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第一章 死亡フラグ回避のために冒険者を目指します

冷徹メイドに抱っこされました

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「はぁ!?」

 すっごくドスが効いてますね、ケイ兄さん。と同時に、ケイ兄さんにまとわりつく黒いオーラ。私は怒声よりも、その黒いオーラの方が怖かった。

 とても冷たくて、なのに触れたら骨の髄まで燃やされそうな感じ――

 初めて味わう体感だった。

 正直ビビッたよ。二度目のお漏らしの危機。言っとくけど、してないからね。わけもわからず、ガタガタと震える私に気付いたケイ兄さんは、慌てて私に取り繕う。黒いオーラは嘘のように消えていた。

「ご、ごめん、大丈夫か!? アキ」

「……だ……大丈夫」

 なんとか声を出す。でも、息を吐き出す程度の小さな声。それも震えながらのものだった。

 自分の仕出かしたことによる罪悪感で、顔を歪め辛そうな表情をしながら、ケイ兄さんは私を心から心配している。その姿を見て、ニノリスさんは軽く溜め息を吐いてから私に教えてくれた。

「今、アキがケイから感じたのが殺気だ」

「殺気……あの黒いオーラが……」

 私がそう答えると、ニノリスさんは一瞬目を丸くしてから口元に笑みを浮かべる。

「黒いオーラか……アキにはそう見えたんだね。そうか……君は見える目を持っているのか……なかなか、面白いことになりそうだね」

 一人完結したような話し方。説明求む。普段の私ならそう言い返したいところこだけど、まだ復活していない私には無理だった。なので、目で訴える。

「……仕方ないな。アキが感じ、目で見た黒いオーラは殺気だって言ったよね」

 訴えは受理されたみたい。小さく頷く私にニノリスさんは続ける。

「なら、聞いたことはないか? 人を殺しそうな目をしてるヤバいヤツがいるぞとか……まぁ大概が、怒りで我を忘れた時とか、憤怒を内に溜めている人が敵にあった時とかに言ったりするけど、普通は人を傷付けることはできないよな」

 私はまた小さく頷く。

「でもな、中にはその後で不幸に見舞われるヤツもいる。自分の不注意で。そういうヤツは、引っ張られたんだ。アキ、お前も感じただろ恐怖を」

 あっ……そうか……あの、震えは恐怖からきてたんだ。納得したよ。

 私はケイ兄さんを見上げる。今のケイ兄さんからは、そんなもの微塵も感じない。とても優しくて、頼りがいがあって、それで、すごい抜けているケイ兄さん。今も、とても戸惑ってどうしようか悩んでいる。でも、私を下ろしはしてないけどね。

 その姿のギャップに、なんか笑えてきちゃう。元を正せば、ケイ兄さんのシスコンが爆発しただけだからね。

「……アキ? 大丈夫か!?」

 カッコイイ顔をゼロ距離で拝めたよ。妹の特権だね。私も大概ブラコンだからね。

「大丈夫。別に、精神がやられたわけじゃないから。ケイ兄さんらしいなって思っただけ」

「重度のシスコンだからね」

 私があえて濁してたのに、はっきりとニノリスさんが言った。私は苦笑する。

 和やかな雰囲気に戻った途端、ニノリスさんが再度爆弾を落としてくれた。

「それで、ケイはいつまでここにいるつもり? ケイ、お前はアキのいない間にSランクになれ」

 そう言い終えたと同時に、ニノリスさんは右手を軽く横に振った。さっきまで私を支えていた手がなくなる。

 落ちる――!!

 身構えたけど痛みは襲ってこない。代わりに、今度は柔らかいものに包まれていたから。

「大丈夫ですか? アルキア様」

 目を開けると、今度は冷たいメイドのドアップ。一瞬で、あの距離を詰めたの!? 驚いて反応できない私に、再度表情を変えずにユリアは尋ねてきた。

「大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫」

「そうですか。それはよかったです」

 表情と口調あってないよね!! そこは和む場面じゃないかな。それよりも、

「あの……ユリアさん、そろそろ下ろしてくれませんか?」

 なぜか敬語になってしまったよ。

「嫌です。今日はお疲れのようですから、このままベッドまで運びます」

 なぜ!? ケイ兄さんも超過保護だったけど、なんかユリアのは違うような気がする……

「大丈夫だから下ろして!!」

「嫌です」

 私の足掻きは、この一言で簡単に封じられてしまった。ニノリスさんに助けを求めようとしたら、声を上げて笑われた。

「アキ、ユリアに気に入られたみたいだね。だったら、アキがこの屋敷にいる間はユリアにアキの世話を頼もうか?」

「えっ……それはい「畏まりました」」

 お断りしようとしたら声を被せてきたよ、この冷徹メイド。

「今日はゆっくり休んで、明日から修行を始めるよ。アキよく頑張ったね、合格だよ」

 合格……私、合格したんだ…………

「合格おめでとうございます、アルキア様」

 相変わらず表情は変わらないユリアだけど、お礼はきちんと言わないといけないよね。

「ありがとう、ユリア」

 少し目を見開くユリア。私が覚えているのはそこまでだった。意識を失うほど疲れていたみたい。
 
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