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今度は学園外にアレが発生したようです

第七話 捕縛

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 動きがあったのは、その日の明け方でした。

 明け方とはいえまだ暗く、あと一時間ほどで陽が上がり始めるだろう時間帯です。

 直ぐに軽装に着替え、身だしなみを整える時間も勿体もったいないので、自身にクリーン魔法を掛けます。

 人通りがない早朝とはいえ、道を走れば遠回りになります。なので身体強化の魔法を掛け、屋根沿いに移動することにしました。これで、かなり短縮できますわ。

「セリア様、荷馬車は裏城門に向かっているようです」

 隣にいるスミスからの報告に、私は激しい怒りを覚えました。思わず、「下郎が!!」と吐き捨てるほどに。

 監視を任せた者には、通信用の魔法具を持たせていますから、逐一連絡が入ってくるのです。

「なら、向かっているのは、間違いなく魔の森ですね」

 つまり、合格した従者を始末する気なのです。ボロボロなのは監禁し、拷問したから。でも、借りている宿では始末はできない。

 ならば、魔物に食わせればいい――

 あまりにも短絡的な発想ですわ。

 魔の森を監視し、魔物と相対している私たちにとって、それは許し難い行為なのです。一度人の味を覚えた魔物は、人を好んで襲うようになります。命懸けで魔物を討伐している私たちハンターや兵士の想いを、土足で踏みにじる行為なのです。

「はい。間違いありません」

 農民に化けた従者が、傷だらけの青年を乱暴に荷馬車に放り込んだと連絡を受けてから、さほど時間は経っておりません。

 私は途中で足を止め、報告を聞き指示を出します。

「裏城門の前で捕縛しますわ」

「「御意」」
 
 私の命は、そのまま荷馬車を監視している二人にも伝えられます。

「先回りします」

 そう告げると同時に、私の足元には魔法陣が現れ光りだします。場所が特定され、行ったことがある場所なら、転移魔法が使えます。

 裏城門に瞬時に移動した私たちは、城門を護る騎士の一人を騎士団に走らせました。

「間もなく来ます」

 報告に来た暗部に私は小さく頷きます。騎士に目をやれば、彼も小さく頷きました。

 私はローブを目深く被り、気配を消し闇にまぎれます。

 農民に化けた従者が御者する荷馬車が、裏城門前で止まります。通常この時間帯なら、ぎりぎり開いている時間帯です。簡単な検査だけで、街の外に出られると踏んでいたのでしょう。

 だけど、この日は開いていません。

 裏城門は固く締まり、騎士は「通行不可」と告げます。文句を言う、農民。

「理由を仰ってください、騎士様!! 商いに支障が出たら困るんです!!」

「ならば、私が答えてあげますわ」

 その台詞を合図に、騎士は従者を有無を言わさず捕縛。

 従者の目の前で、監視を頼んでいた暗部たちが、荷馬車に敷かれているわらをのけます。

「セリア様!!」

 駆け寄ると、瀕死状態の青年が横たわっていました。辛うじて息はあります。暗部たちに「決して死なせるな」と命じていたとはいえ、ホッと胸を撫で下ろします。

 私は青年に上級の治癒魔法を掛けます。そして、クリーン魔法を掛けました。念のために鑑定をし、きちんと治療できているか確認しました。

「大丈夫そうですね」

 青年は安らかな寝息を立てています。

 いくら治癒魔法で怪我や、内臓の損傷を治したとしても、失った血や疲れは治癒できません。こればかりは、休息しか治す方法はありませんの。

「彼を学園の保健室に。医師の手配はすんでいます」

 私は保護した青年を暗部に運ぶよう指示しました。それを見送った後、私は捕縛されている従者に視線を移します。

 よほど冷たい目をしていたのでしょう。目が合った瞬間、「ヒッ!!」と従者は悲鳴を上げました。

「――さて、学園の生徒を監禁した上、拷問し、動けなくなった者を魔の森に遺棄しようとした罪、決して軽くはありませんよ。例え、貴方がたの主が、友好国の王族の血を引く侯爵家の御子息でも、容赦はいたしません。肝に命じなさい」

 従者は今頃、ことの重さを理解したのでしょう。ガタガタと震えています。

「セリア皇女殿下」

 呼ばれ振り返ると、騎士団長と副団長が控えていました。

「事の次第は聞いていますね」

「はい」

「では、行きましょうか」

「セリア皇女殿下もでしょうか?」

「何か問題がありますか?」

 普通に訊き返しただけですが、騎士団長は緊張した面持ちで「いえ」と短く答えました。道すがら、私は騎士団長に指示を出します。

「調書は午前中までに仕上げてください。それを持って、皇帝陛下に報告します」

「畏まりました」

 移動すること、十分。私たちは彼が借りている高級宿屋に到着しました。騎士たち分散し配置に付きます。いつでも、乗り込めます。

「ねぇ、騎士団長、彼らは今どんな様子だと思います?」

「どういう意味でしょうか?」

 質問の意図がわからない騎士団長は、反対に訊き返してきました。面白みは欠けますが、実力と人望は飛び抜けています。信頼できる者ですわ。

「彼らは今、油断しきっているのでしょうね。酒に溺れての馬鹿騒ぎ。早朝なのに迷惑なこと。騒げるのは今のうちだけ……この後、待ってるのは地獄ですわ。馬鹿騒ぎの代わりに上げるのは、悲鳴でしょうね。では、お仕事をしましょうか」

 私の台詞を合図に、騎士たちは宿屋に飛び込みます。

 馬鹿騒ぎの声がすぐに消え、代わりに怒鳴り声と物が壊れる音が聞こえてきます。無事、捕縛が完了したようですね。

 捕縛された者たちが連行され、高級宿から出て来ました。そして、私の前で、騎士に肩を押さえられひざまずかされます。

 侯爵子息と伯爵家子息、あとは従者三人。計五人。取りこぼしはありませんね。


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