大嫌いな聖女候補があまりにも無能なせいで、闇属性の私が聖女と呼ばれるようになりました。

井藤 美樹

文字の大きさ
上 下
5 / 104
第一章 死亡フラグ回避のために冒険者を目指します

ケイ兄さんにバレました

しおりを挟む

「――だそうだ、ケイ」

 ニノリスさんが扉に向かって声をかけた。それを合図に、ケイ兄さんが部屋に入ってきた。

 なっ、なんで!? なんで、ケイ兄さんがここにいるの!? 

 焦って混乱している私を、ケイ兄さんは冷えた目で見下ろす。タラタラと汗が落ちてきた。

 これ……激おこだ。ここまで怒ったケイ兄さん見たことがないよ、マジ怖い。漏らしそう。漏らさないけどね!!

 さっきまでとは違う張り詰めた空気が、室内を支配している。私の隣に立つ人物が原因で。

 助けを求めるようにニノリスさんを見たらニコッと笑った。口にしなくてもわかるよ。この空気をどうにかせよって言ってるんだよね!? わかったわよ!! やればいいんでしょ!!

「…………ま、魔物の討伐に行ってるんじゃないの?」

 恐る恐る尋ねる。ちょっと声が震えた。

「俺はお前の兄だぞ、お前がなにか企んでいることぐらい気付かないと思うか?」

 バレてた!? あんなに慎重に動いてたのに!? どんな嗅覚してるのよ!?

「魔物の討伐は嘘?」

 ケイ兄さんならありえる。超シスコンだから。

「討伐はして来たぞ」

「えっ!? 日帰りで、それも午前中で帰ってこれる距離じゃないよね!? あっ、転移移動の魔法紙を使ったの?」

「ああ。帰りにな」

 いやいや、討伐場所って馬を飛ばして半日は有にかかる距離だよね。夜が明けきらぬうちに出発しても、まず無理だよね。強化魔法を使ったとしてもありえない。ぶっ飛んでる。超人か!?

「これが、Sランクに最も近い者の実力だよ、アキ」

 ニノリスさんが笑みを崩さないまま教えてくれた。

「…………私が目指す場所」

 心の声が無意識に口から出た。部屋の空気が柔らかになる。少し、ケイ兄さんが照れた表情をしたから。

「ちなみに、僕はもうSランクだけどね」

 ニノリスさんの台詞に、ケイ兄さんに向けていた視線を彼に向けた。途端に、不機嫌になるケイ兄さん。
 
 あの激おこバージョンにはなっていないよね……これってチャンスじゃない。いつかは、向き合って話さないといけないって思っていた。

 私はケイ兄さんに視線を戻した。

「いつから、ケイ兄さんが話を聞いていたかわからないけど、私、魔法を習いたいの!! そして、ケイ兄さんと同じ冒険者になる!! 私の我が儘を許して!!」

 必死で願う。家族には認められたいから。

「なりたいんじゃなくて、なるか」

 真剣な目でケイ兄さんは私を見下ろし言った。

「……真剣に冒険者をしているケイ兄さんやニノリスさんにとっては、私の動機は不純すぎる動機だよね。それでも、私はSランクの冒険者にならないといけないの!!」

「生き残るためにか?」

 その問いかけに、私は小さくコクリと頷いた。

「私にはなんの武器もないから。ケイ兄さんやニノリスさんの後ろ盾は外では通用しても、学園内では通用しない。奇跡的にも、この一年以内にあいつらが私を貴族籍から外したとしても、私は平民として学園に行かなければならない。この魔力量のせいで」

 魔力量が多いことは知っていた。赤ちゃんの時、泣いただけで物を壊していたって聞いていたから。

 魔力測定の儀を受けないことも魔力量を誤魔化すこともできない。神の遺物からつくられた魔法具だからだ。

 私がまだアルキア・ゲンジュのままなら、当然、ゲンジュ公爵家に報告が上がるだろう。平民として受けたら、報告は聖王国に上がる。上がる場所が違うだけ。魔力量関係なく、貴族の令嬢、令息は強制的に学園に通わなくてはいけない。平民の場合は、一定量の魔力を越えた者は強制的に入学させられる。

 どちらにせよ、私は七年後に学園に入学するわけ。めっちゃ、回避したいけどね。それは正直難しいし不可能。他国に渡ってもね。それが現実。

「だとしても、なぜ、俺に相談しなかった?」

「反対されると思って……」

「反対されても、諦めることができないんだろ? なら、家族として一言あるべきじゃないか? こんな形で知らされる俺がどんな気持ちかわかるか? アキにって、俺は話がわからない兄なのか?」

 ケイ兄さんの表情はあまり変わらない。でも、私を見下ろす目は悲しに溢れ傷付いていた。

 私って、なんて馬鹿なの……

 大切な家族を、最低最悪な形で傷付けてしまった。これは裏切りと同じだよ。

「ご……ごめんなさい……ケイ兄さんを傷付けて、裏切ってしまって、ごめんなさい。ごめんなさい」

 私はポロポロと泣きながらケイ兄さんに謝り続けた。

 しばらく泣いていると、ケイ兄さんが私の頭を撫でてくれた。その温かみに、私はさらに声を上げて泣いた。

「なんで、泣く!?」

 焦るケイ兄さんの声とニノリスさんの笑う声がする。ケイ兄さんは私を抱き上げて背中を撫でてくれた。

 ようやく泣き止んだ私に、ニノリスさんが悪戯っ子のような笑みを浮かべながら言った。

「アキ、試験は合格だよ。今日から、ここに住んでね。あっ、ケイはいらないから」

 いらないーー

 超シスコンのケイ兄さんに、その台詞は禁句だよ。こめかみに血管が浮いてる!! あっでも、Sランクだから、ケイ兄さんよりも強いよね。なら、大丈夫……だよね。



しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

妹が真の聖女だったので、偽りの聖女である私は追放されました。でも、聖女の役目はものすごく退屈だったので、最高に嬉しいです【完結】

小平ニコ
ファンタジー
「お姉様、よくも私から夢を奪ってくれたわね。絶対に許さない」  私の妹――シャノーラはそう言うと、計略を巡らし、私から聖女の座を奪った。……でも、私は最高に良い気分だった。だって私、もともと聖女なんかになりたくなかったから。  退職金を貰い、大喜びで国を出た私は、『真の聖女』として国を守る立場になったシャノーラのことを思った。……あの子、聖女になって、一日の休みもなく国を守るのがどれだけ大変なことか、ちゃんと分かってるのかしら?  案の定、シャノーラはよく理解していなかった。  聖女として役目を果たしていくのが、とてつもなく困難な道であることを……

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

追放された魔女は、実は聖女でした。聖なる加護がなくなった国は、もうおしまいのようです【第一部完】

小平ニコ
ファンタジー
人里離れた森の奥で、ずっと魔法の研究をしていたラディアは、ある日突然、軍隊を率いてやって来た王太子デルロックに『邪悪な魔女』呼ばわりされ、国を追放される。 魔法の天才であるラディアは、その気になれば軍隊を蹴散らすこともできたが、争いを好まず、物や場所にまったく執着しない性格なので、素直に国を出て、『せっかくだから』と、旅をすることにした。 『邪悪な魔女』を追い払い、国民たちから喝采を浴びるデルロックだったが、彼は知らなかった。魔女だと思っていたラディアが、本人も気づかぬうちに、災いから国を守っていた聖女であることを……

婚約破棄……そちらの方が新しい聖女……ですか。ところで殿下、その方は聖女検定をお持ちで?

Ryo-k
ファンタジー
「アイリス・フローリア! 貴様との婚約を破棄する!」 私の婚約者のレオナルド・シュワルツ王太子殿下から、突然婚約破棄されてしまいました。 さらには隣の男爵令嬢が新しい聖女……ですか。 ところでその男爵令嬢……聖女検定はお持ちで?

結界師、パーティ追放されたら五秒でざまぁ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「こっちは上を目指してんだよ! 遊びじゃねえんだ!」 「ってわけでな、おまえとはここでお別れだ。ついてくんなよ、邪魔だから」 「ま、まってくださ……!」 「誰が待つかよバーーーーーカ!」 「そっちは危な……っあ」

処理中です...