婚約破棄ですか。別に構いませんよ

井藤 美樹

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今度は学園外にアレが発生したようです

第五話 意外な所で繋がっていました

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 真っ黒のフェンリルの胸に飛び込み抱き付きます。シオン様は今仕事中なので、存分に楽しめますわ。

 あ~これですの。私が今求めていたのは。

「久し振りですわ、コクエン」

 大きな身体のわりに、「ク~ン」と可愛く甘えてくれます。

 なんて可愛い子なの!!

「しばらく、預けるわ。……それで、あの馬鹿、ちゃんと調教しているようね」

 お母様がニヤリと笑いながら言いました。

 あの馬鹿って、シオン様のことですよね。今回の件についてはかばいようがないので、反論はできませんでした。

 何故、お母様がここにいるのか、それはコクエンを借りるためですわ。

 コクエンはお母様の召喚獣です。エルヴァン王国にケルヴァンとシオン様、お母様とで赴いた時にコクエンたちの力を借りましたの。

 エルヴァン王国の件がすんだあと、私にコクエンを譲ってくださることになっていたのですが、シオン様が嫌がりまして渋々諦めました。

「調教ではありません。ただのお仕置きです。今は中止していますが、皇帝陛下の生誕祭が終われば、引き続き続行しますわ」

 調教なんて、あまりにも人聞きの悪いことは言わないでほしいですわ。

「でも、やってることは同じじゃない。お仕置きっていう塩対応で、今は飴対応。アメとムチ。調教でも同じことするわよ」

「お母様!! 罰と性的嗜好を一緒にしないでくださいませ」

 さすがに、怒りますよ。

「そんなに、怒らないでよ。別にからかってないから。反対に褒めてるのよ。私の二の舞いを踏まないでよかったって」

「結婚当初、お父様にはしたのですか?」

「してないから、こんなことになってるんじゃない」

 お母様は溜め息を吐きながら言います。

「もしかして、あの離婚騒動はアメとムチですか?」

「違うわよ。あれは本気。今更、やってもアメしかならないから、しても無駄」

 確かに、今のお父様は、お母様さえ近くにいればそれでいいですからね。まだ喜怒哀楽があるだけ、マシというわけですか……

「なかなか、奥が深いですね……夫婦って」

 そう言うと、お母様に爆笑されましたわ。ちょっと、腹が立ちます。でも、コクエンの体毛に包まれてると、怒りが瞬時に解けてしまいますわ。

「セリアもそんなことを言うようになったのね。ほんと、子供の成長って早いわ~」

「まぁ、これでも結婚してますからね。それで、話は変わりますけど、お母様、ドリアーヌ帝国をご存知ですか?」

 博識ですからね、お母様は。なので、訊いてみました。

「知ってるも何も、赤竜が嘗て守護していた国よね」

「えっ、赤竜様が!?」

 思わず、コクエンから顔を上げてしまいました。

「そう、守護していたの」

「していたってことは、今は……」

「していないわ。巣穴に隠れて眠っているからね。待っているのよ、卵を抱えながら。もう一度、番が生まれ変わるのを。だから、リュウシュウ族の件も出てこなかったのよ」

 それで合点がいきましたわ。番に執着する竜族が、過去番を排除しようとした者たちの最後を目にしようとしなかったことが、どうしても違和感でしたから。

 赤竜様が護っているのは、番との間にできた卵でしょう。卵を孵化させるには、両親の魔力が必要だと聞いたことがあります。

 竜族の番になったことで、人よりは遥かに永く生きられますが、竜族には到底及びません。いずれ、終わる時は来るのです。赤竜様が番を失っても狂わなかったのは、卵があったからですね。

「じゃあ、竜神の巫女とは?」

「それ、赤竜の番だった者の呼び名よ。昔、ドリアーヌは小国でね、昔から竜神信仰の強い国で、聖教会から迫害を受けていたの。信仰を変えない理由からね。そして、とうとう追い詰められて属国になろうとしていた時に、赤竜が現れたの」

「番様を見付けたからですね」

「そう。それで、赤竜と平民の少女は結ばれて、少女は竜神の巫女と呼ばれるようになったの。信仰の要になったのね。聖教会も手を引かざるえなかった。そのことが気に食わなくて、リュウシュウ族が番に手を掛けようとしたの。リュウシュウ族から見たら、人族風情が、尊き神を利用していると映ったようね」

 なるほど。

「だとしたら、未だに竜神の巫女がいるのはおかしいですよね」

「まぁね。今は完全に象徴よ。巫女は一人しかいないんだから。代わりなんて、そもそもいないのよ。とはいえ、もうシンボルみたいなものだったから、いないのは困る。それで、巫女と血が繋がっていた者が代理を務めていたようだけど、今は、ただ容姿の特徴が似ている者を据えてるって聞いたわ」

「ということは……何かしらの問題を起こしてほうりだされた? だとすると、やはりあの少女は……加護なし」

 そもそも加護があるなら、当の昔に竜族からの接触があるはずだわ。

「セリア?」

 独り言のように呟く私を、お母様は不思議そうに見ています。

「あのですね、今、平民用の牢屋に、その竜神の巫女とその取り巻きたちを収監してますの。これが、その時の映像ですわ」

 そう言いながら、私は魔法具に魔力を流します。

「…………」

「もう、呪われてるとしか言えませんよね」

 黙ってしまったお母様に、私は冗談まじりにぼやきます。

「この子たちどうするの?」

 満面な笑顔で訊かれました。私はその笑顔を見て、口元を引きつらせます。私を過去何度も、死の淵に追いやった時の笑顔でしたから。

「……しかるべき取り調べの後、速やかにドリアーヌ帝国に返却する予定です」

「ふ~ん、そうなの。わかった」

 やけにご機嫌なお母様。

 今、返却後のゴミたちの未来が見えた気がしますわ……

「くれぐれも、変なことはしないでくださいね」

 私ができるのはこれくらいですね。


 
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