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今度は学園外にアレが発生したようです
第一話 抗議は一切受け付けません
しおりを挟むシオン様のお仕置きを一時中止にした翌日、私はクラン君と共に学園長室を訪れていました。
要件は、短期留学のことですわ。
テーブルを挟み向かい合わせに座ると、私から要件を切り出します。
「学園長、今回の短期留学の件なのですが、前回の学院のことを踏まえて、試験を行った上、判断したいと考えております」
無条件に受け入れるつもりはありませんわ。当然、特例を認める気もありません。いくら短期だとしてもです。例え、他校からの推薦状を持っていたとしても、それはあくまで参考程度。
教職員から反対する声はあると思いますが、実際に試験を受け、合格した者のみの門戸を開けるべきですわ。
「……確かに、それがよろしいですな」
少し考えてから、学園長は答えます。
「意外ですわ。難色を示されると考えていましたわ」
私がそう告げると、学園長は苦笑しました。
「通常なら、難色を示す者もいたでしょう。貴族を受け入れている以上、学園と政治は切り離されるものではありませんから。しかし、私たちは一度、それで手酷い痛手を負いました。教職員の中には、まだそのことを気に病む者もおります」
そこまで言わせる、皇国の学院の生徒の酷さって……私でも、うんざりしましたからね。ほんとうに恥ずかしくてたまりませんわ。今でも、担当になった教職員には頭が上がりません。
何があったか簡単に説明すれば、嫌な意味で、貴族の中でも貴族らしい者たちと、お花畑思考の者が交わった結果、予期せぬ相乗効果をもたらしました。かなりの醜態をさらし、問題行動を立て続けに起こしたのです。
「大丈夫ですか? ケアの方は?」
とても、心配になります。
「それは大丈夫です。あのような者たちは、そうそういませんから」
「いたら、この前と同じように丁寧に梱包して、説明書などを用意して送り返しますわ」
当時を思い出したのか、学園長は声を上げて笑います。
「それが、一番ですな。それで、試験とはどのような?」
「入学試験の簡易版でよろしいかと。ハンターギルド登録、ランクは最低限D以上。実技試験と筆記試験は必須。筆記試験は、この前の中間テストでよろしいかと。六割以上が最低ラインだと考えています」
最低限、そのラインで授業にギリギリ付いていけるレベルですからね。
「なるほど。しかし、貴族の令息や令嬢たちの親や本人が、ハンターギルドに登録に関して難色を示すのでは」
でしょうね。実際、以前の学院でハンター資格を有しているのは、ほんのごくわずかの生徒だけでした。高位貴族は皆無。それは、他国でも珍しいことではありませんわ。
そもそも、そういった貴族たちは、ハンターを軽く見ていますからね。使い捨ての駒のように。ほんと、腹立たしいですわ。
「示すのであれば、短期留学を諦めればいいだけのこと。この学園は本来、高ランクのハンターの養成を主としております。魔の森から発生するスタンピードの抑制力として。現に、今この学園に通う生徒全員、高位貴族や平民、身分に関係なくハンター資格を有しておりますから」
私が理事に就任した時に、まずしたのは、学園の本来の意味を明確にしたことです。
結果として、この学園の生徒数は他の学校に比べて極めて少なくなりました。最高ランクの教育を提供しているのに。まぁそれが、学園のレベルを底上げすることに繋がったのですから、間違った方針とは思いませんわ。
「理事長など、世界で数人しかいないSSランク保持者。理事長が提示されたレベルに達していない者は、却って、この学園の生活は厳しいですな」
ホッホと笑う学園長、なかなか食えない人ですわ。だけど、誰よりもこの学園を一番に考えている方ですわ。
「入学が認められても、その鼻を折られる者は多いですけどね」
超実力主義。そこに身分などないですから。あるのは、実力差から生まれる明確な上下関係。
「それで心が折れるようならば、ハンターだけでなく、別の職種でも三流止まりでしょう」
「そうですわね」
激しく同意いたしますわ。
私の名で正式に公示した内容に、反発する声は、考えていたよりは少なかったです。とはいえ、短期留学を申し出た三分の二は、抗議して来ましたが、勿論、一蹴しましたわ。
それでも、乗り込んで来て抗議する団体さんには、新入生の一番低いランクのクラスの授業を見ていただきました。
すると、最後は皆、顔色を変え黙って帰られるのです。
そもそも、真剣に短期留学をしたいのなら、何故、我が校のことを調べていないのでしょう。調べていたら、我が校が貴族などの身分に左右されないとわかるでしょうに。
それとも、それは表向きだと受け取られているのかもしれませんね。
まぁ、その誤解は彼らによって直ぐに訂正されるでしょう。
さて、何人一次試験に残るか楽しみですわ。
魔の森に隣接している我がコンフォート皇国は、常に力を持つ人材を欲していますから。
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