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お仕置きの時間です
第五話 本気で負けにいきますわ
しおりを挟む以前の禁止薬物の摘発のように、広範囲の探知魔法を使えば、難なくシオン様の居場所は判明します。シオン様の魔力を記憶しておりますから。
ですが、それをした場合、まず間違いなくシオン様に気付かれてしまいますわ。当然、気付かれると逃げられてしまいますね。そうなると、かなり厄介ですわ。本気になったシオン様には、正攻法で追い付くことなど不可能ですから。
シオン様との結婚の前に、鬼はお父様ですが、皇国全土を舞台にして散々鬼ごっこをしたのです。もうよろしいですわ。それに、再びそんな事態になれば、完全に私たちの仲は拗れてしまいます。
なので、ここは魔法に頼らず、地道に自分の足を使おうと思います。
というわけで、私は今、魔の森を爆走しておりますわ。
「……久し振りの全力疾走、なかなか気持ちいいですわね」
少し不謹慎でしたね。
全身に魔力を纏わせるだけで、身体強化と物理と魔法攻撃の耐性はグンッと上がります。私が今着用している戦闘服は、その補助に特化していますから、ドラゴンプレス一発ぐらいは軽くしのげると思いますわ。
なので、特に防御することなく、進路を妨害する魔物だけを討伐しながら進みます。
かなり、瘴気が濃くなってきましたね。昼間なのに薄暗く、空気も重いです。苔も草も生えていません。枯れた木と岩だけですわ。瘴気は全ての生物にとって猛毒ですからね。
この瘴気に私の匂いが紛れて、気付かれにくくなっていればいいのですが……
一応、最大限の瘴気対策はとってはいますが、人の身では長居はできませんね。
「……三時間が限度ですね」
その間にシオン様を見付け出し、捕獲し、連れ戻さないといけません。
なかなか高難度のミッションですわね。こんな時でも気持ちが高揚するのは、職業病かもしれませんね。
確実にシオン様との距離を詰めていきます。
あと、百メートルの所まで来た時でした。
急にシオン様が動き出したのです。
「気付かれましたか……」
さすがですね。私との距離があいていきます。
仕方ありませんね。次の手に移りますか……
私は足を止め、わざと咳き込んだ振りをし、両膝を地面に付きます。
ここまで本格的ではありませんが、私とシオン様との鬼ごっこ、小さなものをいれても結構な数こなしていますの。その大半が、私が照れて逃げ出しただけなのですけどね。シオン様が大人の色気を隠さずに、私に振りまいてくるから耐え切れなくて。それでつい……
とにかく、そのいずれも、最後は捕まってはいるのですが、状況や心情的な面から見れば私が勝っています。正直に言えば、勝たせてもらっているのですが……
今回は、本気で負けにいきますわ!!
試すような形になりますが、致し方ないでしょう。
魔の森において、動かなくなった生き物はもれなく餌になります。現に、今、私を喰おうとしている魔蛇が大きな口を開け、私に向かって飛び掛かってきました。
馬鹿ですね。喰われるつもりはありませんわ。
私は薄く笑うと、弱点である魔蛇の眉間を狙います。攻撃対象が自らこっちに来てくれるのです。これほど、楽なことはありませんわ。
攻撃しようとした時です。
突風が吹きました。
と同時に、大量の肉塊がバラバラと降ってきます。どうやら、魔蛇は細かく切り刻まれたみたいですね。
「大丈夫か!? セリア!!」
シオン様は慌てた様子で片膝を付き、私の両肩を掴み、必死な面持ちで私の顔を見下ろしてきます。
「……捕まえましたわ」
シオン様の腕をガシッとしっかりと掴むと、私はにっこりと微笑みながら告げました。
言い終えたと同時に、周りの景色が変わります。
「セリア!? 馬鹿孫!? どうしたの!?」
飛んできた先は、お祖父様とお祖母様の所。ここなら、シオン様が逃げ出す場所はないですからね。ゆっくりとお話ができますわ。
ゆっくりとね……
「お祖母様、お祖父様、空き部屋をお借りします」
今回の件で、お祖父様とお祖母様には相談にのっていただき、かなり迷惑を掛けてしまいましたが、もう少しだけ、目を瞑ってくださいね。
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