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第一章 死亡フラグ回避のために冒険者を目指します
魔力測定の儀
しおりを挟む魔力測定の儀当日――
私はニノリスさんの家から直接向かった。
魔力測定の儀は大神殿の前にある広間場で行われる。高位の貴族の子息や令嬢から順に名前を呼ばれ執り行われるのが通常。順当にいけば、私は二番目に呼ばれるはずだった。
しかし、私の名前は呼ばれない。
私の後ろに控えているユリアの呪詛が聞こえてくるけどね。
まぁ、これくらいの悪意のある意地悪は範疇内だったから特に怒りもしない。かえって、そのおかけで配置している兵の数を正確に目視することができた。あの人もこの場にきているのね。王位継承権は返上したけど、一応元王族だからかな、第三王子の隣に座っていた。ちなみに、この光景はケイ兄さんとニノリスにも共有している。なにかあれば飛び出してくる手筈になっていた。
結局、私が呼ばれたのは男爵家の子息のあとだった。
「アルキア・ゲンジュ、前へ!!」
神官長がそう呼んだ時、皆の表情は驚愕と不信感だったが、私の目を見た瞬間、場の雰囲気は一気に私を蔑み恐れへと変わった。
「さすがに、石は飛んでこないわね」
小さな声で呟いたけど、ユリアには聞こえていたみたい。
「飛んできたら、生きていることを後悔させてやります」
物騒な返答が返ってきた。本当にしそうだと思いながら、私は可笑しそうに声を出さずに笑った。
私は階段を登り、台座の前にくる。
途端に、神兵、騎士たちが私とユリアを取り囲む。一人の神官が箱を持っていた。たぶんその中に、〈魔力封じの腕輪〉が入ってるのね。
チラリとあの人に視線を向けると、憎しみと侮蔑、蔑み、穢れ、色んな負の感情が混ざり込んだ表情をしていた。私から見れば、あの人の方こそ魔族のように見えた。
スーと私の心が冷える。あの人を見て感情が揺るがされるかもしれないと思ったけど、杞憂だったわ。
その感情に、屈辱を含ませてあげる。
「子供と女一人に大袈裟ね」
相手を挑発するように笑いながら言った。
「口を開くな、魔族が!!」
簡単に乗ってくれたよ。神官長が怒鳴る。いつの間にか、魔族認定されてるよ。
私は気にせず無視して台座の上にある水晶に手をかざした。水晶は大量の光を放ち真ん中から縦に亀裂が走る。周囲は騒然とした。
「壊れちゃったね」
「主の魔力量に耐えきれなかったのですね。さすがです。レプリカとはいえ、仮にも神器の一つである宝珠を割るほどとは、ユリア感服しました」
私たちが平然とそんな会話を交わしていると、神兵の一人が私の腕を掴んだ。ユリアは肩を抑えられ、両膝を付いている。
「この魔族が!! 宝珠を割るとは、神の冒涜!! 神の鉄槌を受けるがいい!!」
神官長が叫ぶ。同時に、神官が私に〈魔力封じの腕輪〉を着けようとしていた。していたが、弾き飛ばされて、〈魔力封じの腕輪〉がコロコロと石畳の上を転がる。同時に、神官の身に雷が落ちた。
その場にいる全員が想像もしていなかったことが起きた。
パニックになりながらも、神兵たちや騎士たちは私に向かって抜刀した。ユリアは自分を拘束していた騎士を瞬時に伸して、私の隣に立つ。
「神の鉄槌って、やっぱり雷だよね、ユリア」
「そうですね。どこぞの馬鹿は、神の鉄槌をと叫んでいましたが、今は神罰を受けた身となり果てるなんて、哀れですね」
「それに気付いてないところが、なお哀れ。そしてそれに手を貸した者も容赦ないなんて、神様ってある意味公平な裁きをするんだね」
私とユリアがそんな会話をしていると、客席の方から悲鳴が上がった。蜘蛛の子を散らしたように人が逃げている。
悲鳴の原因はあの人か――
ゲンジュ公爵様は顔を押さえながら、私たちの方へと近付いてきた。そして、耳を塞ぎそうになるほどの大音量で怒鳴った。
「この魔族!! 私に何をした!?」
血走った目をして。せっかくの美貌が台無しね。この人が手を貸していたのは想像してたし、特に驚かない。でも……心の奥がモヤッとする。それに気付かない振りをして、私は答えてあげた。
「私は何もしてませんよ。したのは神様。神罰が下っただけですよ。さっき言ったじゃないですか、手を貸した者にも容赦がないと。神官長、そして、私たちを取り巻いている騎士や神兵の方々、自分の顔を確認した方がいいですよ」
神罰を受けた者は左半分の顔に紋様が浮かぶ。罪の重さによって、濃い薄いはあるみたいだけど。その紋様は当然消すことはできない。神の許しを得るまでね。それまでは、神の恩恵を受けられぬ者として最底辺の生活が待っている。
神官長が大神殿に逃げ込もうとしたが、見えない壁に阻まれて入ることができなかった。
力なく座り込む神官長。騎士や神兵たちも完全に戦意を失っている。
私は落ちていた〈魔力封じの腕輪〉を拾い、呆然としている彼らに話かけた。
「神罰を受けて当然ですよ。だって、貴方たちはこの腕輪の聖約を破ったのだから。つまり、神が定めた約束を破ったことになるんですよ」
私はニノリスさんからその聖約の話を事前に聞いていた。だから、平然とこの場に姿を現したの。私が何もしなくても、こいつらは自滅するってね。
「…………聖約だと?」
生気が抜けた顔で、元かな神官長が首だけ私の方に向け尋ねた。
「えっ!? 神官長なのに聖約を知らなかったんですか!? これはレプリカでも神器ですよ、使用法に制限がかかっていて当然じゃないですか? それとも、魔族には聖約が効かないとも思ったのですか? そうですよね、元々、魔族の力を封じるものですもの。でも、神はそうお考えではないようですね。魔族ではないとしたら、私はなんでしょうね。私、おかしなこと言ってます?」
私は笑みを浮かべながら元神官長にそう言った。
「アキ様、それでは不親切ですよ。無知な方にはきちんと教えて差し上げないと」
「そうね」と短く答えてから、私は口を開いた。
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