婚約破棄ですか。別に構いませんよ

井藤 美樹

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今度は学園外にアレが発生したようです

第九話 予定通り報告書を持参しました

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「――以上が、今回起きた事件のあらましです」

 私は指示した通りに出来上がった報告書を持って、お父様の元に伺いました。例の結婚騒動以来なのですが、それはそれですわ。

「なるほどな、相変わらず、貴族って奴は腐っているな」

 お父様は呆れながら言います。

「同感ですが、それ、皇帝陛下が言いますか」

「はぁ!? 俺が腐っているっていいたいのか!?」

「いえ、違いますよ。他国とはいえ、貴族の頂点に君臨している皇帝陛下の言う台詞ではない、と思っただけですわ。それで、このまま友好国として接するおつもりですか?」

「いや、それはないな。元々、エルヴァン王国からの流れで友好国になったみたいなもんだからな。こっちとしては、特に実入りがない。ましてや、問題児の対処もできない奴らと手を組みたくはない」

 実入りがない。お父様らしい台詞ですね。

「……抗議でもありましたか?」

「今朝早くにな」

「なるほど、その面だけは優秀ですね」

 苦笑しながら答えます。捕縛したのは夜が開ける前。今は昼過ぎ。その間に魔鷹便を飛ばし、取るもの取らずに来たというわけですか。

 とりあえず、まぁ、謝っとけってやつですね。舐められたものですわ。

 確かに、正式な報告書は今提出しましたが、捕縛の件は朝一で報告しております。彼ら側としては、報告書が届く前に確約の言質でも欲しかったのでしょう。

 甘々ですね。コンフォート皇国の皇帝陛下は、超が付くほどの現実主義。優男だからとあなどられがちですが、皇国の不利益になるものは容赦なく切り捨てます。それが私だったとしても、顔色一つ変えずに切り捨てるでしょう。過去に、私を皇国の財政のために、屑と婚約させましたからね。まぁ、私も納得はしてましたけど。

 そうした姿勢を貫いた結果、今のコンフォート皇国があるのです。

「まぁな。でも、上が馬鹿なら、いくら下が優秀でもな~」

「確かに、判断をするのは上の仕事ですからね」

「だから、友好国の件は白紙にした。正式な書状は今から送るつもりだ。例の魔法具とともにな」

 変な逃げ道を作らないためには、そこは徹底的にしませんとね。

「それで、彼らは?」

「まだ皇都にいる」

「必死ですね……でも、今母国に戻っても、処罰を受けることは決定していますから、どちらが幸せなのでしょうか?」

 冷笑を浮かべながら言います。

「さあな、どちらもそう変わらんだろ」

「ですね。まぁ私としては、彼らに早々に出て行ってほしいですが……権力がある小物は、結構厄介ですからね」

「事件そのものをなかったことにしてくるだろうな」

 確かに、お父様の仰る通りですわ。起死回生を狙うってことですわね。

「手っ取り早いのが、戸籍の抹消ですか」

「だろうな、そもそもそんな人物がいないのだから、そんな事件は起こってはいない。かなり無理がある設定だが、それを押し通すしかないだろ」

「そして、自分たちは間違いを正そうとして、行き過ぎた行動になってしまったと……」

「反対に、自国の出身と名乗った、その平民が罪に問われるかもな」

 お父様の台詞を聞いて、思わず笑ってしまいましたわ。

「浅はかというか……愚かというか……ならば、試験中及び、構内での映像を提出しますわ。音声入りの分を」

「ああ、念のために提出してくれ。それで、例の保護した平民をどうするつもりだ?」

「決まっていますわ、皇帝陛下。あちらが要らぬというのなら、こちらが喜んで貰いますわ。幸いにも孤児のようですし、そこら辺は問題ないでしょう」

 優秀な人材ゲットですわ。

「民が増えるのは嬉しいことだしな。でだ、例の呪印の件だが、執行は三日後に決まった」

 三日後ですか……かなり、ゴリ押ししてくれたようですね。

「心遣いありがとうございます、皇帝陛下」

 これで、厄介事の一つが解決ですわ。

「これくらい大した事ない。これからも、領地運営宜しく頼む」

「畏まりました」

 私は一礼してから、執務室を出ようとしました。すると、意外にもお父様が呼び止めます。

「どうかしましたか?」

「あのな……」

 歯切れ悪いですね。大体は想像つきますけどね。

「お母様の件ですか?」

 仕方ないので、助け舟を出してあげましたわ。

「そうだ!! こ、これをセイラに渡してくれないか」

 そう言ってお父様が手渡してきたのは、魔法で加工された生花。青薔薇でした。

 お母様とお父様にとって大事な花だと聞いたことがあります。なんでも、ダンスや結婚を申し込んだ時に渡した想い出の花。

 花言葉は【奇跡】だそうです。

「……それは、お父様自身が渡して、始めて意味があるものでは。そうですね、今晩、窓辺に青薔薇を置いてお休み下さい。お母様には私から伝えておきますわ」

 そう告げると、私はさっさと執務室をあとにしました。だって逃げ遅れると、かなり面倒なことになりますからね。

 何度も何度も念押しされて、且つ、嫉妬されますから。親子であっても。かなり拗らせてますからね、お父様は。



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