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今度は学園外にアレが発生したようです

第十二話 犬ではなく狼でしょう

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「アルセイ、今、貴方は微妙な立場にいます。貴方の祖国が友好国として存在するために、事件そのものをなかったことにしようとするでしょう。しかし、それは無理です。だとすると、今度は事件のすり替えを画策しますね」

「事件のすり替え……? まだ、なかったことにするのはわかりますが……」

 アルセイの疑問はもっともですね。

「なかったことにするには、起こした事件が大きすぎるのです。そして、捕縛したのが私だということが、一番の障害になりました」

「つまり、トップが知っているから、隠せない、誤魔化ごまかせないということですか」

「理解が早くて助かりますわ。なので、すり替え工作をするでしょう。それで一番手っ取り早いのが、アルセイ、貴方の戸籍を抹消することです。貴方が自分の従者だと名乗り、試験を受けたことにするのです。それを知った、侯爵子息が仲間と一緒に問いただした。結果、行き過ぎてしまったと」

「かなり、杜撰ずさんじゃないですか?」

 呆れた口調でアルセイは答えます。

 激しく同意しますわ。

「穴だらけで、馬鹿らしくなりますね。まぁ、それを言い出した所で、通用するほど、私たちは愚かではありませんわ。くつがえす証拠はすでに用意しております」

 そこまで話すと、アルセイは俯き何かを思案しているようでした。

 学問とは程遠い環境に身を置きながら、貪欲に学び吸収し、力を付けてきたのでしょう。

 付け焼き刃でなく、身体に刻み込まれた実力。そして修羅場を潜って来たもの特有の思慮深さ。冷静に物事を解析する能力。

 全てにおいて、優秀ですわ。

 磨けば光る原石とは、まさに彼のことですね。

「……俺は、無国籍になるのですね。だから、コンフォート皇国の民に……」

 怒りも何も、声からでは感じ取れないほどアルセイは淡々としていました。

「勝手に我が民にしたことを怒りますか?」

「何故、俺が怒ると思うのですか?」

 質問を質問で返されましたわ。

 アルセイは心から不思議そうな顔をしています。

「貴方の同意を得ることなく、私は我が皇国の民にしました。貴方を救うからとはいえ、やっていることは、貴方の祖国と変わりません」

「でも……セリア皇女殿下は、こんなゴミくずの俺に向き合ってくれました。事実を包み隠さず教えてくれました。それが、俺はとても嬉しいです。コンフォート皇国の民になれて心から幸せです」

 辛いことの連続だったのでしょう。最後の方は、ポロポロと涙を流しながら、アルセイは胸の内を吐露とろします。

「そう言ってもらえると助かります。アルセイ、コンフォート皇国にようこそ。これからの人生、貴方のために生きて下さい」

「はい……はい……」

 アルセイは何度も返事をしました。

「それで早速ですが、アルセイ、第二次試験受ける意思はありますか?」

「……俺が受けてもいいんですか?」

 グズグズと鼻を鳴らしながら、アルセイは訊いてきました。

「第一次試験合格しているのです、十分資格はありますわ。学費に関しては、貴方の元主からの賠償金の一部をお渡ししますから、心配いりませんよ。ハンターとしての働き口も、この街ではありますからね。それなりに暮らしていけますわ。どうしますか?」

「受けます!! 受けさせて下さい!!」

 さっきまで泣いていたのに。

 アルセイの必死な様子に、私は自然と笑みが浮かびます。

「わかりましたわ。試験は明日の午後一時から開始します」

「はい!!」

 ふさふさ尻尾と耳が見えるのは気のせいですよね。リーファが前に言っていた、ワンコ特性の話を思い出しましたわ。まぁでも、彼は犬というより狼だと思います。どのように化けるか楽しみですわ。



 
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