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第一章 死亡フラグ回避のために冒険者を目指します
聖約
しおりを挟む「現存する〈魔力封じの腕輪〉は、レプリカを含めて四つ。昔は魔族の力を封じる拘束具として利用されていました。さすがに、それはご存知ですよね、元神官長様、それにゲンジュ公爵様」
馬鹿にしたような私の口調に、煽られた元神官長とゲンジュ公爵は火が付いたように怒りを露わにした。
「魔族のくせに、生意気な!!」
「それがどうした!!」
判別できる言葉はこれくらい。ほかは意味不明なことを叫んでいる。ゲンジュ公爵はそれだけでなく、私とユリアに向かって斬りかかってきた。馬鹿だよね、簡単にユリアがふっ飛ばされたよ。さすがユリア、気絶させてない。
「馬鹿が。虫けらは大人しく転がっているのが賢明ですよ。それにしても呆れますね、無知なくせにプライドだけは人並み以上。本当に無様な様ですね、アキ様」
相変わらず辛辣だわ、私のメイドは。間違ってはいないけどね。
「かつては大量にあった腕輪が今では四つだけ。なぜそうなったのか、元神官長や王弟であるゲンジュ公爵様なら知っていて当然だと思ったのだけど、知らないようなら教えてあげますよ。理由は、腕輪を本来の目的以外に乱用したからです。例えば、人身売買、人同士の戦……罪がない同族に、そして魔族ではない他種族に使い嬲りものにした。それに怒った神が、四つを残し破壊した。ここまでは理解できましたか?」
元神官長もゲンジュ公爵も、この広場にいる全員が言葉を失い黙り込む。私は淡々と続けた。
「その時に、神は同じ誤ちを繰り返さないように腕輪の使用に聖約をつけた。……魔族以外、罪咎がないものには使用してはならない。但し、魔力過多による暴走が起こる要因がある時は使用を許可する。それを破りし者には神罰が下るだろう。これが聖約です」
せっかく、事細かに教えてあげてるのに、反応がないのは嫌かな。
「この意味、わかりますか? 私は罪人でもなく、魔族でもない。ましてや魔力の暴走も起こしていない。その要因すらない。ただの赤い目をした、人間ですよ。確かに魔力は、この場にいる全員よりも遥かに高い。だからこそ、私はすでに魔力操作を取得しています。ここまで言えば、その頭でも理解できるでしょ。自分が神罰を受けた理由が」
膝から崩れ落ちる騎士。私の言葉が信じられなくて、大神殿に入ろうとして弾かれる神兵。現実逃避して泣き叫ぶ元神官長。
自ら自滅したとはいえ、素直に喜べない。胸糞悪い光景だわ。それでも、私が望んだ光景。
赤い目だからと、この世界から排除した者たちへの復讐と反撃の狼煙。
「終わりましたね」
「まだ終わっていないわ」
そう、まだ終わってはいない。
私は転がっているゲンジュ公爵に足を向けた。そして手前で止まると一言声をかけた。
「無様ね」
かつて私を放置し捨てた男は、歯ぎしりして私を睨む。起き上がれないのは、ユリアが背中を踏んでいるから。
「自分の手を汚したくなくて、間接的に私を殺そうとした。生まれたばかりの赤子をボロボロの小屋へ捨て、ミルクも与えず放置した。この七年間。これって立派な犯罪ですよね、ゲンジュ公爵様。……さらに神官長と共謀して、私の魔力を封じようとした。奴隷商か娼館にでも売るつもりでしたか? それとも、奴隷紋を施し、私を暗殺者にするつもりでしたか? あてが外れて残念ですね。犯罪を重ね、さらには神罰。貴方の敗因は、私を赤子の時に、直接その手で殺さなかったことですよ」
怒りを向ける男に、私は嘲笑う。そして最後に凍えるような冷たい声で言ってやった。
「生地獄を味わえ」
自分がやったことは自分に返ってくる。
高位の大貴族だからって例外はない。些細なことは力でねじ伏せても、綻びはある。ひょんなことから、すべてが晒され明るみになることもある。今回、私はなにもしていない。勝手に、落ちていっただけ。
罪には罰を――
当たり前のことを忘れてしまった者たちの成れの果て。
「帰ろっか」
私はユリアにそう言うと歩き出す。ユリアは私の斜め後ろに付いている。誰も私を引き止めない。反対に道を開けてくれた。私は最後まで顔を下げず胸を張り、毅然な態度を取り続ける。皆の教え通りに。
私は決して、この無慈悲で不条理な世界に屈しない。
これは、その第一歩――
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