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第二章 学園は死亡フラグを叩き折る場所です

入学試験開始

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 試験当日、なぜかユリアも付いてきた。

「一緒にこなくてもよかったのに」

「冒険者ギルドの入団試験ではありません。今回の試験会場には、大勢の貴族が試験を受けにきています。アキ様、貴女様は高位貴族の御令嬢なのです、メイドの一人ぐらい同行しないと舐められます」

 小声で言ったら、十倍返ってきたよ。まぁ、ユリアの言ってることもわかるし、それが正しいってわかってはいるんだけど、どうしても、自分が貴族令嬢に思えないんだよね。そもそも返上したいし。あと五年経てば、自分の意思で貴族籍から抜けることができるけど、長いな~。

「べつに舐められてもいいけどね。実力で見返せればいいだけだし」

「アキ様が舐められる? そのようなこと、天と地がひっくり返っても許しません」

 大袈裟だなって、いつも思う。だからかな、口元が少し緩んだ。

「ユリアが私の傍にいる限り、舐められることはないわね」

「ええ、許しませんから」

 いったい、私の斜め後ろでユリアはどんな表情してるんだろう。なんか、笑い声も聞こえてきたよ。絶対、小さい子に見せたらトラウマものの表情をしてるよね。会った頃は無表情だったのに。

「なら、ユリアの気持ちに答えて、トップ合格しないといけないわね」

「新入生代表を期待しております」

「任せて」

 私はそう答えると試験会場に入った。

 いや~わかってはいたけど、完全にアウェイだわ。文句は言わないけれど、その代わりに視線が物語ってるね。ちっとも怖くもないし、プレッシャーも感じない。魔物討伐の方がよっぽど感じるわ。

 一次試験は筆記試験。

 結構な問題量だけど楽勝。だって、これ、五歳の時に丸暗記した書物に書かれてることばかりだったからね。念のために何度か見返したから大丈夫。時間が余ったから昼寝したよ。その態度に、試験官に睨まれたけどね。  

 ここである程度落とされるの。一次試験を受けた人間全員に対して、魔力と属性鑑定は無意味で時間の無駄だからね。

 午前中に一次試験、試験に通った者が午後の二次試験に進むわけ。

 一次試験の発表はランチタイムの終わる直前に発表された。

 私が満点で一位。第三王子が九百九十八点で二位。

 途端に、その場が騒然としたわね。貴族令嬢としては落第点の私が、王族を差し置いて満点を叩き出したんだから当然か。試験勉強を受けるには、それなりの環境とお金が必要だからね。あの人から捨てられている私には無理だと、皆思ったのね。

 魔力はあるけど馬鹿。

 それが彼らが私に対する認識だった。

「実際は、試験勉強なんてまったくしてないけどね」

「アキ様は、すでに五歳ですべての基礎知識は修得済みですから」

「ほんと、びっくりしたよ。試験内容、五歳の時に丸暗記させられた学術書と基礎魔術書から出てたんだから。応用問題も、応用じゃなかったし」

「それくらいに、アキ様。嫌味になりますよ」

「確かにそうね、止めとくわ」

 波風は立てたくないからね。一応、私は離れた場所で試験結果を確認してたけど、聞かれたらヤバいわね。

 学園は真の実力主義。学園長がギルマスと懇意にしているから、得点を操作されはしないって言っていたけど、そうだったみたいで一安心。ユリアに新入生代表の座を頂くって言ったからね。

 二次試験は一次試験の上位から受けることになる。

 移動すると、すでに十人くらいの人が試験を待っていた。あ~やっぱり、アウェイ。そんなことを思っていたら、試験官たちが現れた。

 一番年配の試験官が説明しているが、この中で一番偉くて強いのは彼じゃない。一番下手にいる人だ。見た目は私より五歳ほど上だけど、この人、かなりの使い手ね。すると、その試験官と目があった。ニコッと微笑まれても嬉しくない。

「これより、第二試験を始める。まずは、アルキア・ゲンジュ、前へ」

「はい」

「君に関しては、魔力量を再測定する必要はないだろう。大事な宝珠を壊されてはたまらない。属性については、冒険者ギルドから提出されているが、これは本当なのか?」

「反対に尋ねますが、どうやったら嘘が吐けるのですか?」

 学園で使うのと同じものを冒険者ギルドでも使用してるからね。

「確かめさせてもらって構わないか?」

 私だけ、試験内容が違うみたいね。構わないけど。

「相手は、サルシナに頼もう」

 サルシナと呼ばれた試験官が前に出る。やっぱり、一番若いあの試験官だった。また手をひらひらと振ってくる。私は軽く頭を下げてから尋ねた。

「模擬戦ですか?」

「そうだ。一応高度な魔法防御の結界を張っているのだが、互いにほどほどの力でやるように。剣などの武器の使用は禁ずる」

 ほどほどの力って……つまり、壊すなってことか。

「アルキア嬢、君と一度手合わせをしたかったんだ。さすがだよ。君だけが、正確に僕の強さに気付いたんだから」

 あの試験管の中で一番魔力操作がうまかった。頭の先から足の爪先まで淀みなく魔力が流れている。それだけで、かなりの実力者だってわかるわ。

「そうですか……まぁ、場数はそれなりに踏んでますから」

「それ、令嬢の台詞じゃないよね」

「私もそう思います」

 軽口を叩き合っている間に、私とサルシナ試験官の魔力が戦闘モードへと移行する。

「最後に、もう一度繰り返しますが、ほどほどでお願いしますね」

 その台詞、受験者に言う台詞じゃないよね。もう違うものになってない? 私的には構わないけど。

「わかってるよ~」

 軽いな。

「わかりました」

 私がそう答えると、年配の試験官の合図で第二試験が始まった。

 
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