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第一章 死亡フラグ回避のために冒険者を目指します

作戦会議

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 朝起きたら、ケイ兄さんに抱き枕にされていた。まぁそれは珍しくない。討伐後、よく寝ている私を自分のベッドに連れ込んでいたから。それはそれで、かなり問題あると思うけどね。それにしても、がっちりホールドされてるから抜け出せないよ。

「ケイ兄さん、起きて!! ウワッ!?」

 私が何度言っても起きなかったケイ兄さんが飛び起きた。私を抱えたまま窓際に移動する。

「ようやく起きましたか? おはようございます。アキ様、ケイ様」

 さっきまで寝ていたベッドの脇に立つユリア。相変わらず無表情だけど、今日の無表情はとても怖い。ガクブルものだよ。それもそのはず、枕に詰められていた羽毛が空中を飛んでいる。そして、ケイ兄さんが寝ていた場所にはナイフが深々と刺さっていたよ。

「……ユリア、マジでケイ兄さんを殺そうとしたの?」

 ケイ兄さんじゃなかったらまず回避は無理だったと思う。

「すみません。自由にアキ様に触れられるケイ様が憎たらしくて。そっ、そんな目で私を見ないでください、アキ様」

 無表情にモジモジはキモい。さらに、頬を染めてたらなおさら。そんな目ってどんな目よ。

「ニノリスのところのやつは、皆優秀だけど、頭のネジが何本か抜けてるんだよな」

 特に怒ることなく、ケイ兄さんは面倒くさそうに言った。心の底から同意するよ。

「抜けてるっていうか……ぶっ飛んでる」

「そうだな、かなりぶっ飛んでるよな」

 ケイ兄さんは可笑しそうに笑った。いや、ここ笑う場面じゃないよね。

「ケイ兄さん!! ニノリスさんから聞いたよ、Sランクになったんだって!! おめでとう!! プレゼントは用意できてないけど、ここを出たら用意するね。だから、今はこれでいいかな」

 私はそう言うと、ケイ兄さんの頭をヨシヨシと撫でて上げる。そして、こめかみに軽くチュッとキスをした。

「あ~~~~!!」

 声にならない悲鳴が聞こえたよ。声がした方を見ると、ユリアがなぜか力尽きて床に座り込んでいた。

 ケイ兄さんは精悍でハンサムな顔をだらしなく崩して、嬉しそうで幸せそうに笑った。私も嬉しくて笑う。

「アキ、お腹空いたな。用意して食べにいくか?」

「そうだね、お腹空いたよ」

 ケイ兄さんは私を抱っこしたまま、洗面所に向かった。部屋に戻ったら、ユリアは灰になっていたよ。

「ユリア、大丈夫?」

 そう声をかけたら、無表情のまま涙を流して抱きついてきた。

 珍しく、ケイ兄さんは離そうとはしない。いつもなら、速攻引き離そうとするのに。なら、仕方ないわね。

「苦しい。離れてくれないと、嫌いになる」

 嫌いになるって言葉に反応して、ユリアはパッと離れると直立不動になる。約一年近く一緒に生活していたのよ、ユリアの扱いにもなれたわ。

「ユリア、食堂に案内してくれる」

「畏まりました」

 なぜか、ユリアって私のことが好きなんだよね。隙があれば、愛玩動物のような可愛がり方をしてくる。嫌われるよりは断然マシだけどね……たまに重く感じるのは、私の我儘かな。

 ケイ兄さんとユリアと一緒に食堂に向かったら、すでにニノリスさんが座っていた。促されて、私もケイ兄さんも座る。

「……ケイとは、昨晩、少し話したんだけど、アキはどうしたい?」

 朝の挨拶もそこそこに、ニノリスさんは訊いてきた。ケイ兄さんも私を見ている。

「一切の誤魔化しもなく、私のままで戦いたいと思います」

 魔力量も属性も隠すつもりはない。隠したとしても綻びは必ずくる。そしてそれは、私にとって致命傷に近い傷を与えるかもしれない。貴族社会はそれだけ闇深く、狡猾だから。

「それが、アキの望みか……」

「はい。真っ向勝負がやつらには一番攻撃力が高いと思うから。それに、身を護るためとはいえ、嘘はやつらにとって付け入る隙を与えると思うので避けたい」

「確かにそうだな……ケイはどう思う?」

 ニノリスさんがケイ兄さんに意見を求めた。

「俺は……やつらに付け入る隙を与える前に、母さんと一緒に、他国に逃げてもいいと考えていたけど、アキは嫌なんだろ?」

 困った表情でケイ兄さんが訊く。

「うん。逃げたくない。やつらに、私と言う存在を刻みつけてやる。そのために、この一年血を吐いて、何度も死んで、やり遂げたの」

「……血を吐いて、何度も死んで………」

 あっ、しまった!! 地雷を何個も一緒に踏んじゃった。こういう時は――

「それを望んだのは私だよ。それに、そのおかげで、スタート地点に立つことができたの。ニノリスさんに感謝はしても、怒るのは筋違いだよ」

 私はケイ兄さんの袖を引っ張りながら言った。この袖を引っ張るのがポイント。

「…………わかった。あとで、じっくりと話そうな、ニノリス」

 あれ? 先延ばしになっただけかな?

「そうと決まれば、目下の心配事は魔力測定の儀だね。アキの魔力量は桁違いだから、やつらは必ずその日に仕掛けてくる。たぶん、〈魔力封じの腕輪〉が使われるだろうね」

 ニノリスさんはケイ兄さんの台詞をスルーして話を進めた。

「〈魔力封じの腕輪〉って、簡単に用意できるものですか?」

「教会が所有しているな」

 私の疑問にケイ兄さんが答えてくれた。あ~なんとなく見えてきたよ。

「魔族と同じ目を持つ私が、高い魔力量を有していたと知れば、教会としては確実に恐怖の対象になるよね。排除しようと動くはず。あの人にとっても、私が目立つことは避けたいし、これ幸いに了承するわね」

 目に見えるわ。なんなら、ゲンジュ公爵家の騎士も参加するんじゃない。

「アキは〈魔力封じの腕輪〉の使用条件を知ってるかい?」

 ニノリスさんはとても良い笑顔で訊いてきた。目はまったく笑ってないけどね。

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