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今度は学園外にアレが発生したようです
第十三話 第二次試験実技開始
しおりを挟む試験開始十分前。
試験会場である第一鍛錬場に、私は足を運んでいました。試験を見学するためですわ。
鍛錬場の真ん中には、アルセイとグリシード王国の第一王子が軽く身体を解しながら待っています。第二次試験は実技と座学、あとは面接です。とはいえ、面接をしながら実技をする方もいらっしゃるので、試験の終了時間はまちまちですね。そこらへん、とても自由なのです、我が学園は。
「まもなく、始まりますね」
クラン君の言葉に私は頷きます。
五分前になり、試験官が二人出て来ました。
「……セリア様、試験官は三人では?」
「クラン君は入学試験を見るのは始めてですよね。この学園の試験は普通ではありませんよ。より、実戦形式の試験なのです」
そんな話をクラン君としていたら、試験開始時刻が過ぎました。開始の合図もありません。
訝しげな二人。
時間だけが過ぎていきます。先に来ていた試験官は無言で立っています。時間が過ぎるにつれ、受験者の様子に差が出てきました。
グリシード王国の第一王子は明らかに苛立ちを感じています。
そしてアルセイは、顔を伏せ、ただじっと立っているだけでした。
「なるほど。この試験、合格者はアルセイですね」
クラン君が感心しながらポツリと呟きます。
「……クランといったか、さすが皇女殿下の従者だな」
すぐ傍で低い男性の声がします。
私は彼が傍にいることに気付いていました。しかし、クラン君は気付いていなかったはず。なのに、それをおくびにも出さず、声も出さずに、振り返りもしません。ただ、いつでも距離が取れるよう、両足に魔力を流しています。
満点ですわ、クラン君。
「ほぉ~君なら、今すぐ合格できるな」
感心する試験官に、私は笑みを浮かべながら尋ねます。
「ですって。クラン君、どうします?」
「俺はセリア様の従者ですから」
やんわりと、クラン君は断ります。だけど、緊張は解いていません。
「ふられましたね、シクラス先生」
彼は戦闘魔術の超使い手ですわ。ハンターランクはS。今は学園の講師とハンター業を兼任しておられます。当学園の講師の半分は兼任してますね。
「非常に残念だ」
私たちとシクラス先生が話していることは、受験者二人は気付いていませんわ。彼は認識阻害の魔法を使って、存在を消していますから。
まぁ、私には通用しませんけど。
「クラン君の実力はAランク。学園の生徒ではありませんが、その知識と実戦経験は、どの生徒よりも豊富ですわ」
「だろうな」
そうシクラス先生は答えると、鍛錬場に向かいました。
ここまでの時間、約五分。
そして、シクラス先生は二人の上空に幾つもの魔法陣を張り、一斉に火球を放ちました。微妙に直撃しないように軌道を調整し、かつ、火力も調整してますわ。受験者同士が助け合わないようにしていましたし、さすがですね。
「クラン君、私の時の最終試験は、魔の森での魔物討伐でしたよ。所持している武器一つだけ持たされて、水も食料もなし。そして、指定された魔物を四日以内に討伐するでしたね。まぁでも、それは表向きでしたが……今は裏口とか、便宜とか一切ないですからね」
「ちゃんとわかってますよ、セリア様。……明暗分かれましたね」
火球がおさまると、立っているのはアルセイだけで、第一王子は座り込んではいないが片膝を付いていました。
「これにて、第二次試験、実技終了。合格者、アルセイ。座学の試験会場にすすめ」
シクラス先生の声が鍛錬場に響きました。
「な、何故だ!! これが試験だと、ふざけるのも大概にしろ!!」
憤怒で真っ赤な顔をした第一王子が、シクラス先生に詰め寄ります。
「やっぱり、納得しませんね」
まぁ、そうなりますよね。
「納得しなければ、わからせるだけですよ」
「試験内容をよく読んだか? 書いてあっただろ、試験内容は実戦形式だと」
投げやりのような、馬鹿にしたような口調のシクラス先生に、さらにキレる第一王子。
「だからといって、これはないだろ!?」
「勘違いするな。我々が相手しているのは人じゃない、魔物だ。魔物が、正面から行儀よく挑むわけないだろ。試験の開始時間から試験は始まってるんだよ、常に周りに気を配らず、これがただの試験だと思った時点で、お前は落ちてるんだよ」
シクラス先生の言う通りですわ。
アルセイは訝しげにしながらも、周囲に神経を張り巡らせていましたわ。それは体勢にも出ていました。だから、あの攻撃に対応できたのです。
「……でもまぁ、腰を抜かさず片膝で済んだんだ、もう一度チャンスをやろう。クラン、ちょっと来い!!」
いきなり呼ばれて、クラン君は驚愕してますわ。
「あら、ご指名ですね、クラン君。行ってらっしゃい」
クラン君はシクラス先生に呼ばれ、私に促され、仕方なく彼の元に向かいました。
面白いことになりましたね。おそらくシクラス先生は……
「クランと手合わせしてもらおうか、魔法、武器の使用を認める。彼に勝てたら、座学試験にすすんでもいいぞ」
クラン君は急な展開に戸惑ってますが、第一王子は殺気立ってますわね。
見た目、クラン君は小柄で弱く見えます。騎士や兵士より文官だと思われがち。手練れには見えませんわ。体躯だけでは第一王子の方が逞しいですし。完全に馬鹿にされたと思ってますわね。冷静さが掛けてますわ。
この時点で、結果は見えてます。
第一王子が冷静にこの状況を判断でき、最低限の実戦をこなしていたら、この勝負挑戦はしませんわ。ほんと、シクラス先生は意地悪ですね。
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