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今度は学園外にアレが発生したようです
第二十話 最低な国ですか
しおりを挟む暗殺者ギルドのギルマス以外、全員、床に這いつくばっています。
「……麻痺性の毒か。糸に仕掛けていたのか……いや、それだけじゃないな。入って来た時に、毒を散布したのか」
一目で見抜くとは、なかなかできる方ですね。
「はい。それなりに人数がいましたから、使わせてもらいましたわ。無味無臭の毒霧の効き目は、なかなかのものでしょう。後遺症はない成分でできているのでご安心を。二時間ほどはこのままですけど」
「俺たちをどうする気だ?」
怒気をはらんだ声に、殺気を隠さない視線。
数々の修羅場を越えてきただろう威厳と威圧。
シオン様や隊長たちには遠く及びませんが、並みの騎士たちやハンター、兵士では太刀打ちできませんね。この視線を受けて、動けなくなるでしょうから。
「別に突き出したり、組織を壊滅させようとは思ってはいません。ただ……今回の依頼、無理だと報告してもらいたいのです。そして、今後、アルセイに手を出さないでもらいたいの。どのみち、貴方たちがアルセイを誘拐することは不可能ですから」
ニヤリと笑いながら、私は答えます。
「言ってくれるな。マジであんた、お姫さんか?」
ニヤニヤと笑っていますが、笑っているのは口元だけ。目は全く笑っていませんわ。
「ええ、この皇国の皇女ですよ。まぁ、貴方がたが知っている王族や貴族とは、かなり毛色が違うと思いますが。それで、返答は?」
「……お姫さんたちが来た時点で、俺たちの敗北だろ?」
考えていた通りの返答に、私は呆れて溜め息を吐いてしまいました。
「ギルマス、私は手を引けと言っているのですが、言葉理解できてます?」
気付いていないと、ギルマスは考えていたようですが、今回の件が失敗した時の策をいくつも考えていたことも、すでに次の策に動き出していることも把握していました。
「…………」
無言ですか。
「まぁ、正直、私はどちらでも構いませんわ。これは私の親切心からくるものだから。ただ……一度敵だと認識した場合、手加減は一切しません」
「お姫さんに人を殺れるのか?」
口元に浮かんでいた笑みが完全に消えています。私はクスッと笑ってから答えます。
「必要であれば」
「……愚問な質問だったな。これほどの実力がある暗部を従えて乗り込んで来た時点で、お姫さんはこっち側の人間だ。こんな子供に背負い込ませるなんて、この国もなかなか最低な国だな」
声を上げ笑いながら、ギルマスは言います。わざと私を怒らすつまりなのでしょう。神経を逆撫でるようなことを言ってましたから。
なら、私が取るべき態度は一つですわ。
「だから、なんですか? 最低な国、確かにそうですね。私のような子供を、平気で年中無休で働かせる国ですから。でも、戦争も飢饉もなく、魔物被害も最低限に抑えられています。民は苦しんではいませんよ。私は皇族です。民を国を護る責任があります。そこに、性別と年齢が関係ありますか? 適材適所の働きをする。当然のことでしょう」
私は満面な笑みを浮かべながら答えます。
「アルセイは平民だぞ」
声に乱れを感じます。追い込むとしましょうか。
「確かに、平民ですね。それが何か? 彼は金の卵です。これからもっと勉強して強くなってもらわないと。なので、あまり騒がないでほしいのです」
「金の卵だから、ここまでするのか?」
何か疑って、確認するかのようですね。
「関係ありませんよ。民の一人一人が、この皇国の歯車です。私は歯車に油をさしたり、回転しやすいようにするだけ。守り人のようなものですよ」
ギルマスに良い格好をしたいわけではありません。心から、私はそう考え行動してます。
「…………わかった。完全に手を引こう。要望通り、依頼者には失敗したと伝える。実際、ことごとく失敗してるしな」
急に、空気が柔らかくなりましたね。その言葉に嘘はないでしょう。ただ、監視は付けさせてもらいますわ。それに、ギルマスの言葉を完全には信用できません。
アルセイには、もうしばらくバイトは休んでもらわないといけませんね。
「協力、感謝しますわ。では、私はこれで失礼させてもらいます」
胸の内とは正反対のことを告げ、私たちは帰路につきました。
月が出たようですね。
月を見上げながら思います。どんなに言い繕っても、ギルマスの言う通り、私は彼ら側の人間ですわ。綺麗じゃない。汚れてますわ。
毅然とした態度で答えていましたが、ギルマスの言葉は、私の心を抉りました。
ほんと、綺麗な月……
あ~シオン様に会いたい。ギュッと抱き締めてほしい。無性に甘えたくなります。だって、シオン様は私がどんなに汚れていても求めてくれます。
愛してくれます。
だから、安心して全身で甘えられるのです。
でも、今はできませんわ。お仕置きが途中ですもの。ほんと、私って融通がきかない性格ですわ。素直になるのも理由がいるなんて。
心はこんなにも、シオン様を求めているのに……
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