婚約破棄ですか。別に構いませんよ

井藤 美樹

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今度は学園外にアレが発生したようです

第八話 高位貴族だからといって例外はありません

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「俺に、こんなことをして許されると思っているのか!!」

 侯爵子息をかわきりに、口々に汚い言葉を吐き捨てるお仲間たち。いっせいに怒鳴るものですから、何を言ってるかわかりませんわ。

 まぁ、今の状況に文句を言っていることはわかりますけどね。……それにしても、貴族籍がある者が犯罪を犯すと、皆、同じ台詞を吐きますね。

「許されますわ。監禁、拷問、恐喝、殺人未遂、どれも凶悪犯罪ですよ。貴方がたの国では、平民孤児は人として扱われないかもしれませんが、皇国は違います。身分関係なく、罪を犯せば罰せられる。皇国で罪を犯したのですから、皇国の法にのっとり罰せられますわ」

 懇切丁寧に説明して差し上げたのに、馬鹿には伝わらなかったようです。

「思い上がるな!! 兵士風情が!! 友好国の代表者を罰するだと、反対にお前が罰せらるぞ。俺の持ち物を俺自身が壊して、何が悪い!! 平民が一人、どうなろうとも、痛くも痒くもないわ!!」

 人の命をなんだって思ってますの。命は一つしかないのですよ。それなのに――

 私は怒鳴りたい気持ちを抑えるために、軽く深呼吸をしてから、隣に立っている騎士団長に向かって言いました。

「騎士団長、自白取れましたね。尋問の時間、かなり削ることができましたわ」

 冷ややかで低い声に、犯罪者たちは黙ります。

「そうですね、セリア皇女殿下」

 私の正体を知った犯罪者たちは、皆、顔を真っ青にし、わなわなと震え出しました。

「そうそう、友好国がどうとか言っていたようですが、このことを知った皇帝陛下がどう判断なさるか、楽しみですね。私なら、即凍結しますわ。なんせ、平然と自分の持ち物だと吐き捨てる貴方がたが、その持ち物よりも劣ることが許せなくて、認められなくて、起きた犯行。情けなくありませんの?」

 さげすみと侮蔑の目で、私は犯罪者たちを見下ろします。

「……セリア皇女殿下、そろそろ、町民が活動しだす時間になります」

 騎士団長が、私と犯罪者たちの間に割って入ってきました。

 どうやら、時間がきたようですね。

「わかりました。連れて行きなさい。侯爵子息と伯爵子息は貴族牢に。他は平民牢へ。着き次第、尋問を開始するように。面倒ですが、お願いしますわ」

 騎士団長に指示を出します。

「御意」

 騎士たちは五人を連行していきました。

 連行して行くのを見送ったあと、私たちは転移魔法で学園に戻って来ました。急いで、保健室に向かいます。

 小さめにノックをすると、私は音を立てないようにドアを開けます。

 まだ、目を覚ましてはいないようです。

 私は忍び足で医師に近付き、「容態は?」と尋ねます。

「セリア皇女殿下の治癒魔法で、身体の損傷は完全に回復しております。しかし、目に見えないダメージは、思いのほか深手のようですね。おそらく、すぐには目を覚まさないでしょう。三日ほど寝続けると思います」

「そうですか……」

「私の院で様子を診れたらいいのですが……」

 確かにそれが一番だと、私でもわかります。しかし、

「正直、それは難しいですわ。被害者である彼を、口封じするおそれがあります。全てが片付くまでは学園で保護します」

 先生に負担をかけるとわかってはいますが、青年の身柄の安全のためには、ここから出すわけにはいきません。

「畏まりました」

「いつも、迷惑をかけてごめんなさい」

 迷惑料込みの診療代を払いましょう。孤児院の寄付金も別に用意しないといけませんね。

「構いませんよ。セリア皇女殿下の頼みですから」

「そう言ってもらえると助かりますわ」

「……セリア皇女殿下、綺麗な朝焼けですよ」

 そう言われて窓に視線を向けると、朝日が顔を出し始めているところでした。

「綺麗ですわ……」

 少し間だけ、現実逃避したくなりました。できませんが……代わりに、元気をもらいましたわ。


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