婚約破棄ですか。別に構いませんよ

井藤 美樹

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お仕置きの反動は激甘でした

第二話 興奮してくれたのですね

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 仕事が押してしまい、予定していた時間より三時間ほど過ぎてしまいました。

「じゃあ、砦に行って来ますわ」

 私はそう告げると、ローブを羽織り砦前に転移。

 やっぱり、まだ陽が暮れると気温が下がりますね。でも、このヒンヤリした空気が好きですの。澄んでる感じがして。雨の後の土の匂いも好きですわ。

 今度、シオン様と夜のピクニックがしたいですね。暖かい格好をして、温かいスープや飲み物を用意して。シオン様なら、お酒がいいかしら。スパイスを効かせたホットワインもいいですね。

 そんなことを思い浮かべていると、楽しくて口元が緩んでしまいますわ。

 すると、ガンという大きな音が。

 夜空を見上げていた私は視線を音がした方に向けます。その間も、ガンガンガンと何か硬いものを打ち付ける音が。シオン様が大剣で、壁を必死で壊そうとしていました。

 思わずそれを見て、反射的に一歩下がってしまいましたわ。そんな私を見て、シオン様がピタリと止まります。

 無表情で見詰めるのは止めてください、シオン様。

「ねぇ、私が言うのもなんだけど、厄介な男に惚れられたわね。あれ酷くなってない? 放り込んだ時は、魔の森の魔物を討伐しまくってたし。急に止めたと思ったら走り出して、結界壊そうとしてるし」

 お母様が私の耳元で呟きます。

「……私が遅れたせいですか?」

「それは仕方ないわよ。仕事が押したのも、元を正せば、あれのせいだし」

「確かに、そうですけど……でも、それだけ私を求めてくれてるので、嫌ではないです。まぁでも、仕事の邪魔をするなら、排除はしますけどね。仕事と心情は違いますから。ところで、お母様に訊きたかったのですが、どうやって、シオン様を封じ込めたのですか?」

 とても気になっていました。私にもできるなら、参考にしたいと。

「結界魔法と空間魔法を掛け合わせたの」

 属性の違う魔法を掛け合わせるって……さすがお母様。簡単に言ってますが、普通は無理ですからね。続けて展開するのとわけが違います。

「それ、ほぼ、新魔法ですよね」

 参考にもなりませんわ。

「新魔法かな? セリアでもできると思うけど。やり方教えようか?」

 それは、とっても有り難いお話ですわ。シオン様を抜きにしても、新しい魔法の習得はワクワクしますから。でも……

「あ~今は止めときます。このまま、シオン様を放置はできませんから。限界そうなので」

「そうね。なら、これを御守り代わりに」

 私の身体が軽く光りましたが、すぐに消えます。

「御守り?」

 確か、お母様の世界にあった護符のようなものですよね。

「そう。シオンを封じた魔法の劣化版。籍はいれたけど、まだするわけにはいかないからね」

「する?」

 お母様の言っている意味がわからなくて、首を傾げます。

「夫婦のあれよ」

 あれって……あれですよね。想像したら、顔に血が上りますわ。決して、シオン様の上半身を想像したわけじゃありませんから!!

「なっ!? こんな所で何を!!」

「大事なことよ。特に今は、シオン興奮してるでしょ。傷付くのは女性側だからね」

 真面目な顔で諭さないでください。

「赤裸々過ぎます!! ここは外ですよ!!」

「誰もいないでしょ」

「シオン様がいます!!」

 そう抗議したら、お母様は片手で顔を隠し座り込むシオン様を指差しながら言いました。

「聞いてないわよ、あれ」

「シオン様!! 大丈夫ですか!?」

 私は急いで、シオン様の前まで移動します。ですが、見えない壁にはばまれます。

「大丈夫よ。セリアの照れて赤くなる可愛い顔を見て、鼻血でも出たんじゃない?」

 お母様はあっけらかんとそう言います。

「いや、まさか……ないですよ。だって、小さい頃から私を見ているのに、照れた顔なんて見飽きてるでしょ」

 そう答えると、盛大な溜め息を吐かれましたわ。

「まぁ……憧れから初恋に至ったから、ある意味仕方ないけど。セリア、じゃあ、シオンが魔物を討伐してる時の横顔は?」

「男らしくて最高です!!」

 断言できますわ。

「う~ん、恥ずかしげも照れもなく言い切る所、ほんと、あの人にそっくり。まぁ、そういうことよ。立場や愛情の持ち方が変わったら、見方も変わるものよ」

 そう告げると、お母様は踵を返して帰って行きました。同時に、結界も消えます。

 見方が変わる……確かに、そうかもしれません。恋を自覚するまでは、シオン様の強さと包容力に憧れを抱いていましたが、顔や仕草は特に気にはしていませんでした。笑った顔を見て、私の心が温かくなるくらいです。

 でも今は……

「シオン様、鼻血が出たのですか?」

 私もしゃがみ込み尋ねます。シオン様は答えてくれません。もうそれが、答えですよね。

「私に興奮してくれたのですね」

「……引かないのか?」

「何故? 嬉しいですよ、とても。鼻血が止まったら、ご飯を食べましょうね」

 私はハンカチを渡しながら言います。素直に受け取ってくれるシオン様、可愛いです。

「シオン様、休みが合ったら、一緒にピクニックに行きませんか? 夜のピクニックに」

 結局、この日、晩ご飯が食べれたのは小一時間後でした。


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