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今度は学園外にアレが発生したようです
第十一話 責任の取り方
しおりを挟む報告をした次の日の夕方、私は侍女から保護した青年が目を覚ましたと聞き、急いで保健室に向かいました。
「目が覚めたのですね、アルセイ君。気分は悪くはありませんか?」
上半身だけ起こしている青年に、私は声を掛けます。
自分が何処にいるか、誰が保護したのか聞いたのでしょう。アルセイはベッドから下り、両膝と両手を床に付き頭を垂れます。額が床に付きそうですわ。
まるで、それが習慣だったかのような流れる動きに、私は眉を顰めます。
「顔を上げなさい、アルセイ」
私の命令に、アルセイはおずおずと顔を上げます。そして、私の顔を見て、勘違いしたのか、慌ててまた頭を垂れました。
「同じ命令を二度もさせないで下さい」
溜め息を吐くと、私も両膝を付き、アルセイの左肩に右手を添えます。その瞬間、彼はビクッと身を竦ませながらも、顔を上げてくれました。
「貴方はこれから先、皇国の民になるのです。簡単にこのようなことをしてはいけません。相手が皇族でもです」
「…………しかし……」
いくら言葉で諭しても、長年の習慣、身に沁みた差別意識は、そう簡単に抜けることはないでしょう。一種の洗脳に近いですから。
現に今も、戸惑い混乱していますからね。一向に、立とうとはしませんわ。
仕方ないので、私はアルセイの腕を掴み強引に立たせました。自然と、アルセイは私を見下ろすようになります。ハッと、それに気付いた彼はとても慌てています。完全にパニック状態ですね。私は彼を掴んだまま言います。
「確かに、皇国にも身分制度はあります。平民は貴族よりも地位は低い。だからといって、貴方たちが卑屈になる必要もなければ、搾取されることを許してもいけない。いいですか、貴族が平民より地位が高いのは、責任を背負っているからです。ただそれだけです。なんの責任も課されず、ただ貴族だからといって、ふんぞり返っている輩はゴミです。屑です。必死で生きている貴方の方が何十倍も偉いのだと覚えておきなさい」
アルセイは唖然として、固まったまま私を見下ろしています。
「アルセイ、これから貴方は、このコンフォート皇国の民の一人になるのです。そして、二次試験に合格すればこの学園に編入できます。この学園は超実力主義。力こそが全てです。そこに身分は関係ありません。自分の力でのし上がりなさい」
私がそう告げ手を離すと、アルセイはフラッとしベッドに腰を落としました。
「…………俺が……皇国の民? 試験を受けてもいいんですか?」
混乱はしていますが、パニックを起こしてはいません。なので、私は話を続けます。
「ここからの話は、アルセイにとって酷な話になると思います。それでもよろしいですか?」
「……はい、構いません」
注意深く、私はアルセイを観察します。
思っているよりも、冷静ですね。肝が座っているというか……それなりに、修羅場を乗り越えた者感が出ていますね。
「まず始めに、私は貴方の主であった者とその仲間を捕縛し、牢屋に放り込んでいます。他国の高位貴族だからといって、容赦はしません。そのことは、我が父、皇帝陛下にも報告済みです。結果、我が皇国は友好国として共に生きることを止めました。まぁ、当然の判断でしょう。問題はここから先です」
「……はい」
沈んでますね。凍結した責任を感じているのでしょう。それとも、大事になったことの恐れでしょうか……アルセイは自分の命をかなり低く見ていますから。
「皇帝陛下の判断を撤回したい。だけど、犯した罪は明らか――どうすれば、もう一度、友好国になってもらえるか。ならば、犯罪そのものをなくせばいい。そう考えるでしょうね。現に、そのような動きがあるのを、我が皇国は掴んでおりますわ」
「……セリア皇女殿下、どうして、そんなに詳しく教えてくれるのですか? 俺は一平民です。平民の中でも最下層にいました。それも、他国の……決定したことだけでよくはありませんか?」
そう考えるでしょうね。
「私なりの責任の取り方ですわ。私は強制的に、アルセイ、貴方を皇国の民とした。その説明義務があるのです。まぁ簡単に言えば、私の自己満足でしょうね。でも、貴方も、何故皇国の民になったか知りたくはありませんか?」
「俺は馬鹿だから、政治とかよくわからないです。でも、理由は知りたいです」
小さな声だけど、はっきりとアルセイは答えます。意思表示をしてくれました。大きな一歩ですわ。
「それは私も同じですよ。領主としても、まだまだ半人前ですしね。だから、日々勉強しているのです。決断を下す時、本当にそれが最善だったのか、ほかに道はないのか、いつも右往左往しながら、悩んで悩んで決断していますわ。今回のことも――」
私は苦笑しながら、話を続けます。
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