婚約破棄ですか。別に構いませんよ

井藤 美樹

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貴方がそれを望むのなら

第十四話 現実を知りなさい

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「ケルヴァン、さぁ、一緒に砦にいきましょうか」

 とてもとても青い顔をして首を横に振ってますが、こうなった以上、最後まで付き合ってもらいますわ。

 さすがに、腕を組んだり、手を握ったりはしませんよ。一緒にいくという所が大事なのです。だって、あの雌猫がなかなか離れようとはしませんからね、ならば、シオン様からきていただくのが一番効率が良いでしょう。

 それは私の願望ですね。

 おそらく、シオン様は雌猫と一緒でしょう。もちろん、雌猫をシオン様から離す玩具はちゃんと用意してますわ。

 雌猫が離れた後、お母様が急いで作ってくれた解毒剤を飲ませないといけません。素直に服用してくれるとは思えませんけど……まぁそこは、臨機応変にいきましょう。

「嫌だと言っても、逃がしてくれないよな」

 なに、当たり前のことを確認するのでしょう。

「当然、逃がしはしませんわ。乗りかかった船です、最後まで乗ってもらわないと困りますよ」

「それ、全然違う使い方じゃねーか!! 乗りかかった船じゃなくて、お前が勝手に乗せたんだろーが!!」

 耳元でキャンキャン吠えられても五月蝿いだけです。でも、この私に臆することなく言ってくるのは、別に嫌な気はしませんわ。

「ケルヴァンは友人の願いをきいてはくれないのですか?」

「じゅうぶん、聞いてやってる気がするのは俺の勘違いか!?」

「勘違いですね」

 よく、男女間に友情は存在しないと恋愛小説などに書いてありますが、友情は存在するのです。

 そんなじゃれ合いをしているうちに、砦に着きましたわ。

「……俺は今日、休みだぞ」

「いい加減、腹を括ってください、ケルヴァン」

 以前のシオン様なら、私がケルヴァンに近付くのさえ許さなかったし警戒もしてましたが……今は、警戒一つされてはいませんね。現に、ケルヴァンが屋敷に泊まっていることを許しているのです。

 それだけ、私から関心が薄れたということでしょうね。

 それが薬物と雌猫のせいなのか――

 それとも、シオン様自身の考えからなのか。

 どちらにせよ、解毒した後でシオン様に直接訊けばよいでしょう。

 ついこの間までは、私の隣にはシオン様がいて、一緒に未来に夢を見、語ってきたのに……

「直接対決にきたんだろ。なら、そんな顔をするな。今にも泣きそうな顔をしてるぞ」

 驚きましたわ。どうして、私が泣きそうだとわかったのでしょう。私は皇女です。常に表情を崩さないように訓練しているのに。

「これでも、俺は元王族だぞ。嘘の笑みくらい見抜ける」

「……でしたね、完全に忘れてましたわ」

 ケルヴァンの言葉に思わず笑ってしまいました。笑ったの、久しぶりですわ。

 そんな会話を、ケルヴァンとしている時でした。

 予想より早く、シオン様と雌猫が一緒に登場です。砦ではなく、町の方から。

「――なにをしている、セリア」

 久しぶりに聞くシオン様の声。明らかに怒気を含んでますが、とても艶のある良い声ですわ。私の目を見てくれたのも久しぶりですね。

「おかしなことを訊きますね、シオン様。砦に向かう理由は一つだけですわ。魔の森に潜りにきたのです」

 声、震えていませんよね。

 今まで、様々な局面に対峙してきましたが、これほどやり難くて、精神が削られるのは初めてです。だからといって、誰かと代われるものではありません。

 私が直接対峙し、勝たなければならないのです。

「ケルヴァンと一緒にか?」

「ええ。ちょうど休みだと聞きましたから、誘いましたの。いけませんでしたか?」

「ケルヴァンは男だぞ」

「それ、盛大なプーメランですよ、シオン様。それとも、自分は許されて私は許されないと仰いたいのですか? 私は友人であるケルヴァンと、魔の森に潜りますので、失礼」

 唇を噛み締めているシオン様を見て、私にまだ想いが残っていることが知れて嬉しい。それがただの執着かはわかりませんが、それでも嬉しくてたまらないのです。

 そんな気持ちをおくびにも出さずに、私はシオン様に背を向けます。そして、さも思いだしたかのように振り返り言いました。

「そうそう、配下から聞きましたが、魔の森に人形ひとがたの魔物の集落が発見されたそうなのですが、シオン様はお聞きになっています。当然、報告が上がってますよね。私の方にも上がってきてますし」

 私の台詞に表情をなくす雌猫を見て、正確に伝わってるようで安心しましたわ。

「…………その魔物をどうするつもり?」

 雌猫がワナワナと震えながら、絞り出すような小さな声で訊いてきます。

「当然、討伐しますわ」

「あんたみたいなお姫様に討伐なんてできないわよ!!」

 雌猫が怒鳴ってますわ。

 そんな雌猫を見て、私はクスッと嗤います。

「知らないのですか? 私、これでもSSランクのハンターですけど。疑うのでしたら、隣にいる方に訊けばよろしいですわ」

 そう教えてあげると、呆然としている雌猫と、私とケルヴァンを睨み付けているシオン様を置いて、私は友人と一緒に砦にある受付場に向かって歩き出します。

 すると、雌猫が走り出していきましたわ。間違いなく、自分の家族の元に戻るのでしょう。

 すでに、討伐は滞りなく完了していますわ。

 さて、邪魔されないよう張っていた結界を解きましょうか。そうでないと、接触できませんから。

 現実を知りなさい。

 その身体で――


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