婚約破棄ですか。別に構いませんよ

井藤 美樹

文字の大きさ
上 下
310 / 342
お仕置きの時間です

第二話 賭けをいたしましょう

しおりを挟む

「セリア様、ケルヴァン殿をお連れいたしました」

 手紙を託しただけなのに、スミスはケルヴァンを捕まえ、引きずりながら戻って来ました。

 唸っているので、猿轡さるぐつわを噛まされているようです。

 逃げようとしましたね、やれやれ。

「手紙を渡すように申しただけですが……」

「申し訳ありません。本日、ケルヴァン殿はお休みのようなので、幸いと思いお連れいたしました」

「……連行の間違いではありませんか? とりあえず、猿轡さるぐつわを外しなさい」

 どこからどう見ても、無理矢理連れてきたでしょ。全く……まぁ、素直に手紙を受け取らなかったからでしょうね。

かしこまりました」

 スミスは拘束を解き、猿轡を取りました。途端に、ケルヴァンは怒鳴ります。

「ったく!! 主が強引なら、配下も強引だな!!」

 ケルヴァンは敬語も忘れ、やや乱暴な台詞を吐きます。

 スミスはそんな彼を一瞥いちべつすると、溜め息を吐きながら言いました。

「仕方ないではありませんか。素直に、セリア様からの手紙を受け取ってくれればよかったのに。受け取りを拒否したあげく、逃げ出すからです」

「だったら、場所を考えろよ!! 皆がいる食堂で渡そうとするなよ!! 絶対、隊長に伝わるだろ!!」

 真っ青になりながら、ケルヴァンは怒鳴っています。思い出したのか、若干、冷や汗もかいていますね。

 やっぱり、敬語よりもこっちの方がいいですね。

 それにしても、シオン様、ケルヴァンに対して、相当当たりが強くなっているようですね。あれだけ、ケルヴァンは友人だと申していたのに。

 これもまた、竜族の習性ですか……人畜無害のクラン君にも、威嚇してますしね……

「ケルヴァン、ごめんなさいね。シオン様には、また私から注意しますわ」

「そんなことしたら、逆効果だろ!!」

 そこまでですか……シオン様にも、困ったものですね。焼き餅を焼いてくれるのは嬉しいですが、それを仕事に持ち込んではいけません。

「……そんなに酷いのですか。わかりましたわ、こちらで対処しますわ。二度と理不尽な目に合わないよういたしますね。安心してください、ケルヴァン」

 にっこりと微笑みながらそう約束すると、ケルヴァンはとても不安そうな表情をしています。

「なら、例のお仕置きを撤回してくれ」

 意外なお願いに、私は首を傾げます。

「あら、何故ですの?」

「魔王が魔神化してるからだよ。殺気と怒気を隠そうとせずにだだ漏れ状態。気絶するやつも出てきて、仕事に影響が出てるんだよ。まぁ、俺に対しての当たりが強いのは前からだから、まだそれは許せるけど、とにかく、現場は困ってるんだ!!」

 それって、休みが取れてないってことなのかしら?

「気絶した者の代わりは、シオン様が自らその分の仕事をしていると聞きましたが」

 スミスが口を挟んできました。

「ああ、確かに、休みは取れてるし、仕事量が増えてるわけじゃない。だけど、超ピリピリしてる。空き時間も常に緊張している状態だ。そんな状態が続きけば、いつか、誰かが大きなミスをする、絶対に」

 なるほど。確かに、それが事実ならば、ケルヴァンの進言について、真剣に考え対処しなければなりませんね。それでなくても、ブラックになりやすい職場ですもの。できる限り、ホワイトにしておきたいですわ。

「そうですか……とりあえず、ケルヴァン、お座りになって」

 私はソファーに向かい、ケルヴァンに座るよう促します。

「お茶会のご用意をいたします。しばらく、お待ち下さいませ」

 スミスはそう告げると執務室から退出しました。異性と二人きりにならないよう、侍女が二人残っています。

「ケルヴァン、いつも、損な役回りばかりさせてごめんなさいね。今日はゆっくりして行って」
 
 私が笑顔でそう告げると、ケルヴァンは途端に冷や汗を浮かべ始めます。

 あら、やっぱり、ケルヴァン腕上がってますわ。離れた場所からの殺気に気付くなんて。リュウシュウ族の断罪に同行してもらって、正解でしたわ。

「………………おい、セリア様。今日、隊長休みだよな。隊長休みの時、何しているんだ?」

 あっ、それ今訊きます。

「私のストーカーですわ」

 満面な笑みで答えると、ケルヴァンが短い悲鳴を上げて逃げ出そうと、窓の柵に足を掛けます。

「ケルヴァン、それは愚策ですよ。今、この状況下で一番安全なのは、私のそばですよ」

 そう教えて上げると、ケルヴァンは「卵を今産むか、後から産むかの差だろ」と言います。

 まぁ、確かにそうですね。

「後から生んだ方が、良い環境下だったりしますわよ」

「反対もあるけどな」

「そうですね。これもまた、一種の賭けですね。ケルヴァンはどちらに賭けますか?」

 私がそう問い掛けると、ケルヴァンは窓から離れ、ソファーに座り直します。

 その時、スミスがお茶会の用意ができたと呼びに来ました。あと、ちょっとした報告も。

「飛び入り参加したい方がいらっしゃいましたが、正式に招待されておりませんので、ご遠慮いただきました」

 飛び入り参加者ってシオン様以外いないでしょう。

「構いませんわ。今日はケルヴァンとのお茶会ですもの」

「おい!!」

 ケルヴァンは焦ってますね。

 当然ですわ、この会話も聞かれてる可能性大ですもの。だから、ケルヴァンが必死で止めようとしているのです。

 でも、それを無視して、私はケルヴァンを再度お茶会に誘いました。

 何も、この世の終わりみたいな顔をしなくても、よろしいではありませんか……


しおりを挟む
感想 775

あなたにおすすめの小説

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

妹のことを長年、放置していた両親があっさりと勘当したことには理由があったようですが、両親の思惑とは違う方に進んだようです

珠宮さくら
恋愛
シェイラは、妹のわがままに振り回される日々を送っていた。そんな妹を長年、放置していた両親があっさりと妹を勘当したことを不思議に思っていたら、ちゃんと理由があったようだ。 ※全3話。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

婚約者が、私より従妹のことを信用しきっていたので、婚約破棄して譲ることにしました。どうですか?ハズレだったでしょう?

珠宮さくら
恋愛
婚約者が、従妹の言葉を信用しきっていて、婚約破棄することになった。 だが、彼は身をもって知ることとになる。自分が選んだ女の方が、とんでもないハズレだったことを。 全2話。

【完結】「『王太子を呼べ!』と国王陛下が言っています。国王陛下は激オコです」

まほりろ
恋愛
王命で決められた公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢との婚約を発表した王太子に、国王陛下が激オコです。 ※他サイトにも投稿しています。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 小説家になろうで日間総合ランキング3位まで上がった作品です。

【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」 物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。 ★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位 2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位 2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位 2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位 2023/01/08……完結

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。