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お仕置きの時間です
第二話 賭けをいたしましょう
しおりを挟む「セリア様、ケルヴァン殿をお連れいたしました」
手紙を託しただけなのに、スミスはケルヴァンを捕まえ、引きずりながら戻って来ました。
唸っているので、猿轡を噛まされているようです。
逃げようとしましたね、やれやれ。
「手紙を渡すように申しただけですが……」
「申し訳ありません。本日、ケルヴァン殿はお休みのようなので、幸いと思いお連れいたしました」
「……連行の間違いではありませんか? とりあえず、猿轡を外しなさい」
どこからどう見ても、無理矢理連れてきたでしょ。全く……まぁ、素直に手紙を受け取らなかったからでしょうね。
「畏まりました」
スミスは拘束を解き、猿轡を取りました。途端に、ケルヴァンは怒鳴ります。
「ったく!! 主が強引なら、配下も強引だな!!」
ケルヴァンは敬語も忘れ、やや乱暴な台詞を吐きます。
スミスはそんな彼を一瞥すると、溜め息を吐きながら言いました。
「仕方ないではありませんか。素直に、セリア様からの手紙を受け取ってくれればよかったのに。受け取りを拒否したあげく、逃げ出すからです」
「だったら、場所を考えろよ!! 皆がいる食堂で渡そうとするなよ!! 絶対、隊長に伝わるだろ!!」
真っ青になりながら、ケルヴァンは怒鳴っています。思い出したのか、若干、冷や汗もかいていますね。
やっぱり、敬語よりもこっちの方がいいですね。
それにしても、シオン様、ケルヴァンに対して、相当当たりが強くなっているようですね。あれだけ、ケルヴァンは友人だと申していたのに。
これもまた、竜族の習性ですか……人畜無害のクラン君にも、威嚇してますしね……
「ケルヴァン、ごめんなさいね。シオン様には、また私から注意しますわ」
「そんなことしたら、逆効果だろ!!」
そこまでですか……シオン様にも、困ったものですね。焼き餅を焼いてくれるのは嬉しいですが、それを仕事に持ち込んではいけません。
「……そんなに酷いのですか。わかりましたわ、こちらで対処しますわ。二度と理不尽な目に合わないよういたしますね。安心してください、ケルヴァン」
にっこりと微笑みながらそう約束すると、ケルヴァンはとても不安そうな表情をしています。
「なら、例のお仕置きを撤回してくれ」
意外なお願いに、私は首を傾げます。
「あら、何故ですの?」
「魔王が魔神化してるからだよ。殺気と怒気を隠そうとせずにだだ漏れ状態。気絶するやつも出てきて、仕事に影響が出てるんだよ。まぁ、俺に対しての当たりが強いのは前からだから、まだそれは許せるけど、とにかく、現場は困ってるんだ!!」
それって、休みが取れてないってことなのかしら?
「気絶した者の代わりは、シオン様が自らその分の仕事をしていると聞きましたが」
スミスが口を挟んできました。
「ああ、確かに、休みは取れてるし、仕事量が増えてるわけじゃない。だけど、超ピリピリしてる。空き時間も常に緊張している状態だ。そんな状態が続きけば、いつか、誰かが大きなミスをする、絶対に」
なるほど。確かに、それが事実ならば、ケルヴァンの進言について、真剣に考え対処しなければなりませんね。それでなくても、ブラックになりやすい職場ですもの。できる限り、ホワイトにしておきたいですわ。
「そうですか……とりあえず、ケルヴァン、お座りになって」
私はソファーに向かい、ケルヴァンに座るよう促します。
「お茶会のご用意をいたします。しばらく、お待ち下さいませ」
スミスはそう告げると執務室から退出しました。異性と二人きりにならないよう、侍女が二人残っています。
「ケルヴァン、いつも、損な役回りばかりさせてごめんなさいね。今日はゆっくりして行って」
私が笑顔でそう告げると、ケルヴァンは途端に冷や汗を浮かべ始めます。
あら、やっぱり、ケルヴァン腕上がってますわ。離れた場所からの殺気に気付くなんて。リュウシュウ族の断罪に同行してもらって、正解でしたわ。
「………………おい、セリア様。今日、隊長休みだよな。隊長休みの時、何しているんだ?」
あっ、それ今訊きます。
「私のストーカーですわ」
満面な笑みで答えると、ケルヴァンが短い悲鳴を上げて逃げ出そうと、窓の柵に足を掛けます。
「ケルヴァン、それは愚策ですよ。今、この状況下で一番安全なのは、私の傍ですよ」
そう教えて上げると、ケルヴァンは「卵を今産むか、後から産むかの差だろ」と言います。
まぁ、確かにそうですね。
「後から生んだ方が、良い環境下だったりしますわよ」
「反対もあるけどな」
「そうですね。これもまた、一種の賭けですね。ケルヴァンはどちらに賭けますか?」
私がそう問い掛けると、ケルヴァンは窓から離れ、ソファーに座り直します。
その時、スミスがお茶会の用意ができたと呼びに来ました。あと、ちょっとした報告も。
「飛び入り参加したい方がいらっしゃいましたが、正式に招待されておりませんので、ご遠慮いただきました」
飛び入り参加者ってシオン様以外いないでしょう。
「構いませんわ。今日はケルヴァンと二人だけのお茶会ですもの」
「おい!!」
ケルヴァンは焦ってますね。
当然ですわ、この会話も聞かれてる可能性大ですもの。だから、ケルヴァンが必死で止めようとしているのです。
でも、それを無視して、私はケルヴァンを再度お茶会に誘いました。
何も、この世の終わりみたいな顔をしなくても、よろしいではありませんか……
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