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今度は学園外にアレが発生したようです
第十六話 呪印の刑
しおりを挟む編入試験が終了した次の日、私はスミスとクラン君を伴い収監場へと向かいました。
到着すると、牢屋から出された彼らは、十人くらい入れる部屋に跪かされています。念のために猿轡をしたままですね。それなりに体裁を保てていた洋服は、もう見る影もなく、皺だらけに染みだらけ。身体全体が薄汚れていました。
これが、嘗ては〈竜神の巫女〉と呼ばれた者の成れの果てですか……哀れですね。
校門前で私に土下座を強要し、門番を傷付けなければ、少なくとも、このような有り様にはならなかったでしょうに。まぁ、学習もせず、その道を自ら進んだのですから、自業自得ですけどね。
私がここを訪れた目的は、罪人である〈竜神の巫女〉一行に呪印を施すのを立ち会うためですわ。
私が到着し認識すると、彼らの昏い目に光が戻りました。
喋られない状態で、何かを必死に訴えてきます。命は取りませんが、命乞いでしょうか? それとも、理不尽だと罵るつもりでしょうか?
どちらにせよ、始めから聞く気はありません。私がここに来たのは、刑の執行を見届けるためです。この領地の責任者として、その刑が正しいかどうかをね。
呪印を施す黒衣を着た神官が私を見、私は軽く頷き返します。
「では、これより、呪印の刑を施す。呪印は国外に出た時点で発動し、以後、コンフォート皇国には二度と立ち入ることは許されない。呪印が施されてから発動するまで一日の猶予がある。その間に国境を越えないと、呪印の呪いは発動し、黒紫死病によって死に至るだろう」
黒衣の神官の淡々とした説明に、罪人たちはカタカタと震えています。
「大丈夫ですよ、コンフォート皇国に立ち入らなければいいだけです。それに、私は悪魔ではありません。ちゃんと、国境まで送り届けてあげますわ。猶予内に。では、始めて下さい」
私がそう告げると、今度は黒衣の神官が頷きます。取り押さえていた騎士は避難し、私の後ろに下がりました。
逃げることなどできませんよ。
すでに罪人たちは、魔力でできた見えない鎖で縫い付けられていますから。あれでは、指一本動かすことはできないでしょう。直接の執行はまだでしたが、すでに前段階は終えているようです。
感嘆の声をあげそうになるほど、滑らかな魔力操作ですね。
黒衣の神官は罪人から二メートルくらい離れた場所に立つと、持っていた杖の先で床を軽く叩きます。同時に、罪人が座る床には紫と黒の魔法陣が浮かび上がります。
呪文を唱えてますが、はっきりとは聞き取れません。これは神語ですね。高位の神官と大聖女のみが許される言葉ですわ。
闇魔法でも似たことはできます。でも、それはただの呪いです。
しかし、呪印は神罰。
罪が罰に値しないと審判の女神テミステリア様が判断されたら、刑は行使できません。今回はゴリ押しでしたが、行使できると私も皇帝陛下も確信したから、執行を依頼したのです。
魔法陣から黒い蔦が現れ、罪人たちの身体に絡んでいきます。全身に絡んだあと、それは消え、魔法陣も消えました。
圧巻ですね。
「……終わりましたか」
「はい。恙無く。ただ……刑が加算されました。七代先まで、この呪印は受け継がれるようです」
「えっ!? 加算ってありますの!?」
思わず尋ねてしまいました。
「罪の重さを審判に掛けるのですから、加算もあるかと……ただ、一度もありませんでした。逆はありましたが」
なるほどね。
彼らの左半分が、顔も含めて、蔦の入れ墨のように呪印が広がっています。普通は心臓がある左胸だけですからね。罪の重さをひしひしと感じますわ。この皇国に来るまで、一体、何をしていたのか……
「……まぁ、無事に終わったということで、よかったことにしましょう。スミス、彼らを山脈の麓まで送り届けて来なさい」
とりあえず、厄介事はポイで。
「畏まりました」
スミスはそう答え、そのまま魔法具を使用します。
結局、最後までお母様は来ませんでしたね……
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