婚約破棄ですか。別に構いませんよ

井藤 美樹

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貴方がそれを望むのなら

第七話 友を執務室に招待しました

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「――というわけで、リュウシュウ族の巣の捜索をします。魔の森に巣を造ってますので、冒険者に混じってお願いしますね。私は探索魔法で探ります」

 屋敷の執務室に戻ってきた私は、側近を集め指示を出します。あと、招待客も同席していますわ。空気化してますけど。

「同じ過ちを再び繰り返すとは、なにを学習しているのでしょうか……」

 呆れた口調で、そう溜め息混じりにスミスが呟きます。

「殺さなければいいと考えたのでしょうね。番を排除する――それが、殺すことと同じだって考えはしなかったのでしょう。まぁ、無茶をしても許されると思っているのでしょうね。その根拠はまったく理解できませんが」

 笑顔のまま忌々しそうに答えます。当然、目は笑ってませんわ。あら、ケルヴァン、なに子犬のように震えているのです?

「理解できる人はいないでしょう」

 スミスの言葉に頷きます。

「そうね、いないわね。でも、私たちが探すのはそのような思考を持っている者たちです。そのことを念頭に置いた上で、いつも通りに、慎重にかつ正確にお願いしますね」

「畏まりました」

 スミスが頭を下げます。すると、さっきまでガクガクと震えていたケルヴァンが、やっと口を開き尋ねました。

「……どうして、俺が拉致られたんだ?」

「拉致とは酷い言われようですね。招待したのに」

「あれを、招待とは言わない」

「そうですか? まぁ確かに、少々乱暴でしたね。ちょっとした八つ当たりですわ。魔物は討伐しましたのでご安心を」

 ケルヴァンは私の数少ない友人の一人です。戦闘中に襟首を掴んで強引に連れてきても、許してくれますよね。

「……一応、隊長には進言した。でも隊長は、不憫な生い立ちだからと、落ち着くまで目をかけてやったんだ。それがいつの間にか、あの距離になっていた」

 ケルヴァンなりに、拉致された理由を理解しているようでした。

「やっぱり、シオン様の優しさに付け入ったようですね」

 私の顔から笑みが消えます。

「確かに、不幸な生い立ちの奴は多い。冒険者や兵士、傭兵の大半は幼少期、生活に困っていた者だ。一人の人間に方入りするのはおかしいって言ったら、遠避けられた」

 ケルヴァンには魅力は通じなかったようですね。対象者はシオン様だけですか……

「遠避けられた? シフトを変えられました?」

「持ち場もな。今はちゃんと仕事をしてるから、表立って言うやつはいないけど、この状態が続けば不満の声は上がるぞ。意外にも、セリア様のファンは多いからな」

 意外にもって言葉が気になりますが、私を認め慕ってくれるのは嬉しいですわ。でも、砦での不和は避けたいですね。仕事に影響しますから。報連相もですが、士気が下がります。小さなミスが大きなミスに繋がるかもしれません。それは、直に働く者の命に関わりますからね。

「早々に決着を付ける方がいいですね」

 砦で働く者やシオン様の身体のためにも。

「それで、俺になにをしてほしいんだ?」

 そう訊いてくれるケルヴァンに、私はニッコリと微笑みながら答えました。話が早くて嬉しいですわ。

「ケルヴァンには、巣の捜索に加わってほしいのです」

 私がそう答えると、ケルヴァンは訝しげな表情をしました。

「どうかしましたか?」

「隊長の監視じゃないのか?」

 質問に質問で返されたよ。

「できるのですか? 持ち場もシフトも変更されてるのに」

「無理です」

 うん、潔いですね。

「早急に巣を見付けたいから、スミスやクラン君の手伝いをお願いしたいのです」

「わかった」

 引きつった笑顔で、ケルヴァンは了承した。

「なら、今日はここに泊まりなさい」

「いや、帰る!!」

 帰ったら、夜が明けてしまいますよ。明日からはしっかりと働いて貰わないといけないのですから。

 でもなぜ、そこまで嫌がるのでしょう。シオン様はこの頃、屋敷には戻ってきませんのに。臭いを気にしているのでしょうか? 客間に案内しますし、大丈夫ですわ。

「遠慮しなくていいですよ」
 
 私はにっこりと微笑みなから、友人の願いを却下しました。


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