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第一章 死亡フラグ回避のために冒険者を目指します
行動開始です
しおりを挟む泊まりがけで、ケイ兄さんはソロで魔物討伐に行っている。
だから、狙うとしたらこの時しかない。
昨晩のうちに、ニノリスさんに家に行く許可を貰ってある。ケイ兄さんが知らない秘密の方法でね。実は、魔術書を貸してくれた時に紙の束を貰っていたの。用があったら、その紙に要件を書いて飛ばせば、ニノリスさんの所に届くようになっているの。魔法ってほんとすごいね。滅多に使わないけど。
早朝、いつもより早く起きてリビングに行けば、メイド服を着た綺麗な女の人が、お茶を飲んでジュリアと談笑していた。
女の人は私に気付くと、音を立てずに椅子から腰を浮かせ、ピンっと背筋を伸ばしてにこやかな笑みを浮かべながら、私に挨拶をしてきた。その時間、わずか数秒。呆気にとられながら、私は女の人の挨拶を聞いていた。
「おはようございます、アルキア様。私はニノリス様に御使いしておりますユリアと申します。主の命により、お迎えに伺いました」
丁寧過ぎる挨拶だった。それが不気味に感じるのはなんでかな?
「……ありがとうございます」
若干、顔を引き攣らせながら笑顔で答える。でもその笑顔は、次の瞬間完全に消えた。
走馬灯のように悪夢が蘇ったから。
完全に忘れてた。っていうか、記憶を封じていた? そんなのどっちでもいいけど、ニノリスさんの家って超お金持ちなんだけど、なぜかダンジョン化してるの。大袈裟じゃなくてね……
魔術書を借りに行った時、冗談抜きで死んだと思ったわ……広さではなくて、迷宮的なもので。
防犯的な意味があるらしいけど、年端もいかない子供を迷わしてどうするのよ!! そう抗議したら、「僕の知り合いに、この程度の迷路を突破できない人はいないから」とにっこりと笑いながら答えてたよ。天才って、ある意味怖いんだって勉強したわ。これは余談だけど、あとで私が迷子になったことを知って、ケイ兄さんがマジ切れして突撃したわね……地獄化してたけど、うん、良い思い出だね。
「アキ、顔を洗っておいで。朝ご飯用意しておくから」
ジュリアの声で現実世界に戻った私は洗面所に向かった。なぜか、当然のように後ろを付いてくるユリア。
「どうして、付いてくるんですか?」
ちょっと素っ気なかったかな。
「ニノリス様に、無事連れてくるように命じられておりますので」
平然と答えるユリア。
「……ここ、まだ私の家なんだけど」
「そうですが、危険はどこにでも潜んでますので」
ケイ兄さんと話し合いそう。どうやら、引く気はなさそうね。真面目なのはいいけど……それよりも、その 冷たい氷のような目はなに? 子供の相手は嫌なの? 仮にもメイドなんだから、そこは隠そうよ。まぁ別にいいけど。数時間我慢すればすむことだし。この時は、そう思ってたんだよね……
顔を洗って服も着替えて用意がすんだ途端、ユリアは抑揚がない口調で告げた。
「用意はすみましたね。では、参りましょう」
そう告げると、ユリアは一枚の紙を取り出した。その紙が広げられ床に落ちた途端、私とユリアの足元に魔法陣が現れた。
えっ!? 転移魔法!? まさか、直接飛んでいくの!?
混乱したまま光に包まれて消えたら、知っている部屋に移動していた。視線を感じて振り返ると、ユリアはドアの横で控えていた。
「よくきたね、アキ。それで、僕にお願いってなに?」
膝を付いてポカンとしている私に、ニノリスさんは訊いてきた。
いつもと同じ優しい目。その目を見る度に、心の中を丸裸にされているような感覚を抱いていた。あらためて思う。たぶんそれは、私の思い過ごしじゃない。この人は全てが見えているって、素直に思ったの。それが今は重圧となって、私を抑え込む。心を折ろうとしていた。
怯むな!! ニノリスさんが出していた条件はクリアしているんだから。必死で覚えたんだから、大丈夫!! 自信を持て!! 自分を信じるの!!
だから私は、力を振り絞って答える。一度下げた視線を上げて、真っ直ぐ、ニノリスさんの目を見詰めながら。
「私に魔法を教えてください」と。
一瞬だけど、ニノリスさんはニヤリと笑う。だけど直ぐに、いつもの柔和な表情へと戻った。
「僕に魔法を教えて欲しいの? なら、課題はクリアしているってことだね。だったら、今から僕がする質問に答えられるよね。一問でも間違えたら、アウトだよ」
機嫌が良い明るい声で、ニノリスさんは告げた。
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