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第一章 死亡フラグ回避のために冒険者を目指します

ケイ兄さんにバレました

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「――だそうだ、ケイ」

 ニノリスさんが扉に向かって声をかけた。それを合図に、ケイ兄さんが部屋に入ってきた。

 なっ、なんで!? なんで、ケイ兄さんがここにいるの!? 

 焦って混乱している私を、ケイ兄さんは冷えた目で見下ろす。タラタラと汗が落ちてきた。

 これ……激おこだ。ここまで怒ったケイ兄さん見たことがないよ、マジ怖い。漏らしそう。漏らさないけどね!!

 さっきまでとは違う張り詰めた空気が、室内を支配している。私の隣に立つ人物が原因で。

 助けを求めるようにニノリスさんを見たらニコッと笑った。口にしなくてもわかるよ。この空気をどうにかせよって言ってるんだよね!? わかったわよ!! やればいいんでしょ!!

「…………ま、魔物の討伐に行ってるんじゃないの?」

 恐る恐る尋ねる。ちょっと声が震えた。

「俺はお前の兄だぞ、お前がなにか企んでいることぐらい気付かないと思うか?」

 バレてた!? あんなに慎重に動いてたのに!? どんな嗅覚してるのよ!?

「魔物の討伐は嘘?」

 ケイ兄さんならありえる。超シスコンだから。

「討伐はして来たぞ」

「えっ!? 日帰りで、それも午前中で帰ってこれる距離じゃないよね!? あっ、転移移動の魔法紙を使ったの?」

「ああ。帰りにな」

 いやいや、討伐場所って馬を飛ばして半日は有にかかる距離だよね。夜が明けきらぬうちに出発しても、まず無理だよね。強化魔法を使ったとしてもありえない。ぶっ飛んでる。超人か!?

「これが、Sランクに最も近い者の実力だよ、アキ」

 ニノリスさんが笑みを崩さないまま教えてくれた。

「…………私が目指す場所」

 心の声が無意識に口から出た。部屋の空気が柔らかになる。少し、ケイ兄さんが照れた表情をしたから。

「ちなみに、僕はもうSランクだけどね」

 ニノリスさんの台詞に、ケイ兄さんに向けていた視線を彼に向けた。途端に、不機嫌になるケイ兄さん。
 
 あの激おこバージョンにはなっていないよね……これってチャンスじゃない。いつかは、向き合って話さないといけないって思っていた。

 私はケイ兄さんに視線を戻した。

「いつから、ケイ兄さんが話を聞いていたかわからないけど、私、魔法を習いたいの!! そして、ケイ兄さんと同じ冒険者になる!! 私の我が儘を許して!!」

 必死で願う。家族には認められたいから。

「なりたいんじゃなくて、なるか」

 真剣な目でケイ兄さんは私を見下ろし言った。

「……真剣に冒険者をしているケイ兄さんやニノリスさんにとっては、私の動機は不純すぎる動機だよね。それでも、私はSランクの冒険者にならないといけないの!!」

「生き残るためにか?」

 その問いかけに、私は小さくコクリと頷いた。

「私にはなんの武器もないから。ケイ兄さんやニノリスさんの後ろ盾は外では通用しても、学園内では通用しない。奇跡的にも、この一年以内にあいつらが私を貴族籍から外したとしても、私は平民として学園に行かなければならない。この魔力量のせいで」

 魔力量が多いことは知っていた。赤ちゃんの時、泣いただけで物を壊していたって聞いていたから。

 魔力測定の儀を受けないことも魔力量を誤魔化すこともできない。神の遺物からつくられた魔法具だからだ。

 私がまだアルキア・ゲンジュのままなら、当然、ゲンジュ公爵家に報告が上がるだろう。平民として受けたら、報告は聖王国に上がる。上がる場所が違うだけ。魔力量関係なく、貴族の令嬢、令息は強制的に学園に通わなくてはいけない。平民の場合は、一定量の魔力を越えた者は強制的に入学させられる。

 どちらにせよ、私は七年後に学園に入学するわけ。めっちゃ、回避したいけどね。それは正直難しいし不可能。他国に渡ってもね。それが現実。

「だとしても、なぜ、俺に相談しなかった?」

「反対されると思って……」

「反対されても、諦めることができないんだろ? なら、家族として一言あるべきじゃないか? こんな形で知らされる俺がどんな気持ちかわかるか? アキにって、俺は話がわからない兄なのか?」

 ケイ兄さんの表情はあまり変わらない。でも、私を見下ろす目は悲しに溢れ傷付いていた。

 私って、なんて馬鹿なの……

 大切な家族を、最低最悪な形で傷付けてしまった。これは裏切りと同じだよ。

「ご……ごめんなさい……ケイ兄さんを傷付けて、裏切ってしまって、ごめんなさい。ごめんなさい」

 私はポロポロと泣きながらケイ兄さんに謝り続けた。

 しばらく泣いていると、ケイ兄さんが私の頭を撫でてくれた。その温かみに、私はさらに声を上げて泣いた。

「なんで、泣く!?」

 焦るケイ兄さんの声とニノリスさんの笑う声がする。ケイ兄さんは私を抱き上げて背中を撫でてくれた。

 ようやく泣き止んだ私に、ニノリスさんが悪戯っ子のような笑みを浮かべながら言った。

「アキ、試験は合格だよ。今日から、ここに住んでね。あっ、ケイはいらないから」

 いらないーー

 超シスコンのケイ兄さんに、その台詞は禁句だよ。こめかみに血管が浮いてる!! あっでも、Sランクだから、ケイ兄さんよりも強いよね。なら、大丈夫……だよね。



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