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お仕置きの時間です

第七話 背中を撫でる温かい手(シオンSideあり)

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 空き部屋から出て来ると、心配してくれていたようで、お祖父様とお祖母様がドアの外で待っていました。

「…………話し合いは終わったのか……」

 恐る恐る、お祖父様が訊いてきます。

「はい。つつがなく終わりましたわ。急な来訪、申し訳ありませんでした」

 私は頭を下げます。

「いや、それは構わないが……」

 お祖父様とお祖母様の視線が、私ではなくドアに向いています。

 あぁ、シオン様ですね。

「シオン様でしたら、まだ部屋にいますわ。そっとしておいてくれると助かります」

 満面な笑みを浮かべながら告げると、お祖父様は顔を引きつらせ、反対にお祖母様はとても良い笑顔です。

「セリアはこの後どうするの? 時間があるのなら、私とお茶しない?」

 お誘い嬉しいですわ。お祖母様とのお茶会は、とても勉強になりますし楽しいのです。素でいられますから。

「はい。なら、この前買って、マジックバックに入れていたお菓子を食べませんか?」

「あら、いいわね」

「私がよく行く、王都のカフェのお菓子ですわ。とても美味しくて、暇があったら通ってますの」

「いいわね、一人で行くの?」

 そう訊かれて、私の表情は少し陰ります。

「ここ最近はそうですね。前は、二人でお茶していたのですが、今はもっぱら持ち帰りですね」

 お祖母様に嘘など吐けませんからね、正直に答えます。

「そう……持ち帰りなのですね。それも、一人前でなく」

 紙袋を見たお祖母様のやや低い声が廊下に響きます。お祖父様は完全に空気ですわ。

 それにしても、お祖母様、容赦ないですね。シオン様、今頃、胸を押さえてうずくまっていることでしょう。

「はい……」

「そう、辛かったわね。さぁ、お茶にしましょう」

 お祖母様は優しい声を掛けてくれながら、私の背中に手をそっと添えてくれます。

「…………おい、シオンは……」

 お祖父様の問い掛けは、完全に無視されています。それどころか、お祖母様に睨まれていますわ。

「さぁ、行きましょう」

 お祖母様に案内されて、庭に連れ出されました。

 気が緩んだのか、私の悩みを深く知ることができる人だからなのか、私の気が緩み、今まで張り詰めていたものが決壊してしまいました。

 ここに来ての優しさは、本当にズルいですわ。

「泣いていいのよ。辛かったわね……全部、背負い込んで。味方になってくれる者が馬鹿すぎて、よけいに辛かったでしょう」

 お茶が冷めても、お祖母様は私の背中を撫で続けてくれました。



 その頃――

「よく見ておくことだ。シオン、お前の番であるセリアはまだ十六歳の子供だぞ。その子供に手を汚させることをさせるな。反対に、お前が手を汚せ」

 お祖父様の言葉に、俺は唇を強く噛み締め聞いていた。

 番が泣いている。それだけで、こんなにも胸が苦しい。張り裂けそうだ。

「…………」

 溜め息を吐く、お祖父様の厳しく鋭い視線が、俺に向いているのを肌で感じる。

「セリアのことだ。お前には、さわりしか話していないのだろう。赤竜はリュウシュウ族を決して許さない。故に、その土地諸共もろとも焼き払おうとした。それを回避する条件として、全てのリュウシュウ族の死を交換に出したのだ。我ら竜族は細かいことが苦手でな、当事者の一人であるセリアが担うことになった。おのが手で、呪いを掛けた。伝染する呪いだ。子孫ができない呪い、優しくて恐ろしいな……」

 お祖父様の言葉が、容赦なく俺の胸に突き刺さる。息をするのも苦しい。

 絶対護ると決めた番に、俺が護られている。俺の気持ちを想い、直接手を掛けることはしなかったのだろう。

 情けない。情けなすぎる。そんな自分を、俺は心底滅したいと思った。

「ましてや、セリアを殺そうと屋敷を襲撃したらしい。シオン、知っていたか? あぁ、その顔は知らなかったな。ほんと、何をしている? 番だろう、お前が危険な目に合わせてどうする? いいか、もう二度と、番を危険な目に合わせるな」

「……はい」

 なんとか、俺は答える。

「竜の気質が強く出ていても、人としての生活が長かったせいで、考え方は人族が元だろう。ならば、よけいに周囲に気を巡らせろ。今回は、お前に隙があったからだ。甘さに付け込まれたことを決して忘れるな。失ってからでは遅いぞ」

 セリアを失う――

 想像しただけで、地面がなくなり奈落の底に落ちた感覚が俺を襲う。身体が震えて冷や汗が止まらない。

 そして、改めて理解した。

 もしそうなったら、俺は……耐え切れずに、狂ってしまうだろう。


 
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