼすわ。私はね、押さないでくださいと書かれたボタンは絶対押さない主義なの。
「取り巻きたちの背景がなかなかだから、融通されてたんじゃないですか。まぁでも、自分がした行動は自分へと帰る。その選択をしたのはあいつらなので、近いうちに後悔しますよ」
気付かない振りをして、やり過ごす。
「へぇ~訊かないんだ?」
無理だった~。めっちゃ、意地悪っ子の顔をしながら訊かないでほしい。
「仲が悪いのだけは知ってますよ。ニノリスさんの名前出したら、サルシナ先生から負のオーラが出てましたから、それで十分です。話を戻しますが、少しでも使えると冒険者ギルドが判断したのなら、即彼女は休学か退学になっていましたね」
そして、強制訓練コースに放り込まれていたわね。
「なかなか過激だからね、冒険者ギルドって。貴重な存在だから、使える者にしようと必死になるね。自由に意見が言えるのは、アキみたいに強くなってからだよ。究極な実力主義の世界だからね。ちなみに、俺はサルシナのこと大好きだよ」
「それ、サルシナ先生に言ったら、絶対駄目なやつですよね」
この二人の関係性はいまいち摑めないけど、どっちも魔法に関しては超天才だからね、色々あるんだろうな。見た目はニノリスさんの方が年齢いってるように見えるけど、魔術師の見た目は実年齢と比例しないから、実際は同学年だったのかもしれないわね。
「前から思ってたけど、アキって俺たちに興味なさすぎ~」
これ、意外と真剣に抗議してるよね。語尾伸びてるもの。抗議の意味がわからないから首を傾げてしまう。
「私はニノリスさんたちの過去には興味ありませんから。ケイ兄さんから紹介されたあの瞬間から、私はニノリスさんを知って、ここに来て皆と知り合った。八年の時間が、私にとって真実であり事実です。そこに過去はいらない。まぁ……想像は容易にできるけど。確かめるつもりもないですね。必要ないから」
私がそう言うと、ニノリスさんがクシャと笑った。初めて見る笑顔にこっちが吃驚だよ。
「……ほんと、似た者兄妹。同じこと言うね」
「そうですか。一番嬉しい言葉ですね」
それで、なんでユリアは私を抱き締めて頭を撫で撫でしてるの!? キルトさんも!?
その日から、なぜかオヤツの品数が二品増えた。いや、食べ切れないって。
同時刻――
ゲンジュール聖王国冒険者ギルドに一本の緊急通信が入った。
そしてその日の深夜、私とニノリスさんは内密にギルマスに呼ばれた。
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