上 下
322 / 336
今度は学園外にアレが発生したようです

第五話 意外な所で繋がっていました

しおりを挟む

 真っ黒のフェンリルの胸に飛び込み抱き付きます。シオン様は今仕事中なので、存分に楽しめますわ。

 あ~これですの。私が今求めていたのは。

「久し振りですわ、コクエン」

 大きな身体のわりに、「ク~ン」と可愛く甘えてくれます。

 なんて可愛い子なの!!

「しばらく、預けるわ。……それで、あの馬鹿、ちゃんと調教しているようね」

 お母様がニヤリと笑いながら言いました。

 あの馬鹿って、シオン様のことですよね。今回の件についてはかばいようがないので、反論はできませんでした。

 何故、お母様がここにいるのか、それはコクエンを借りるためですわ。

 コクエンはお母様の召喚獣です。エルヴァン王国にケルヴァンとシオン様、お母様とで赴いた時にコクエンたちの力を借りましたの。

 エルヴァン王国の件がすんだあと、私にコクエンを譲ってくださることになっていたのですが、シオン様が嫌がりまして渋々諦めました。

「調教ではありません。ただのお仕置きです。今は中止していますが、皇帝陛下の生誕祭が終われば、引き続き続行しますわ」

 調教なんて、あまりにも人聞きの悪いことは言わないでほしいですわ。

「でも、やってることは同じじゃない。お仕置きっていう塩対応で、今は飴対応。アメとムチ。調教でも同じことするわよ」

「お母様!! 罰と性的嗜好を一緒にしないでくださいませ」

 さすがに、怒りますよ。

「そんなに、怒らないでよ。別にからかってないから。反対に褒めてるのよ。私の二の舞いを踏まないでよかったって」

「結婚当初、お父様にはしたのですか?」

「してないから、こんなことになってるんじゃない」

 お母様は溜め息を吐きながら言います。

「もしかして、あの離婚騒動はアメとムチですか?」

「違うわよ。あれは本気。今更、やってもアメしかならないから、しても無駄」

 確かに、今のお父様は、お母様さえ近くにいればそれでいいですからね。まだ喜怒哀楽があるだけ、マシというわけですか……

「なかなか、奥が深いですね……夫婦って」

 そう言うと、お母様に爆笑されましたわ。ちょっと、腹が立ちます。でも、コクエンの体毛に包まれてると、怒りが瞬時に解けてしまいますわ。

「セリアもそんなことを言うようになったのね。ほんと、子供の成長って早いわ~」

「まぁ、これでも結婚してますからね。それで、話は変わりますけど、お母様、ドリアーヌ帝国をご存知ですか?」

 博識ですからね、お母様は。なので、訊いてみました。

「知ってるも何も、赤竜が嘗て守護していた国よね」

「えっ、赤竜様が!?」

 思わず、コクエンから顔を上げてしまいました。

「そう、守護していたの」

「していたってことは、今は……」

「していないわ。巣穴に隠れて眠っているからね。待っているのよ、卵を抱えながら。もう一度、番が生まれ変わるのを。だから、リュウシュウ族の件も出てこなかったのよ」

 それで合点がいきましたわ。番に執着する竜族が、過去番を排除しようとした者たちの最後を目にしようとしなかったことが、どうしても違和感でしたから。

 赤竜様が護っているのは、番との間にできた卵でしょう。卵を孵化させるには、両親の魔力が必要だと聞いたことがあります。

 竜族の番になったことで、人よりは遥かに永く生きられますが、竜族には到底及びません。いずれ、終わる時は来るのです。赤竜様が番を失っても狂わなかったのは、卵があったからですね。

「じゃあ、竜神の巫女とは?」

「それ、赤竜の番だった者の呼び名よ。昔、ドリアーヌは小国でね、昔から竜神信仰の強い国で、聖教会から迫害を受けていたの。信仰を変えない理由からね。そして、とうとう追い詰められて属国になろうとしていた時に、赤竜が現れたの」

「番様を見付けたからですね」

「そう。それで、赤竜と平民の少女は結ばれて、少女は竜神の巫女と呼ばれるようになったの。信仰の要になったのね。聖教会も手を引かざるえなかった。そのことが気に食わなくて、リュウシュウ族が番に手を掛けようとしたの。リュウシュウ族から見たら、人族風情が、尊き神を利用していると映ったようね」

 なるほど。

「だとしたら、未だに竜神の巫女がいるのはおかしいですよね」

「まぁね。今は完全に象徴よ。巫女は一人しかいないんだから。代わりなんて、そもそもいないのよ。とはいえ、もうシンボルみたいなものだったから、いないのは困る。それで、巫女と血が繋がっていた者が代理を務めていたようだけど、今は、ただ容姿の特徴が似ている者を据えてるって聞いたわ」

「ということは……何かしらの問題を起こしてほうりだされた? だとすると、やはりあの少女は……加護なし」

 そもそも加護があるなら、当の昔に竜族からの接触があるはずだわ。

「セリア?」

 独り言のように呟く私を、お母様は不思議そうに見ています。

「あのですね、今、平民用の牢屋に、その竜神の巫女とその取り巻きたちを収監してますの。これが、その時の映像ですわ」

 そう言いながら、私は魔法具に魔力を流します。

「…………」

「もう、呪われてるとしか言えませんよね」

 黙ってしまったお母様に、私は冗談まじりにぼやきます。

「この子たちどうするの?」

 満面な笑顔で訊かれました。私はその笑顔を見て、口元を引きつらせます。私を過去何度も、死の淵に追いやった時の笑顔でしたから。

「……しかるべき取り調べの後、速やかにドリアーヌ帝国に返却する予定です」

「ふ~ん、そうなの。わかった」

 やけにご機嫌なお母様。

 今、返却後のゴミたちの未来が見えた気がしますわ……

「くれぐれも、変なことはしないでくださいね」

 私ができるのはこれくらいですね。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

アリシアの恋は終わったのです【完結】

ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。 その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。 そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。 反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。 案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。 ーーーーー 12話で完結します。 よろしくお願いします(´∀`)

旦那様、離縁の申し出承りますわ

ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」 大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。 領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。 旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。 その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。 離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに! *女性軽視の言葉が一部あります(すみません)

ここは私の邸です。そろそろ出て行ってくれます?

藍川みいな
恋愛
「マリッサ、すまないが婚約は破棄させてもらう。俺は、運命の人を見つけたんだ!」 9年間婚約していた、デリオル様に婚約を破棄されました。運命の人とは、私の義妹のロクサーヌのようです。 そもそもデリオル様に好意を持っていないので、婚約破棄はかまいませんが、あなたには莫大な慰謝料を請求させていただきますし、借金の全額返済もしていただきます。それに、あなたが選んだロクサーヌは、令嬢ではありません。 幼い頃に両親を亡くした私は、8歳で侯爵になった。この国では、爵位を継いだ者には18歳まで後見人が必要で、ロクサーヌの父で私の叔父ドナルドが後見人として侯爵代理になった。 叔父は私を冷遇し、自分が侯爵のように振る舞って来ましたが、もうすぐ私は18歳。全てを返していただきます! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

【7話完結】婚約破棄?妹の方が優秀?あぁそうですか・・・。じゃあ、もう教えなくていいですよね?

西東友一
恋愛
昔、昔。氷河期の頃、人々が魔法を使えた時のお話。魔法教師をしていた私はファンゼル王子と婚約していたのだけれど、妹の方が優秀だからそちらと結婚したいということ。妹もそう思っているみたいだし、もう教えなくてもいいよね? 7話完結のショートストーリー。 1日1話。1週間で完結する予定です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。