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第一章 死亡フラグ回避のために冒険者を目指します

冷徹メイドと八つ当たり

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 ……天井が違う。家よりも軽くてふわふわな布団。ここはどこ?

 うっすらと目を開け周囲を確認する。少し薄暗い。ぼんやりとした頭でそんなことを考えていたら、声がした。

「お目覚めですか? アルキア様」

 名前を呼ばれて、私は声をした方へと視線を向ける。

 ……あ……私、皆の前で気を失ったんだ。現状を把握したわ。

 それにしても、冷徹メイド。完全に表情筋死んでるよね。綺麗な顔をしてるのに勿体ない。ユリアがにっこりと微笑んだら直ぐに彼氏できるよね、絶対。

「あまりボケッとしてますと、締まりの無い顔がさらに締まりなくなりますよ」

 これは悪口かな? 少なくとも、メイドが言っていい台詞じゃないよね。

「……元々締まりの無い顔をしてますので、ご心配なく……ん? あれ?」

 そう言い返しながら上半身を起こす。そっか……ここはニノリスさんの家。私、途中で気を失ったんだった。ところで……私の服は? そもそも、どうやって着替えたの? まさか……!?

「はい。私が、アルキア様の服を脱がし、寝間着に着替えさせてもらいました。汚れた服のまま、ベッドに寝かすのが私的に嫌でしたので。夕食の時間ですが、お召になられますか?」

 もう、夕食の時間? 何時間寝てたの私? 昨晩、夜更かししたからかな……ちょっと、反省。それは置いていて、ほんと、自己主張激しいメイドね。まぁ、別に構わないけど。だって、庶民の私に貴族が雇用しているようなメイドって堅苦しくていらないもの。正直、落ち着かないしね。

「……お腹すいたから、夕食は食べます。自分で用意をするので、扉のところで待ってもらっていいですか?」

 何度もいうけど、私、貴族籍を持ってるけど庶民だからね。着替えを手伝ってもらうなんて、恥ずかしくてできないわ。

「嫌です」

 ベッドから下りた私の真後ろで、ユリアがやや不満そうな声で答えた。

「はぁ!? 私がいいっ「嫌です。私の役得を取らないでください」」

 また被せてきたよ……ん? 役得? 役目じゃなくて?

 そんなことを考えていたら、夜着のワンピースをあっという間に脱がされた。そしてそのまま、違うワンピースを着せられた。

 呆気に取られているうちに、いつの間にかドレッサーの前に誘導されて座っていたよ……ものの数分の出来事だった。髪もセットされちゃったよ。

 鏡に映るのはどこかの高貴なご令嬢。

 よく化けたものね……でも、なんか嫌だ。

 とても可愛くできたとユリアは思ってるかもしれないけど、私は鏡に映る自分が嫌で唇を噛んだ。

「お気に召しませんでしたか?」

 私の僅かな表情の変化に気付いたユリアが訊いてくる。

「ううん、まるで自分じゃないみたい。……ユリアさん、私のことをアルキアとは呼ばないで」

 私はそうきつめの口調で言うと立ち上がると、そのままドアに向かった。腹が立つ態度をとってしまった。ユリアさんに八つ当たりしていることはわかってる。だけど、今の私の顔を見られたくはなかったの。せっかく綺麗にしてもらったのに、こんな酷い顔じゃ、ユリアさんに悪いでしょ。

「畏まりました。これからは、アキ様と呼ばせてもらいます」

 私の前を歩きながらユリアは答える。私の前に移動しようとした時、あえて私の表情を確かめようとはしなかった。

「……アキでいいです。皆、そう呼んでるから」

 様と呼ばれる度に、むず痒さと不快感で叫びたくなる。

「それはなりません。私はアキ様に仕えるメイドです」

 やっぱり駄目か……ユリアは真面目だから。黙り込む私にユリアは言った。

「アキ様が、様呼びされることを嫌がる気持ちは理解できます。もう一人の自分を嫌でも思い出すからですね。しかしそれは仕方ないこと。これから先、今以上に思い出す機会があります。その度に傷付いた顔をしていては、いずれ大事なものを護れなくなります」

 淡々にそう告げるユリアの言葉に、私は途中から顔を上げて聞いていた。不思議と怒りは沸かない。なぜか、ストンとユリアの言葉が胸に落ちた。かなり、プライベートに踏み込まれたのにね。

「……それは嫌です」

 ポツリと答える私。

「ならば、慣れてください。それと、私にさん付けは不要です。それと、たまに出る敬語も控えてください」

「わかった」

 私がそう答えるとユリアは小さく頷く。

「アキ様、これだけは覚えておいてください。私は決してアキ様を裏切りません。常に、傍に控えて、貴女を如何なる敵からも護ってみせます」

 ユリアが私に仕えているのは、ニノリスさんの命令だからだよね。ってことは、ユリアとの付き合いはこの屋敷にいる間だよね。一抹の不安を感じたよ。正直、少し引いた。真面目だから出る言葉だよね……

 そんな会話をしていると、食堂に到着したみたい。私の知らない従者がドアの横に控えていた。従者は私を確認するとドアを開けた。

 
 
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