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お仕置きの時間です
第三話 拒絶
しおりを挟む長閑な陽気の中、なんとも言えない空気に包まれながら、私とケルヴァンのお茶会が始まりました。
スミスが紅茶を淹れてくれます。テーブルの中央にはお菓子やケーキ、あとケルヴァンのためにサンドイッチも用意しています。
短時間でここまで用意できるなんて、ほんと、皆優秀ですわ。助かりますね。
「…………この中で、平然とお茶できる神経が理解できない」
ケルヴァンにしては小さな声ですね。
「なかなか辛辣な台詞ですね、ケルヴァン。そういう貴方も、ぼやきながらも紅茶を飲んでますよね」
「美味しいからな」
「ありがとうございます、ケルヴァン殿」
スミスがお礼を述べます。
「それで……休みは、隊長、いつもああなのか?」
身を小さく竦ませながら、ケルヴァンは訊いてきます。
「ストーカーの件ですか? ええ、今は人畜無害のクラン君にまで威嚇し、殺気を放ってますね」
「クランにまで? 完全に終わってないか?」
「終わってますよ」
私の返答に、ケルヴァンは少し驚いているようです。
自分が言い出したことなのに。
「だとしても、お仕置きは止めないんだな」
「それなりのことをしていますからね。けじめは大切ですわ」
「……そうだな、さっきは無責任なことを言って悪かった。隊長に罪は問えないよな」
自分が悪いと思えば、素直に頭を下げ謝罪する。国も地位も全て放棄しても、落ち込みはしても卑屈にならない。こういう所は、ほんと変わりませんね。
「謝罪の必要はありませんわ。そう進言したくなる気持ちと状況は理解できますもの」
「それで、どうするつもりだ? このまま、あと三週間過ごすのか?」
気になりますよね。
「それについては考えがありますわ。あと、私がケルヴァンをお茶会に誘ったのは、これを渡すためですの」
そう言うと、ケルヴァンの前にオルゴールくらいの箱を置きました。
「これは?」
「リュウシュウ族の件の報酬ですわ。受け取ってください」
「開けてもいいか?」
「どうぞ」
私が許可をすると、ケルヴァンは箱を開けました。
「腕輪? 魔法付与されてるな」
手に取らず、一目見ただけで気付くなんて、ケルヴァンの実力は上がってますわね。
「ええ。物理攻撃と魔法攻撃の耐性力をグンッと押し上げる、魔法具ですわ。他にも色々付けたかったのですが、壊れそうなので、この二点のみに絞りました。はめて――何をしているのですか? シオン様」
ケルヴァンの腕を掴んでいるシオン様を見て、私はさっきまでとは違い、感情のこもらない冷たい声で、夫であるシオン様に問い掛けます。
「それは俺のだろ?」
憤怒のオーラを隠さずに、シオン様は私を見下ろしています。
反対に、腕を掴まれているケルヴァンは、下手に動くと腕が折れることがわかっているので、じっと痛みに耐えています。
「腕を離しなさい。自分の優秀な部下を私怨で怪我を負わせるつもりですか」
私の厳しい声と態度に、シオン様は渋々、ケルヴァンから手を離しました。
傍に控えていたスミスが、直ぐにポーションを持ってきて、ケルヴァンに飲ませます。これで、腕は大丈夫でしょう。あのポーションなら、複雑骨折までは直せますから。
腕を動かしているケルヴァンを見て、私はホッと安堵し、小さく溜め息を吐きました。
そんな私の様子を見て、シオン様はさらに眉間に皺を寄せています。
「……確かに、製作し始めた時はシオン様の誕生日プレゼントのためでしたが、やめましたの。とはいえ、完成間近だったので、せっかくですし、褒美としてケルヴァンにあげようと思いましたの。誰にあげようと、シオン様には関係ありませんよね」
「…………関係ない……」
地の底から出る声って、こういう声なのですね。ゾクゾクしますわ。
逃げ出すタイミングを完全に逃したケルヴァンが、ガクガクと小刻みに震えていますね。
「言い換えれば、一番必要な人に渡したのです。さっきのようなこと、何度もケルヴァンにしたのでしょう。報告は受けていますよ、シオン様」
「……いや、俺は…………」
ケルヴァンが何か言ってますが、今は無視しましょう。
「ケルヴァンは私にチクったりはしていませんよ。反対に、シオン様と砦のことを心配をしていました。良い部下ではありませんか。シオン様、貴方の一番の被害者であるケルヴァンの身を心配することがおかしいとでも、仰りたいのですか? それが友ならば尚更です。さぁ、ケルヴァン、それを腕にはめてくださいな、今すぐ」
腕輪を返そうとするケルヴァンに、にっこりと微笑みながら圧を掛けました。
反対に、シオン様はケルヴァンの肩に手を乗せ見下ろしています。「受け取るのか、受け取らないよな」って声が聞こえてきそうですわ。
仕方ありませんわね。
私はまた小さく溜め息を吐くと、「スミス」と短く命じました。優秀な執事ですよ、それだけで私の意図に気付いてくれます。
「「あっ!?」」
ケルヴァンとシオン様が、同時に声を上げます。
腕輪はケルヴァンの腕にはまっていました。腕輪を取ろうとしているケルヴァンに、私は微笑みながら言います。
「一度はめると、私以外取ることはできません。これで、安心ですね。あと……シオン様、貴方があの宝石屋に注文している品いりませんので。私が受け取ると思っていたのですか? あの雌猫と一緒に選んだ品を。そうそう、雌猫が手に取って見てましたよね」
最高の笑みを浮かべながら告げると、シオン様の顔色が瞬時に変わります。
「ち、違う!! 手に取ったのは別のやつだ!!」
語るに落ちましたね。
「さすがに、それは酷いですよ、隊長」
ケルヴァンがボソッと呟きます。
ですよね、ですよね。ここにも味方がいて嬉しいですわ。
「……別の指輪ですか……妻より先に指輪を渡したのですか……そうですか」
あ~思い出しても腹が立ちますわ!!
同時に、その場面を見てしまったショックがありありと蘇ってきます。胸が痛くて痛くてたまりませんわ。
「セ、セリア!!」
その声と同時に、シオン様の焦った顔が迫ってきました。抱き締めようと腕を伸ばしています。
「触らないで!!」
反射的に、私はその手を払い除けていました。
大好きで、とても温かくて、安心する手を――
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