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貴方がそれを望むのなら
第十話 これまでは余興ですわ
しおりを挟む生きるため以外の狩りって、あまり好きではありませんの。はたから見たら、好んで狩りそうに見えるようですけど。
だって、魔物でも森に棲む野生の動物にしても、人に害をなさない状態でその命を奪うのですから。追いかけ追い込めば、人を襲うのは当然ですわ。それを狩るなんて……悪趣味な行為ですね。討伐は違いますよ。あと、犯罪者はまた別ですよ。あくまで、趣味の狩りについてですわ。
でも、今回は私個人の問題。
特に今のところは犯罪者でもないのに、村を襲おうとしています。
胸の奥底にドロッとしたものが、また溜まるのを感じます。
これは消えることなく、増えていきます。このドロッとしたものが、私の中から消えることはないでしょう。愛しいシオン様に抱かれても。
村に入ってすぐに、村人の一人が私たちのことに気付きました。
呆れるほど、対応が遅いわね。それに、侵入者に対しての防衛が、まるで機能してはいませんわ。それどころか、塀自体ありませんもの。
ほんと、結界だよりっていうか……全振りというか……一度、一族すべてが破滅しそうになったのに。教訓を活かした欠片がほぼないですわ。どのような寂れた村にでもある塀が、そもそもありませんもの。跡さえもね。もしかして、それも結界に全振りですか? なら、呆れて言葉もでませんね。
「貴方たちが攻撃しない限り、私たちは攻撃いたしません」
慌てて逃げ出そうとしている村人の背中に向かって、私は声をかけます。
まぁ、これくらい大きな声なら、わざわざ伝言を頼まなくても大丈夫のようですけど。
待つこと五分ほどして、やけに厳つい男二人を引き連れ老人が現れました。
おそらく、彼が長老ですわね。
「これだから、人族は品も礼儀もない。下等生物だから、それを求めるのは酷じゃろうな」
開口一番、喧嘩売ってきましたね。
背後にいる二人が殺気立ってますわ。おや? 殺気の質が変わったと思ったら、スミスたちも戻ってきたようです。相変わらず、仕事が早いですね。
「すべて滞りなく」
「ご苦労様」
私はスミスたちを労います。
「我々に膝を付き、許しを請うこともできぬのか!!」
私がスミスたちを労うのが癇に障ったみたいですね。長老は私たちを怒鳴りつけます。両隣に控えていた厳つい男二人は、完全に戦闘態勢に入ってます。
「……ほとほと呆れますね。力の差を感じれないなんて、戦士失格ですわ」
「我々が人族に負けるわけなかろう!!」
その自信、いったいどこから出ているのでしょうか?
「たわけたことを。貴方がたご自慢の結界を破られても、そのようなことが言えますか」
冷たい目と低い声で言い放ちます。
「結界が破られた!? 嘘も大概にしろ!! おおかた、村の者の後をつけたのだろ!!」
内政を携わる中にもかつていましたわ、このような自信家が。こういう輩には、会話は通じませんね。
「ならば、ご自身の目で確認なさればよろしいのでは? あそこで、宙に浮いている石が魔石でしょ」
私の台詞に反応して、長老と男たちとは違う衣装をまとった者たちが慌てて確認します。
確認するまでもないのだけど。
「ほら、魔石が真ん中から裂けてますよね。これでおわかりになりましたか、長老様」
にっこりと微笑みながら言ってあげます。すると、私の予想通りに長老は心がポッキリと折れたのか、その場にへたり込んでしまいました。
「結界が邪魔で壊してしまいましたわ、長老様。――それで、なぜ私たちがここにいるのかおわかりになられますか?」
わざと長老の前に立ち、呆然とする長老を冷徹な目で見下ろします。
「私の番に対して汚い手を使い、近付いた報い、どのようにしてはらしましょうか。ご助言があれば伺いますわ。お祖父様、お母様」
後ろを振り返らずともわかりますわ。それほどの存在感をお持ちの方々ですから。まぁ……普通の方々は身体が震え、硬直するでしょうけど。目の前にいる長老たちのように。
これまでは余興でしたの。場を温めるための。本番はこれからですわ。
「さて、ここからは断罪の時間です」
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