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貴方がそれを望むのなら

第二十二話 話し合い

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 陽がどっぷりと暮れてから、私はシオン様との話し合いのために砦に足を運びました。

 昼間は仕事がありますからね、それが終わってからとなると、それなりの時間になってしまいます。

「少し話したいことがあります、時間はよろしいでしょうか、シオン様」

 ノックをしてから、返事を待たずに、私はスミスを同行させ執務室に入ります。行儀が悪いですけど、ちょっとした悪戯ですわ。

 予期せぬ急な来訪だったのでしょう。シオン様は焦りまくってますわ。どんな高ランクの魔物を束で相手しても焦らない方が、小娘一人に焦っています。ほんとに、可愛らしい方ですわ。

 そう想っていても、顔には出しませんよ。いつも以上の、無表情で接します。これもまた、お仕置きですわ。

「セっ、セリア!!」

 私は焦るシオン様を一瞥いちべつしてから、備え付けのソファーに座ります。

 本当なら、焦るシオン様をじっくりと観察したいのですが、話し合いに来たのです。ここはグッと我慢をし一瞥だけにしました。当然、焦るシオン様は魔法具で撮影してますので、あとで堪能しますわ。

「お座りになったらどうです」

「そ、そうだな」

 私に促されて、シオン様は向かいのソファーに座ります。

 いつもは、私の隣なのに……少し、寂しいですわね。

「単刀直入に申します。あの女とその一族全てを、皇国から追放いたしました。そのまま放置すれば、皇国は赤竜様によって滅ぼされていましたから。なので、あの女は隊から除籍し、抹消してくださいね」

「……赤竜様に皇国が滅ぼされる? どういうことだ?」

 その疑問はもっともですね。

 私はスミスが淹れてくれた紅茶を一口飲んでから答えます。

「あの女の一族は、大罪を犯し、竜族の一柱である赤竜様を怒らせ、神の鉄槌を過去に受けております。まさか、生き残りがいるとは……そしてまた、学習もせず、同じ過ちを繰り返そうと画策するとは思いもしませんでしたわ」

「大罪?」

「竜族にとって、一番大切な者を排除しようとしたのですよ。赤竜様の番様に、無味無臭の毒を飲ませようとしたとか。自分たちより劣る劣等種が、番になることが許せないという、身勝手な理由で。竜族を病的なまでに信仰する狂信者、それが、あの女の一族、リュウシュウ族ですわ。ここまで言えばわかりますね、シオン様」

 言い終わらないうちに、シオン様は真っ青になって、少し身体が震えています。

 おそらく、想像したのでしょう。

 私がリュウシュウ族に排除される様を――

 シオン様は言葉が発せなくなっています。構わずに、私は続けました。

「リュウシュウ族が生きていたこと、そしてまた、未遂とはいえ、同じことを繰り返そうとしていたこと。これがどういう惨事を招くか理解できますか? リュウシュウ族のせいで、我が皇国が焼け野原になりかけたのです。故に、それを避けるために、私自身が彼らに手を下しました。遠からず、リュウシュウ族は完全に滅びるでしょう」

 私のとった行動は間違いではありませんわ。でも……それを顔色変えずに行う自分を、シオン様はどう思うのでしょうか。

 騙していたとはいえ、あの女は明らかに、シオン様に好意を抱いていました。シオン様自身も、そういう感情ではなかったとはいえ、大事に想っていたのは事実ですから。

「…………そうか、すまなかった」

 なじられることはないと思っていましたが、まさか、謝罪されるとは思っていませんでした。

「……謝られるとは、思っていませんでしたわ。てっきり、わかったと仰られるとばかり」

「俺のせいで、嫌なことをさせたんだ。誠心誠意、謝るのが当然だろ。すまなかった、俺に隙があったばかりに、セリアたちにも皇国にも迷惑を掛けた」

 シオン様は深々と頭を下げ、謝罪を繰り返します。

 今度は、私が焦りましたわ。別に頭を下げて欲しいと思っていませんでしたから。

 謝罪だけで、「責任をとります」って口にしないのを、無責任だと、他の者が見たら思うかもしれません。

 でも、この場にいる私とスミスは、そうは思わない。反対にそう言われたら、そっちの方が無責任だと思います。

 だって、シオン様は護りの要。守護神ですよ。そう簡単に、立場を放棄などできません。口にすることも許されないのです。

「顔を上げてください、シオン様。別に、私は責めたりはしませんから。シオン様らしいとは思っていますけど。ただ……二度目は許しませんよ。それと、お仕置きは継続ですから。一か月間、私と接触することは禁止します。あと、お母様とケルヴァンに謝罪してくださいね。迷惑を掛けましたから」

「…………わかった」

 この間はなんでしょうね。

 でも、きちんと話せてよかったですわ。胸の内が少しだけ軽くなりました。



 これは後日の話しなのですが、お祖父様にシオン様のお仕置きの件を伝えたら、顔色が真っ青から真っ白になって、泣きそうな顔でガタガタと震えていましたわ。お祖母様はニコニコと微笑んでいましたが……

 この温度差は……

 竜族にとって、番に触れられないってことは、それまでに恐ろしいことですの。そう言えば、私が継続って言った時、完全に表情がなくなってましたわね。

 大丈夫ですよね……たぶん。







☆☆☆

 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

 Xに載せていますが、10月8日に「婚約破棄ですか。別に構いませんよ(1)」の文庫が発売されます。

 これも、応援してくれる読者の皆様のおかげです。

 本当に、ありがとうございます。

 心から感謝の気持ちを込めて。


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