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貴方がそれを望むのなら
第十八話 奇襲
しおりを挟む魔術師が服用しているポーションは別として、あの魔術師が健全なハンターで犯罪歴がなく、リュウシュウ族でさえなかったら、まず間違いなく口説き落としていましたね。とても優秀な方を、みすみす見過ごさなければならないなんて……まぁでも、今の様子なら、声をかけることはしませんね。
心底残念ですわ。そして、惜しくもなります。同時に、悔しくて、腹立たしい気持ちになりましたわ。
そんな怒りモードの私に、スミスがある提案をしてきました。
「夜まで待ちますか?」
理由は、私が、魔術師の身体を気にかけていたからでしょう。パーティーの時間を早めても問題ないということですね、さすがですわ。どのような状況下にあっても、私の側近がやられることなど一切ありませんから、特に心配はしていませんけど。
「…………その必要はありませんわ。集落を壊滅させ、同族に呪いをかけた者に、手を差し出されたいとは思わないでしょう。それに……考えていた以上追い込まれているようですね。どうやら動くようです」
少し考えてから答えます。そして、侍女に紅茶を一人分追加するように命じました。
私なら、敵からの情など絶対に拒絶しますわ。次の瞬間、死が待っていたとしても――
それが矜持ですから。
リュウシュウ族の要は、ただ一人の魔術師。
魔術師以外の戦闘力は、よくてCランクぐらい。あの雌猫もそれくらいでしたね。魔力量と同様、戦闘力もある程度は推し量れますからね。魔力量ほどではありませんが。
Cランクと言っても、身体の強化魔法をかけてくることは容易に想像できます。だとしても、Bランクぐらいでしょう。よくいって、Bプラスぐらいですね。複数の者に施すのだから同然でしょう。あ~ほんとに、優秀ですね。
つまり、その人物を捕らえれば簡単に終結します。
そんなこと、子供でも少し考えれはわかることですわ。なのに、魔術師は前線に出てきました。結果、私たちに姿をさらしましたわ。
おそらく、出なければならなかったのでしょうね。まぁ……そこまで、矜持をズタズタにしてなぶったのだからしょうがないでしょう。
リュウシュウ族にとっては、最後の悪足掻き。もしくは、私に対し一矢報いようと考えたのでしょう。総力戦ですね。でも、全てバレていますよ。貴方たちの動きがね。
それに、私にはその道のプロが控えてますから。彼らの得意分野ですよ、この状況は。なので、私は目の前にいる魔術師さんに集中しましょうか。
「……よくお越しになりましたね、リュウシュウ族の魔術師さんと仲間の皆様方」
目深くフードを被っている魔術師さんに、驚くことなく普通に話しかけます。なんなら、紅茶もご用意させていただきました。一人分だけ。
なので、外野の方々には少しの間眠っていただくことに。スミスの足元で、仲良く折り重なっています。控えていた侍女が引き摺りながら退室しました。どこに連れていくのでしょう。退室の際に見せた笑顔が、とても怖かったのは秘密です。
「…………」
フード越しでも、私を憤怒の目で睨み付けていることぐらいわかります。と同時に、かなり動揺しているのもわかりますわ。
まさか、気付かれているとは、つゆほどにも考えていなかったのでしょうね。ましてや、淹れたての紅茶。全て私たちに把握されていたことが、この一瞬で理解したようです。完全に固まっていますわ。でも、冷静さは失ってはいません。
私はにっこりと微笑むと、魔術師に話しかけます。
「裏をかいての昼の襲撃ですか……まさか、貴方本人が乗り込んでくるとは計算外でしたね。それにしても、すでに勝負がついているのに、また仕掛けてくるなんて、本当に困った方たちですね」
わざとらしく溜め息を吐きます。
「…………認識阻害の魔法を解除していないのに……なぜ?」
やっと、口を開いてくれましたわ。とても可愛らしい声ですね。見た目は私と大差ないようです。
「理由は一つしかありませんよ。魔術師である貴女なら容易にわかるでしょう。認識阻害や鑑定魔法は、行使する者より、される側が高ランクだった場合効きませんわ」
あえて、敵である私から告げられて、かなり動揺していますね。心と矜持がさらに傷付いたようです。表情を隠していても、手に取るようにわかりますよ。呼吸の回数、体温の上昇、鼓動の早さで。
そして、匂い――
「立っているのも辛いのでは? どうぞ、お座りになって」
私は無言を貫いている魔術師さんに、そう声をかけました。
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