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貴方がそれを望むのなら
第二十一話 皇国に仇なす者は許しません
しおりを挟む私の足下には、屋敷を襲ったリュウシュウ族の残党と雌猫が、仲良く並んで、額に床を擦り付けています。私の侍女と従者の補助付きで。
素直に下げないのが悪いのですよ。
それにしても、学習能力がないのかしら。いくら足掻いても、貴方たちの腕で振り払えるわけありませんのに。足掻けば足掻くほど、額から血が出てますね。まぁ、多少裂けても問題ありませんから。
私は、両手、両足を拘束されている彼らの前に立ち、現実を教えてあげようと思います。指示は出しませんが、補助している配下が罪人の頭を掴み上半身を起こします。
皆さん、なかなか、良い目をしてますね。そんなに私が憎いですか。拘束が解ければ、一斉に飛びかかってきそうですね。
さて……そろそろ、最後の仕上げをいたしましょう。
「貴方たち、魔術師さんに感謝することね。彼女の命乞いのおかげで、貴方たちは牢から出られるのですから」
そう告げながら、私は小瓶に入った砂を見せます。
わかる方にはわかるようですね。三分の二はわかりませんか……雌猫は、わかったようですね。猿轡を噛まされているので、なにを仰っているかは理解できませんが、その唸り声で、貴女の怒り具合が計れますね。
「私に怒りの矛先を向けるのはおかしくありませんか? 身体を維持できなくなるまでに、魔法を使わせ酷使させたのは誰ですか? それに、魔術師さんが使用していた魔力回復のポーション、あれ、劇薬ですよ。知っていましたか? 魔石を粉にしたものを使用してますね、あれは副作用があまりにも強過ぎるので、この大陸では使用禁止になった作製法ですよ。知りませんでした? まぁ、知らなくて当然ですね。隠れて住まなくてはならない、罪人の一族ですからね」
まだ、そんなに暴れようとする力が残っているのですね。よかったですわ。ならば、安心して処罰ができますから。話している間に準備も整いましたし、始めましょうか。
「安心してください、命までは取りはしませんわ、約束なので。極刑の代わりに、鞭打ちの刑で許してあげます。三十回耐えてくださいね。その後、国外までお連れしますわ」
私はそう告げると、踵を返します。鞭打ちの音を聞いて喜ぶ趣味はありませんから。
刑を執行する者には、殺さないよう伝えてあります。瀕死にはなるでしょうが、後で低級ポーションを飲ますように指示しているので、多少の後遺症が出ても歩けるでしょう。
歩けないと困るのですが……復讐に燃えている彼らなら、無事他の仲間の元に辿り着けるでしょう。念のために監視はつけておきますが。
「お疲れ様です、セリア様。無事、片が付いてよかったです」
執務室に戻り椅子に座ると、スミスが甘めのミルクティーを淹れてくれました。
「ほんと、落とし所を提供してくれた魔術師さんには感謝ですね。それで、監視をする者に例の件は伝えてますね」
「はい、伝えております。二度と、皇国に足を踏み入れることのないように」
「くれぐれもお願いしますね」
私を憎み復讐心を抱くように、あえて彼らを焚き付けました。復讐心は時に、思いがけない力を発揮しますからね。
とはいえ、これ以上皇国に足を踏み入れさすほど、私はお人好しではありません。皇国に仇なす者を許すほど甘くもありませんわ。
それに、もう二度とシオン様に近付けさせたくはないのです。
「……今回は、完全に私の落ち度ですわ。まさか、あのような手を使って、懐に入り込むなんて…………」
甘すぎましたわ。これからは、より一層、シオン様の身辺に注意しないといけませんね。
たぶん……シオン様は雌猫のことを訊いてはこないでしょう。だけど、私の隣に立つシオン様に言わないでおくのは違うと思います。
少し休んでから、話にいかないといけませんね。これから、長い時をともに歩く夫婦なのですから、腹を割って話さないと、その時、シオン様の若い頃の話も聞けたら嬉しいですわ。あっでも、お仕置きはしばらく続行ですけどね。
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