上 下
325 / 331
今度は学園外にアレが発生したようです

第八話 高位貴族だからといって例外はありません

しおりを挟む

「俺に、こんなことをして許されると思っているのか!!」

 侯爵子息をかわきりに、口々に汚い言葉を吐き捨てるお仲間たち。いっせいに怒鳴るものですから、何を言ってるかわかりませんわ。

 まぁ、今の状況に文句を言っていることはわかりますけどね。……それにしても、貴族籍がある者が犯罪を犯すと、皆、同じ台詞を吐きますね。

「許されますわ。監禁、拷問、恐喝、殺人未遂、どれも凶悪犯罪ですよ。貴方がたの国では、平民孤児は人として扱われないかもしれませんが、皇国は違います。身分関係なく、罪を犯せば罰せられる。皇国で罪を犯したのですから、皇国の法にのっとり罰せられますわ」

 懇切丁寧に説明して差し上げたのに、馬鹿には伝わらなかったようです。

「思い上がるな!! 兵士風情が!! 友好国の代表者を罰するだと、反対にお前が罰せらるぞ。俺の持ち物を俺自身が壊して、何が悪い!! 平民が一人、どうなろうとも、痛くも痒くもないわ!!」

 人の命をなんだって思ってますの。命は一つしかないのですよ。それなのに――

 私は怒鳴りたい気持ちを抑えるために、軽く深呼吸をしてから、隣に立っている騎士団長に向かって言いました。

「騎士団長、自白取れましたね。尋問の時間、かなり削ることができましたわ」

 冷ややかで低い声に、犯罪者たちは黙ります。

「そうですね、セリア皇女殿下」

 私の正体を知った犯罪者たちは、皆、顔を真っ青にし、わなわなと震え出しました。

「そうそう、友好国がどうとか言っていたようですが、このことを知った皇帝陛下がどう判断なさるか、楽しみですね。私なら、即凍結しますわ。なんせ、平然と自分の持ち物だと吐き捨てる貴方がたが、その持ち物よりも劣ることが許せなくて、認められなくて、起きた犯行。情けなくありませんの?」

 さげすみと侮蔑の目で、私は犯罪者たちを見下ろします。

「……セリア皇女殿下、そろそろ、町民が活動しだす時間になります」

 騎士団長が、私と犯罪者たちの間に割って入ってきました。

 どうやら、時間がきたようですね。

「わかりました。連れて行きなさい。侯爵子息と伯爵子息は貴族牢に。他は平民牢へ。着き次第、尋問を開始するように。面倒ですが、お願いしますわ」

 騎士団長に指示を出します。

「御意」

 騎士たちは五人を連行していきました。

 連行して行くのを見送ったあと、私たちは転移魔法で学園に戻って来ました。急いで、保健室に向かいます。

 小さめにノックをすると、私は音を立てないようにドアを開けます。

 まだ、目を覚ましてはいないようです。

 私は忍び足で医師に近付き、「容態は?」と尋ねます。

「セリア皇女殿下の治癒魔法で、身体の損傷は完全に回復しております。しかし、目に見えないダメージは、思いのほか深手のようですね。おそらく、すぐには目を覚まさないでしょう。三日ほど寝続けると思います」

「そうですか……」

「私の院で様子を診れたらいいのですが……」

 確かにそれが一番だと、私でもわかります。しかし、

「正直、それは難しいですわ。被害者である彼を、口封じするおそれがあります。全てが片付くまでは学園で保護します」

 先生に負担をかけるとわかってはいますが、青年の身柄の安全のためには、ここから出すわけにはいきません。

「畏まりました」

「いつも、迷惑をかけてごめんなさい」

 迷惑料込みの診療代を払いましょう。孤児院の寄付金も別に用意しないといけませんね。

「構いませんよ。セリア皇女殿下の頼みですから」

「そう言ってもらえると助かりますわ」

「……セリア皇女殿下、綺麗な朝焼けですよ」

 そう言われて窓に視線を向けると、朝日が顔を出し始めているところでした。

「綺麗ですわ……」

 少し間だけ、現実逃避したくなりました。できませんが……代わりに、元気をもらいましたわ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

【完結】え、別れましょう?

須木 水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」 「は?え?別れましょう?」 何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。  ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?  だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。   ※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。 ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

悪役令嬢は毒を食べた。

桜夢 柚枝*さくらむ ゆえ
恋愛
婚約者が本当に好きだった 悪役令嬢のその後

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。