婚約破棄ですか。別に構いませんよ

井藤 美樹

文字の大きさ
上 下
329 / 342
今度は学園外にアレが発生したようです

第十二話 犬ではなく狼でしょう

しおりを挟む

「アルセイ、今、貴方は微妙な立場にいます。貴方の祖国が友好国として存在するために、事件そのものをなかったことにしようとするでしょう。しかし、それは無理です。だとすると、今度は事件のすり替えを画策しますね」

「事件のすり替え……? まだ、なかったことにするのはわかりますが……」

 アルセイの疑問はもっともですね。

「なかったことにするには、起こした事件が大きすぎるのです。そして、捕縛したのが私だということが、一番の障害になりました」

「つまり、トップが知っているから、隠せない、誤魔化ごまかせないということですか」

「理解が早くて助かりますわ。なので、すり替え工作をするでしょう。それで一番手っ取り早いのが、アルセイ、貴方の戸籍を抹消することです。貴方が自分の従者だと名乗り、試験を受けたことにするのです。それを知った、侯爵子息が仲間と一緒に問いただした。結果、行き過ぎてしまったと」

「かなり、杜撰ずさんじゃないですか?」

 呆れた口調でアルセイは答えます。

 激しく同意しますわ。

「穴だらけで、馬鹿らしくなりますね。まぁ、それを言い出した所で、通用するほど、私たちは愚かではありませんわ。くつがえす証拠はすでに用意しております」

 そこまで話すと、アルセイは俯き何かを思案しているようでした。

 学問とは程遠い環境に身を置きながら、貪欲に学び吸収し、力を付けてきたのでしょう。

 付け焼き刃でなく、身体に刻み込まれた実力。そして修羅場を潜って来たもの特有の思慮深さ。冷静に物事を解析する能力。

 全てにおいて、優秀ですわ。

 磨けば光る原石とは、まさに彼のことですね。

「……俺は、無国籍になるのですね。だから、コンフォート皇国の民に……」

 怒りも何も、声からでは感じ取れないほどアルセイは淡々としていました。

「勝手に我が民にしたことを怒りますか?」

「何故、俺が怒ると思うのですか?」

 質問を質問で返されましたわ。

 アルセイは心から不思議そうな顔をしています。

「貴方の同意を得ることなく、私は我が皇国の民にしました。貴方を救うからとはいえ、やっていることは、貴方の祖国と変わりません」

「でも……セリア皇女殿下は、こんなゴミくずの俺に向き合ってくれました。事実を包み隠さず教えてくれました。それが、俺はとても嬉しいです。コンフォート皇国の民になれて心から幸せです」

 辛いことの連続だったのでしょう。最後の方は、ポロポロと涙を流しながら、アルセイは胸の内を吐露とろします。

「そう言ってもらえると助かります。アルセイ、コンフォート皇国にようこそ。これからの人生、貴方のために生きて下さい」

「はい……はい……」

 アルセイは何度も返事をしました。

「それで早速ですが、アルセイ、第二次試験受ける意思はありますか?」

「……俺が受けてもいいんですか?」

 グズグズと鼻を鳴らしながら、アルセイは訊いてきました。

「第一次試験合格しているのです、十分資格はありますわ。学費に関しては、貴方の元主からの賠償金の一部をお渡ししますから、心配いりませんよ。ハンターとしての働き口も、この街ではありますからね。それなりに暮らしていけますわ。どうしますか?」

「受けます!! 受けさせて下さい!!」

 さっきまで泣いていたのに。

 アルセイの必死な様子に、私は自然と笑みが浮かびます。

「わかりましたわ。試験は明日の午後一時から開始します」

「はい!!」

 ふさふさ尻尾と耳が見えるのは気のせいですよね。リーファが前に言っていた、ワンコ特性の話を思い出しましたわ。まぁでも、彼は犬というより狼だと思います。どのように化けるか楽しみですわ。



 
しおりを挟む
感想 775

あなたにおすすめの小説

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結24万pt感謝】子息の廃嫡? そんなことは家でやれ! 国には関係ないぞ!

宇水涼麻
ファンタジー
貴族達が会する場で、四人の青年が高らかに婚約解消を宣った。 そこに国王陛下が登場し、有無を言わさずそれを認めた。 慌てて否定した青年たちの親に、国王陛下は騒ぎを起こした責任として罰金を課した。その金額があまりに高額で、親たちは青年たちの廃嫡することで免れようとする。 貴族家として、これまで後継者として育ててきた者を廃嫡するのは大変な決断である。 しかし、国王陛下はそれを意味なしと袖にした。それは今回の集会に理由がある。 〰️ 〰️ 〰️ 中世ヨーロッパ風の婚約破棄物語です。 完結しました。いつもありがとうございます!

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。