婚約破棄ですか。別に構いませんよ

井藤 美樹

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今度は学園外にアレが発生したようです

第十四話 再試験

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「武器は好きな物を選べ、クラン」

「その必要はない!! 腰にさしている剣を使え!!」

 シクラス先生が、わざわざ、殺傷能力が少ない武器を選ぶようクラン君に言っているのに、被せ気味に口出してくるなんて、親切心がわかっていませんね。

「ああ言ってるが、どうする、クラン?」

 ニヤと笑いながら、シクラス先生が尋ねます。完全に面白がってますね。

「いえ、真剣は使いません。俺はそこまで、剣に長けてはいませんから。セリア様やコンフォ様のように寸止めできませんし」

 そうクラン君は答えながら、迷わず一番端にあった木刀を選びました。

 シクラス先生の目がキラリと光りましたわ。だって、クラン君が選んだ木刀は、あの中で唯一破損防止の強化魔法が施された剣でしたから。

 シクラス先生がチラリと私に視線を向けます。当然、私はニヤリと笑い返してあげましたわ。

 クラン君は二度ほど剣を振り、感触を確かめています。その態度がかんさわったのでしょうね、第一王子は癇癪かんしゃくを起こしています。

「はぁ~!! お前、俺に勝つ気でいるのか!? 平民風情が!!」

 ほんと、弱いやつほどよく吠えますわ。そもそも、相手にもされてないって気付いていないようです。頭も弱いようですね。

「あの~さっさと始めませんか? この後、仕事が控えてますので。攻撃してくるタイミングはお任せします。好きなタイミングで始めてください」

 淡々と言ってますが、完全に馬鹿にしてますわ。丁寧語の上から目線。言われ慣れしていても、やっぱり腹が立っているようですね。

「――な!! 平民が!!」

 怒鳴ると同時に、風の刃がクラン君を襲います。

 詠唱が短いですわ。子どものような癇癪かんしゃくを起こしても、完全に冷静さを失ったわけではないようね。まぁ、第一次試験を突破するだけの実力はありますね。

 でもね……

 それでは、クラン君には勝てませんよ。

 クラン君は木刀を構えると、自ら風の刃に飛び込みます。

「馬鹿が!! 木刀で俺の魔法が防げると思うな!!」

「いや、十分防げますよ。正確に言えば、受け流しているだけですけどね」

 ポツリと私は呟きます。

 土煙の中、勝利を確信する第一王子。その油断から、試験に落ちたことに今だに気付いてはいません。

 そして、気付いた時には、全てが終わっているのです。

 そう……クラン君に尻もちを付かされ、喉元に剣先を突きつけられてね。

「勝者、クラン!!」

 シクラス先生の声が鍛錬場に響きました。

「あ、あり得ない!! こんなの納得できるか!!」

 クラン君が背を向け歩き出すと同時に、第一王子は怒鳴ります。

「平民が魔法も使わず、木刀で勝ったことが、そんなに気に障りましたか? なら、今度は剣で相手しましょうか? まぁ何度しても、俺には勝てないと思いますが」

 クラン君、言うようになりましたね。というか、元々かなり気が強い性格でしたからね、今まではあまり機会がなかっただけですね。

 怒りで歯ぎしりしている第一王子は、言い返す言葉が見付からないようですね。

「続行しますか? それとも、しませんか? さっさと決めてください」

 第一王子を見下ろしながら、クラン君は面倒くさそうに言います。

 あおってますわね。

 完全に我を忘れたのか、第一王子はクラン君に飛び掛かっていきました。全部、かわされてますけど。全然触れもできていませんね。魔物討伐において一番おちいってはいけない行為ですわ。

「……なかなか、良い教育してるな、皇女殿下」

 シクラス先生が私の横に来て言います。

「そうでしょ。最高の褒め言葉ですわ」

 シクラス先生からは嫌味ではなく、本当にそう思っているようでした。なので、私は素直に受け取ります。

「……ちなみに、クランのやつ、皇女殿下の側近の中でどれくらい強いんだ?」

「一番下ですよ。私の側近の中で、クラン君は一番弱いですわ」

 私の返答に、シクラス先生は息を飲みます。

「あれでか……」

「私の側近はクラン君を除き、全てスタンピードの際は先頭に立てる実力者ばかり。Sランク以上ですわ。近いうちに、クラン君もその域に到達するでしょうね」

「……恐ろしいな」

「そうですか? 我が皇国は、一度スタンピードによって滅びかけました。その恐怖が刻み込まれているのですよ」

「なるほど。だから、四年前のスタンピードは被害が最小限で済んだのか」

 そうシクラス先生は呟くと、試験官の元に戻りました。それが合図のように、クラン君は第一王子の腹に一撃をいれます。軽くですけどね。

 第一王子は膝を付き、うめいています。その姿を、クラン君は冷めた目で一瞥いちべつすると、元いた場所に戻り一礼しました。

「では、シクラス殿、俺は戻ります」

 木刀をシクラス先生に渡してから、クラン君は私の元に戻って来ました。

「お疲れ様です、クラン君」

「シクラス殿の無茶振り、ほんと止めてほしいです」

 うんざりしながら言うクラン君を見て、私は笑ってしまいましたわ。

「これも、仕事の一つですわ。では、行きましょうか」

 そう告げると、私はシクラス先生と試験官たちに軽く頭を下げてから、鍛錬場をあとにしました。

「今回の合格者は一人ですね……」

 

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