300 / 342
貴方がそれを望むのなら
第十四話 現実を知りなさい
しおりを挟む「ケルヴァン、さぁ、一緒に砦にいきましょうか」
とてもとても青い顔をして首を横に振ってますが、こうなった以上、最後まで付き合ってもらいますわ。
さすがに、腕を組んだり、手を握ったりはしませんよ。一緒にいくという所が大事なのです。だって、あの雌猫がなかなか離れようとはしませんからね、ならば、シオン様からきていただくのが一番効率が良いでしょう。
それは私の願望ですね。
おそらく、シオン様は雌猫と一緒でしょう。もちろん、雌猫をシオン様から離す玩具はちゃんと用意してますわ。
雌猫が離れた後、お母様が急いで作ってくれた解毒剤を飲ませないといけません。素直に服用してくれるとは思えませんけど……まぁそこは、臨機応変にいきましょう。
「嫌だと言っても、逃がしてくれないよな」
なに、当たり前のことを確認するのでしょう。
「当然、逃がしはしませんわ。乗りかかった船です、最後まで乗ってもらわないと困りますよ」
「それ、全然違う使い方じゃねーか!! 乗りかかった船じゃなくて、お前が勝手に乗せたんだろーが!!」
耳元でキャンキャン吠えられても五月蝿いだけです。でも、この私に臆することなく言ってくるのは、別に嫌な気はしませんわ。
「ケルヴァンは友人の願いをきいてはくれないのですか?」
「じゅうぶん、聞いてやってる気がするのは俺の勘違いか!?」
「勘違いですね」
よく、男女間に友情は存在しないと恋愛小説などに書いてありますが、友情は存在するのです。
そんなじゃれ合いをしているうちに、砦に着きましたわ。
「……俺は今日、休みだぞ」
「いい加減、腹を括ってください、ケルヴァン」
以前のシオン様なら、私がケルヴァンに近付くのさえ許さなかったし警戒もしてましたが……今は、警戒一つされてはいませんね。現に、ケルヴァンが屋敷に泊まっていることを許しているのです。
それだけ、私から関心が薄れたということでしょうね。
それが薬物と雌猫のせいなのか――
それとも、シオン様自身の考えからなのか。
どちらにせよ、解毒した後でシオン様に直接訊けばよいでしょう。
ついこの間までは、私の隣にはシオン様がいて、一緒に未来に夢を見、語ってきたのに……
「直接対決にきたんだろ。なら、そんな顔をするな。今にも泣きそうな顔をしてるぞ」
驚きましたわ。どうして、私が泣きそうだとわかったのでしょう。私は皇女です。常に表情を崩さないように訓練しているのに。
「これでも、俺は元王族だぞ。嘘の笑みくらい見抜ける」
「……でしたね、完全に忘れてましたわ」
ケルヴァンの言葉に思わず笑ってしまいました。笑ったの、久しぶりですわ。
そんな会話を、ケルヴァンとしている時でした。
予想より早く、シオン様と雌猫が一緒に登場です。砦ではなく、町の方から。
「――なにをしている、セリア」
久しぶりに聞くシオン様の声。明らかに怒気を含んでますが、とても艶のある良い声ですわ。私の目を見てくれたのも久しぶりですね。
「おかしなことを訊きますね、シオン様。砦に向かう理由は一つだけですわ。魔の森に潜りにきたのです」
声、震えていませんよね。
今まで、様々な局面に対峙してきましたが、これほどやり難くて、精神が削られるのは初めてです。だからといって、誰かと代われるものではありません。
私が直接対峙し、勝たなければならないのです。
「ケルヴァンと一緒にか?」
「ええ。ちょうど休みだと聞きましたから、誘いましたの。いけませんでしたか?」
「ケルヴァンは男だぞ」
「それ、盛大なプーメランですよ、シオン様。それとも、自分は許されて私は許されないと仰いたいのですか? 私は友人であるケルヴァンと、魔の森に潜りますので、失礼」
唇を噛み締めているシオン様を見て、私にまだ想いが残っていることが知れて嬉しい。それがただの執着かはわかりませんが、それでも嬉しくてたまらないのです。
そんな気持ちをおくびにも出さずに、私はシオン様に背を向けます。そして、さも思いだしたかのように振り返り言いました。
「そうそう、配下から聞きましたが、魔の森に人形の魔物の集落が発見されたそうなのですが、シオン様はお聞きになっています。当然、報告が上がってますよね。私の方にも上がってきてますし」
私の台詞に表情をなくす雌猫を見て、正確に伝わってるようで安心しましたわ。
「…………その魔物をどうするつもり?」
雌猫がワナワナと震えながら、絞り出すような小さな声で訊いてきます。
「当然、討伐しますわ」
「あんたみたいなお姫様に討伐なんてできないわよ!!」
雌猫が怒鳴ってますわ。
そんな雌猫を見て、私はクスッと嗤います。
「知らないのですか? 私、これでもSSランクのハンターですけど。疑うのでしたら、隣にいる方に訊けばよろしいですわ」
そう教えてあげると、呆然としている雌猫と、私とケルヴァンを睨み付けているシオン様を置いて、私は友人と一緒に砦にある受付場に向かって歩き出します。
すると、雌猫が走り出していきましたわ。間違いなく、自分の家族の元に戻るのでしょう。
すでに、討伐は滞りなく完了していますわ。
さて、邪魔されないよう張っていた結界を解きましょうか。そうでないと、接触できませんから。
現実を知りなさい。
その身体で――
341
お気に入りに追加
7,462
あなたにおすすめの小説
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。

妹のことを長年、放置していた両親があっさりと勘当したことには理由があったようですが、両親の思惑とは違う方に進んだようです
珠宮さくら
恋愛
シェイラは、妹のわがままに振り回される日々を送っていた。そんな妹を長年、放置していた両親があっさりと妹を勘当したことを不思議に思っていたら、ちゃんと理由があったようだ。
※全3話。

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です

婚約者が、私より従妹のことを信用しきっていたので、婚約破棄して譲ることにしました。どうですか?ハズレだったでしょう?
珠宮さくら
恋愛
婚約者が、従妹の言葉を信用しきっていて、婚約破棄することになった。
だが、彼は身をもって知ることとになる。自分が選んだ女の方が、とんでもないハズレだったことを。
全2話。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。