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貴方がそれを望むのなら

第十三話 緩やかに滅びなさい

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 呪いをかけるのは、そう難しいことではありません。

 ただし、闇属性を持っていればの話ですが……つまり、そういうことですわ。あまり使用することがないので、私が闇属性持ちだと知る人は少ないでしょう。

 闇属性は攻撃力はどの属性よりも群を抜いて高いのですが、それに比例して使う魔力量も多いのです。簡単に言えば、これといった時の隠し玉的なものですね。瀕死な状態で使用したら、間違いなく術者も死にますわ。

 攻撃に使っているわけではないので、今回はさほど魔力は消費していません。まぁそれでも、ごっそりと削られましたけど。

 呪いの発動のせいで、この場にいるリュウシュウ族の者は全員、苦悶な表情を浮かべながら倒れています。

 私たちはそれを放って、学園ではなく屋敷に戻ってきました。
 
 戻る前に、薬品はすべて没収し、研究内容と製造方法を確認し回収した上で、すべてを焼き払いました。あと、彼らが住む家もなにもかも――

 目を覚ましたら、さぞかし絶望するでしょうね。その顔が間近で見れなくて、心底残念ですわ。

 お茶と軽食をとりならがら、鑑賞はしますけど。

「その場で全員の命を取らなかったのね……甘いって、スミスに怒られるんじゃない? それに、この場にいるのが全員とは限らないよね」

 私が絡むと平和主義者の仮面をとるお母様の言葉に、満面な笑みを浮かべます。

「その心配は無用ですわ。少し、呪いに細工をしましたの」

 ソーサーの上にカップを戻すと私は答えました。

「細工?」

「付与って申した方がよろしいかも。この呪いは伝染しますの。それも、リュウシュウ族の血を引くものに対して。回避したければ、触らなければよろしいのです」

 私の答えに、お母様は首を傾げながら答え合わせをしています。お祖父様は黙ってそれを聞いていました。

「つまり、それを知らない、倒れているリュウシュウ族は、知らず知らずのうちに呪いを伝染させ、その呪いによって、子孫が望めなくなるってこと? もし、他にもリュウシュウ族の生き残りがいたとして、奴らが助けを求めても、接触すれば呪いは伝染するの?」

 さすがお母様、あの魔法陣と私の言葉で正解を導き出せてますわ。

「そうですね。そして、呪いを伝染された者は、また知らず知らずのうちに自分が伝染させることになります。……ゆるりと、リュウシュウ族を滅ぼすと言ったでしょ。集落を滅ぼすとは言ってませんわ」

「それって、ねずみ算式に増えるってことよね、効力が失わないまま……なかなかえげつないことをしたわね。まるで、アレのホイホイのようじゃない」

 お母様が意味不明なことを言います。おそらく、お母様が元いた世界にも似たようなものがあったのですね。

「アレのホイホイ?」

「あの焦げ茶のフォルムにテカテカ光っているアレよ!! やたら、繁殖力が高い」

 そこまで言われて、察しが付きました。

「以前に、お母様が仕掛けていたものですね。毒入りの餌を食べさせたアレが媒介となって、他のアレを死滅させたアレですね……確かに、根本的にはそっくりですね」

「でしょう!!」

 お母様は想像したのか、顔が緩みぱなしです。本当に、平和主義者かしら?

「常々、この魔女は娘は父親似ともうしておったが、どこが父親似だ? まんま、お前似ではないか」

 黙って母娘の会話を聞いてたお祖父様が、少々疲れ気味で仰います。

「えっ!? 私とお母様が似ているのって、外見だけですよ、お祖父様」

 そんなこと始めて言われて、ちょっと吃驚したけど、なぜか焦ります。それを見て、お母様が拗ねてしまいました。

「気付いておらぬのか、思考回路がたまに一致しているぞ。まぁそれはよい。セリア、我らの竜族の尻拭いすまなかった。あいつにも、事の顛末を話しておこう。セリア、あらためて礼を言う」

 そう言うと、お祖父様はお祖母様の所に戻っていきました。

 リュウシュウ族の未来は、一度滅びかけた時に終わっていたのでした。それほどの罪を、リュウシュウ族は犯していたのです。

 そして、また性懲りもなく同じことを……

 今回は私が表立ってリュウシュウ族を潰しましたが、もし曖昧に解決をしていたら、お祖父様と前回リュウシュウ族に裁きを与えた竜が黙ってはいませんでしたわ。

 最低限配慮されたとしても、我が領土と魔の森が、壊滅的なダメージを受けていてもおかしくはありませんでした。なので、私も徹底的にするしかありませんでした。

 竜の怒りは、それほど凄まじいのです。

 そして、それが許される一族。人よりも遥かに偉い上位種なのです。私たちが太刀打ちできないくらいの。お母様はまた別ですが……

「で、あとは解毒薬ね」

 お母様が毒薬が入った瓶を、目の前で持ちながら言います。

「いつできますか?」

「今日中にはできるわよ。部屋借りれる?」

 お母様の言葉にスミスが反応し案内します。そこで気付きました。ケルヴァンが壁の前で固まっていることに。

「クラン君、ケルヴァンを部屋に。少し休ませてあげて」

 以前のクラン君なら、今のケルヴァンと同じ状態だったのに……成長しましたね。

「畏まりました」

 さて、一人になりましたね。どうしようかしら? 最大の難問が残ってますわ。

 血の海とまではならないと思いますが、それ相当の修羅場が待っているのは間違いないですわね。

 まだ救いなのが、あの雌猫を寝所に入れてはいないことですね。あと、町でも。雌猫が身体に触れるだけで、シオン様から性的に触れることはないと報告を受けています。

 関係性は親子に近いとか……

 それがいつ変化するかわかりはしませんわ。シオン様も男ですからね。それに、薬もあります。

 だからといって、許す気はもうとうないですけど。

 覚悟しておきなさい、二人とも。

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