大嫌いな聖女候補があまりにも無能なせいで、闇属性の私が聖女と呼ばれるようになりました。

井藤 美樹

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第一章 死亡フラグ回避のために冒険者を目指します

赤い瞳の幼女

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「アキ、今日も早いね。お母さんにこのパン持っておいき」

 朝から景気いい声が路地に響く。

「ありがとう、セアさん」

 パン屋さんのおばさんが焼き立てパンをくれた。

 この世界でもアキって呼ばれるなんてね、なんか不思議。そんなことを思いながら、私は紙袋に入ったパンを抱えて急いで家に帰った。セアさん所のパンは冷えても柔らかくて美味しいけど、焼き立てはほっぺたが落ちそうになるくらい美味しいからね。

 セアさんが言うお母さんはジュリアのこと。

 実は私たち、早々に離れを抜け出して、王都に小さな一軒家を購入して住んでいた。さすがに、鉄格子がはまっていたような場所で子供を育てるのは教育上とても悪いからね。

 幸いにも、ケイ兄さんは若手冒険者の中で群を抜いて強かったから名をはせてるし、ジュリアの貯金もあったから一軒家を購入することができたの。

 五年経っても、あの人たちには全然バレてはいない。ほんと、どうでもいいんだなってつくづく思う。でも、私たちにとってはラッキーだった。中途半端な監視ほど厄介なものはないからね。細工が増えるのが迷惑だもの。とはいえ、念のために月一は皆で離れに戻っているけどね。仕掛けている魔法具の確認のためにね。一度も、反応したことはないけど。

「お母さん、ケイ兄さん、ただいま。これセアさんから貰ったよ、って」

 玄関のドアを開けると、膝を付いた筋肉の塊に包み込まれてしまった。

 筋肉の正体はケイ兄さん。実はこれ、いつもの光景なの。朝とはいえ、子供一人で外に出るのを嫌がるんだよね。まぁ確かに、王都でも安全とは言えないけど……行き先はすぐ目の鼻の先なんだけどね。心配性で超過保護。たまに窮屈きゅうくつだって感じる時もあるけど、ケイ兄さんが父親代わりとして頑張っているの、ちゃんとわかってるよ。

「ケイ兄さん、パンが潰れちゃうよ」

 そう言うと、ケイ兄さんは渋々腕を緩める。だけど、離してはくれない。代わりに、お説教が始まった。

「あれほど言っただろ、絶対一人で町に出たらいけないって。アキはすっごく可愛いんだから、人攫いにさらわれてしまう。そして、中年のハゲ親父に……」

 なにを想像している、我が兄よ。軽く溜め息を吐く。さっきから殺気出てるよ、ケイ兄さん。抑えようよ、ここ我が家なんだから。

「もし攫われても、ケイ兄さんが助けてくれるんでしょ」

 短絡的な考えで言ってるわけじゃないよ。事実、常に私の居場所がケイ兄さんにわかるようになっているからね。

 忌み嫌われている赤い瞳を持つ私が自由に外を歩けるのは、ケイ兄さんの友だちで、たまに組んで一緒に魔物討伐をしている魔術師のニノリスさんがくれた、ネックレス型の魔法具のおかげなの。変異魔法の応用とか言っていた。あと、ケイ兄さんの希望で物理攻撃と魔法攻撃の無効化、状態異常の無効化、そして、追跡魔法が付与されている。

 ちなみに、私以外にこのネックレスには触れられない仕様となっている。

 うん……防具なんて不要だね。今はしないけど、魔物の攻撃なんて効かないと思う。説明を受けた時、さすがにちょっと引いたよ。少なくとも、五歳の子供に渡すものじゃない。

 これは余談だけど、ニノリスさんってとても優秀な人だと思う。さすが、ケイ兄さんの相棒だよね。これから先の夢のために絶対必要な人だわ。信頼できる人に会えたのが嬉しくて、内心、ニコニコだったのを覚えている。

「当たり前だろ!! アキを傷付けるヤツは全員まとめて地獄を見せてやるよ!!」

 マシでしそう……

 過激なことを力強く断言するケイ兄さんの頭を、ジュリアが叩く。結構、大きな音したよ、大丈夫?

 いつもと変わらない朝の光景。

 私はこの幸せな光景をずっと続けていきたい。ささやかな私の願い――

 今は完全に放置されているけど、それが永遠に続くとは限らないわ。いつ、気まぐれを起こすかもしれない。ニ年後には魔力鑑定が待っているしね。そう考えると、早いうちに行動すべきよね。

 もうすぐ六歳。そろそろ、本格的に活動し始めてもいい頃合いよね。一応、ニノリスさんから借りた魔術書も丸暗記できたし。今はケイ兄さんが護ってくれてるけど、せめて自分の身は自分で護れるようになりたい。そして最終的には、ケイ兄さんと同じ冒険者になりたいの。ずっと考えていた。ジュリアは渋々だけど認めてくれたよ。あとはケイ兄さんだけ。猛反対すると思うけど、これだけはどうしても譲れないの。

 ごめんね、ケイ兄さん……


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