大嫌いな聖女候補があまりにも無能なせいで、闇属性の私が聖女と呼ばれるようになりました。

井藤 美樹

文字の大きさ
上 下
9 / 104
第一章 死亡フラグ回避のために冒険者を目指します

体力アップの訓練開始です

しおりを挟む

 正式に、ニノリスさんが教えてくれることになって四日目。

 私は体力アップのために走り込みと体幹を鍛える訓練を続けていた。ニノリスさんも仕事があるから、常に私の講師をしてくれるわけもなく、主に執事のキルトさんが私の相手をしてくれている。テストの時にユリアと一緒に後ろで控えていた人だ。

 特に課せられる課題は難しいものじゃないよ。無茶振りもされていない。

 なのに、なんでこうも何回も気絶してるの!? 私、この屋敷にきてから何回気絶した? もう、軽く十回は越えてるわね。訓練場を三週走るだけだよ!? 子供の私でもできることだよ、普通ならね。でも、このざま……もしかして、訓練所自体にカラクリがあったりして、まさかね……

 身体が鉛のように重い。指一本動かすのも辛い。だから、立ち上がれなくて倒れたままが悪かった。

「そのまさかですよ、アキ様」

 動けない私に、覆い被さろうとする体制でユリアが答えた。 

「近い!! 離れて!! えっ!? 口に出してた?」

 なんとか、腕を伸ばしユリアと強制的に距離を取る。

「いえ、アキ様は顔に出ますので。それにしても、なにを照れていらっしゃるのですか、私にすべて晒しているのに」

 その台詞に、全身カッと熱くなったよ。火事場のクソ力ってこのことをいうのかな、起き上がれて、ユリアの魔の手から逃げ出すことに成功したよ。ほんと、優秀なのは見てればわかるけど、性格にかなり難有りよね!! 一応主である私をからかって遊んでるんだから。

「変な言い方しないで!! 動けなくて意識がなかった私をお風呂に入れてくれただけでしょ!!」

 その事実だけですでに黒歴史なのに!! 

「はい。この手で隅々まで洗わせていただきました」

「言い方!!」

 過剰な反応をするから、からかわれるってわかってはいるんだけど……のせられて反応してしまう。そんな中、静かに声を発したのはキルトさんだった。

「先ほどのアキ様の疑問ですが、この訓練場は普通の訓練場ではありません。強制的に負荷がかかるように設定されております。今は一番軽いものですが。そもそも、一年足らずで冒険者としての基礎体力を身に付け、そして魔力操作を覚える。最低、早くて三年はかかることを一年で習得しようとしているのです。普通の方法では不可能だと思いませんか」

 ユリアの代わりにキルトさんが教えてくれた。口調は柔らかいけど、芯はゾッとする冷たさがある。ニノリスさんとは違う冷たさだ。

 彼は私を見てにっこりと微笑む。

 キルトさんの言う通りだ。ほんと、今さらだけどニノリスさんってスパルタだよね。でも、無理を言ったのは私。我が儘を貫いたのも私。優しいニノリスさんは忙しい中親身になって、私の願いの手助けをしてくれている。なら、やり通さないとね!!

「確かにそうですね。それで、合格点は何段階目ですか?」

「あと、三段階は越えてもらわないといけませんね。ちなみに今は、一段階にもきていません」

 キルトさんは優しい言葉をかけてはくれないけど、嘘は吐かない。大袈裟なことも口にはしない。訊けば、答えれる範囲で事実をちゃんと教えてくれる。

「魔力操作を学ぶ時間を考えたら、この課題、何か月でクリアすればいいの?」

「半年ですね」

「最低で?」

 正直、猶予があるのかないのかわからない。でも、期限があることにはかわりはないわ。

「はい」

「なら、五か月でクリアできるように組んでもらえませんか?」

「理由を伺ってもよろしいですか?」

 そう希望するとキルトさんが訊いてきた。

「戦意喪失のボロボロの状態で、魔法操作を学べるとは思えないから。それに、今の訓練がスムーズにいくかどうかもわならないでしょ。途中で熱や怪我のせいで訓練を休むことを考えたら、一か月の猶予が欲しいかなって……無理ですか?」

「畏まりました。そのように組みましょう。ただ……厳しいものになることはご理解ください」

 わざとじゃないよね。ただって言ってから、間をおいたの。自分からお願いしたのに、ちょっと後悔してきたよ。
 
 ガクブルと震えている私の背後に、いつの間にかユリアが身体を屈め耳元で囁く。

「私のご褒美が増えますね。ありがとうございます、アキ様」

 私、はやまったかも……

 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

実家を追放された名家の三女は、薬師を目指します。~草を食べて生き残り、聖女になって実家を潰す~

juice
ファンタジー
過去に名家を誇った辺境貴族の生まれで貴族の三女として生まれたミラ。 しかし、才能に嫉妬した兄や姉に虐げられて、ついに家を追い出されてしまった。 彼女は森で草を食べて生き抜き、その時に食べた草がただの草ではなく、ポーションの原料だった。そうとは知らず高級な薬草を食べまくった結果、体にも異変が……。 知らないうちに高価な材料を集めていたことから、冒険者兼薬師見習いを始めるミラ。 新しい街で新しい生活を始めることになるのだが――。 新生活の中で、兄姉たちの嘘が次々と暴かれることに。 そして、聖女にまつわる、実家の兄姉が隠したとんでもない事実を知ることになる。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

結界師、パーティ追放されたら五秒でざまぁ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「こっちは上を目指してんだよ! 遊びじゃねえんだ!」 「ってわけでな、おまえとはここでお別れだ。ついてくんなよ、邪魔だから」 「ま、まってくださ……!」 「誰が待つかよバーーーーーカ!」 「そっちは危な……っあ」

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

処理中です...