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貴方がそれを望むのなら
第十九話 魔術師
しおりを挟むできる限り優しく声をかけたのに、より一層、憎しみがこもった目で睨まれてしまいました。魔術師さんの仲間を捕縛した時に、彼女のフードが外れてししまったので、ようやく、魔術師さんの顔が拝めましたので。
それで気付いたのですが、この顔、どことなくあの雌猫に似ていますね。髪色は違いますが。もしかして、姉妹かしら。ちなみに、あの雌猫はすでに捕獲済みですけどね。
「お茶が冷めてしまいますよ、どうぞお座りになって」
座るよう、再度有無を言わさない口調で強く促します。
本当に渋々ですが、魔術師さんは一人掛け用のソファーに腰を下ろしました。せっかく用意したお茶には、手をつけようとはしませんわ。まぁ、そうでしょうね。敵からの施しなどいりませんもの。それに、毒の類いが混入していると警戒してるのでしょう。当然ですよね。
「…………」
親の仇のような目で、魔術師さんはカップを睨み付けています。彼女なら、中になにかが混入しているくらいわかりますよね。
「そのお茶の中には、上級ポーションが入っています。植物性の毒消しの効果もありますので、お飲みになって。少しは体が楽になりますよ」
どういう製方法かはわかりませんが、魔術士さんが飲んでいた魔力回復のポーションは、植物を原料にしていると考えたのです。あの集落で、自由に手に入るのは植物ぐらいでしょう。あと、魔物から取れる魔石ぐらいですね。たぶん……あのポーションには魔石を粉にして入れてますわね。効果は絶大ですが、依存性があり、使いすぎると廃人になるので禁止されています。
とはいえ、魔石に関しての毒消しは、おそらく、今の魔術師さんの命を脅かすものになるでしょう。矜持からか、平然と座っていますが、かなり辛いはず。それこそ、血を吐くくらいわね。
「余計なお世話よ!!」
そう吐き捨てると、魔術師さんはテーブルに置いてあったソーサーごと、カップを手で払い除けました。床には、壊れた食器の破片が散らかってます。侍女たちがあっという間に片しましたわ。
「興奮すると、咳き込みますよ」
言った通り、魔術師さんは激しく咳込みます。すると、何度も嗅いだことがある、鉄の錆びたような臭いが部屋に充満します。食道もただれているようですね。
「……う…るさい」
この悪態でさえやっとのようですね。これでは、話もできませんね。仕方ありませんわ。私はスミスに目配せをします。私の意図を理解しているスミスは、魔術師さんの背後に移動し、無理矢理、上級ポーションを飲ませました。
「これで、少しは話せるようになったかしら。魔術師さん、少し私とお話しませんか?」
私がそうにっこりと微笑みながら言うと、苦虫を噛み潰したようような表情をして、私を睨み上げます。
「お前のような、下等種族と離すことなどないわ!!」
圧倒的な実力差。
まざまざとそれを見せ付けられても、魔術師さんは虚勢を張り続けています。そうしないと、なけなしの矜持が保たれないのでしょう。
「下等種族ね……前も、私に対して同じことを口にしていましたが、その下等種族にここまでやられている貴方がたは、一体なんなのでしょうね。人族以下ですか? 私に教えてください」
答えることができないのを知りながら、私はお父様直伝の黒い笑みを浮かべながら尋ねます。
歯を食いしばり、歯軋りする魔術師さん。
仲間は全員捕縛済み。当然、屋敷の外にいる連中も。唯一、捕縛されていないは魔術師さんだけ。
つまり、彼女の態度一つで仲間の命が左右する局面なのです。とはいえ、そう考えているのは魔術師さんだけで、そもそも最初から、誰一人命を取るつもりはありません。だって、呪いを振りまいてもらわないといけないでしょ。無言の圧力ですわ。
さて……場面は整いましたが、どう落ちどころを持っていきましょうか。私の腕の見せ所ですね。
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