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第一章 死亡フラグ回避のために冒険者を目指します
ヘタしたら死んでいたそうです
しおりを挟む「よく寝ていたね、アキ」
食堂に入ると、にっこりと微笑みながらニノリスさんが声をかけてきた。
「すみません、昨日、あんまり寝ていなかったから、ぐっすり寝ちゃいました」
謝ってから、ニノリスさんの向かいの席に腰を下ろした。
「まぁ、それだけじゃないけどね。過度なストレス、それにあれほどの殺気を間近で浴びたのだから、普通倒れるよ。ほんと、倒れただけですんでよかった。もしかして、蘇生魔法をかけなくちゃいけないって、内心ヒヤヒヤだったんだ」
美味しそうに赤ワインを飲みながら、ニノリスさんは機嫌良さそうに言った。
おいおい。前半はわかるよ。でも、後半はどういう意味かな? 蘇生魔法を使うことになりそうって、
「……私、ヘタしたら死んでいたんですね」
「うん、そう。心臓麻痺でね」
さらりと言ってのけたよ、この人。腹が立つけど、突っ込むの止めておこう。この人はこういう人なんだって理解しなきゃ、この先やっていけないわ。それでも訊いておく。
「なぜ、生きていたんですか?」
「アキは魔法耐性が人一倍高いからね」
それじゃ答えになっていない。
「殺気は魔力じゃないですか? それに、仮に殺気が魔力なら、ニノリスさんがくれたネックレスで防げるのでは?」
ニノリスさんの言い方では、それでは護れないって言っている。
「正確に言えば、殺気は魔力ではないよ。似たものなら、手練の剣士が渾身の一撃を出した時の覇気みたいなものかな」
「それなら、なんとなくわかります」
「でも、それをアキは魔力だと判断した。そこが一番のネックだね」
よくわからなくて、私は軽く首を傾げる。
「ケイの身体を覆うオーラを見たよね。アキはそれを負の魔力だと思い込んだんだよ」
なんとなく、ニノリスさんが言いたいことがわかってきたよ。
「……だから、無意識のうちに防衛本能が働いたってことですか? でも本質は魔力ではないから、ネックレスでは防げない」
「その通り!!」
ニノリスさんは拍手した。
さっきまで休んでいたのに、この短時間でどっと疲れたよ……休みたい。魔法が絡んだ時のニノリスさんとの会話はとても緊張する。それは、初めて会った時からだった。
なんていうのかな……上手く表現できないけど、あえて表現するなら、研ぎ澄まされた刀のような感じがするの。Sランクの最高位魔術師なら当然かもしれないけど。私がなにを考えてるか、ニノリスさんはわかってそうだよね。
そんなことを考えてると、タイミングよく、ニノリスさんは私に向かってにっこりと笑った。
もう考えるのはよそう。お腹すいたし。緊張してても疲れててもお腹はすくからね。
あれ? 温かい? 冷めてない。まるで、今出されたみたい。あ……これも魔法具か魔法か。繊細な魔法。本当に凄いよ、ニノリスさんは。ケイ兄さんに心から感謝するよ。ありがとう、ケイ兄さん。
「明日からだけど……」
ニノリスさんの声に私は食事の手を止めた。
「まずは、身体作りから始めてもらうね。そこら辺の魔術師じゃなくて、冒険者になるなら体力アップは必須だよ」
楽しそうににっこり微笑んだ笑顔に、私は口元を引き攣りながら、なんとか笑みを返した。ご飯の味が一気にしなくなったよ……
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